2005年8月

ハードウェアとソフトウェア〜夏休み工作入門〜




今回は、思い切って理科系路線で行きます。題して「ハードウェアとソフトウェア」です。

アナログメディアが本格的にデジタル化されたのは、皆さんもご存じの通り、1982年にソニーとフィリップスが共同で開発したコンパクトディスクが最初です。(最初のCDプレーヤーは確か168,000円でした。)その後、デジタル化の範囲は、静止画(デジカメ…)、動画(DVD・デジタルビデオカメラ…)と急速に拡大し、現時点では全てのメディアがデジタル化されつつあると言っても過言ではありません。現状最大のアナログメディアであります放送も、あと数年先には完全にデジタル化(テレビ放送について)されるのは皆さんご存じの通りです。

そこで、今回のテーマは、夏休み工作の時期でもあり、デジタルとアナログの変換装置を自分で作ってソフトウェアを支えるハードウェアを実感してみるという話です。

CDに収録されているデジタル音声は、4万4千分の1秒ごとに、その時点の音の大きさを16ビットの2進数で表現するという極めてシンプルなものです。計算すればすぐ解るように、デジタル音声は1Mbps弱のシリアルデータということになります。(実際の電気信号は、左右2チャンネルあったりで、もっと複雑です。)この音声データは、当時のハードウェアの能力の限界のため加工も圧縮もされていません。ちなみに、デジタル動画像は、通常のテレビ程度の品質で約3〜5Mbps(圧縮後)、最も品質の高いハイビジョン信号で20Mbps程度となっています。一方、記録メディアとしてのDVDは10Mbps程度が限界で、そのため、今、次世代DVDの規格争いが熱を帯びています。

話が横道にそれてしまいましたが、上記の事情で、オーディオ信号のデジタル→アナログ変換については、比較的簡単に挑戦できます。とはいっても、その心臓部分は、さすがに手作りは難しく、専用のICを使います。
左の写真がその機能を持つ代表的なICです。その前後の機能もIC化されており、これらを組み合わせれば、CDのデジタル信号をアナログに変える装置が完成します。(右上が、その完成品、下は、少し回路は違いますが、これからハンダ付けする基盤です。)
などと偉そうにここまで書いてきましたが、恥ずかしながら、実は、まだ一度も完成させたことがないのです。これまで、何度もハンダ付けに失敗し、既に3回も基盤を無駄にしました。理由は、ICの足の間隔があまりに狭いためです。(足の太さは0.4mm、間隔は1mmしかありません。)このままではあまりに悔しいので、この夏休みには、もう一度挑戦するつもりでおります。
(これを読まれた方で、ハンダ付けが得意な方がおられましたら、是非ご支援下さい。また、ICの予備はたくさんありますので、挑戦される方には差し上げます。)

私たちアナログ世代は、真空管アンプを自分で設計して組み立てました。その時代の方がいい音が出たなどということは決してありませんが、それでも、「原理」が解っているのは強いなと思うことはよくあります。このIC時代・デジタル時代に、あらためてNAND回路やAND回路のICをハンダ付けしてみると(失敗の連続ではありますが)、デジタル信号を扱うということの「原理」のようなものが手触りを持って伝わってくるような気がします。

真空管から始まり、トランジスタ、IC(LSI)と進化してきたのは、コンピュータも同じです。ソフトウェアも、昔はOSに相当する部分から手作りしておりました。最近は、様々なミドルソフトと開発環境に恵まれ、ハードウェアからの距離は随分遠くなりました。勿論、その方がずっと生産性も高く、効率もいいのは間違いありませんが、その分「原理」から遠ざかったのも事実と思います。技術の進歩を支えているのは、一人一人の知的好奇心です。これから、この分野を担って行かれる若手のエンジニアの方々に、ソフトウェアの基盤を支えているハードウェアやミドルウェアに対しても、できるだけ興味を深めていただき、きちんと理解していただけるといいなというのが、オールド世代からのお願いです。


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