2005年7月

出張したらその土地の名産を買いましょう。




昔、ある上司に、「出張したらその地をできるだけつぶさに見聞すべし」と教えられたことがあります。確かに、その上司と出張した際には、国内海外を問わず、小心でまじめなサラリーマン(←私のことです)にとって、その気合いの入った見聞振りには、はらはらするようなところがありました。それから20年近くが経過した今、そのときの出張の目的や成果などはすっかり忘れてしまいましたが、それぞれの土地で見聞きしたことは鮮明に覚えております。古き良き時代の面影を残していた頃の話ですから、そのまま皆さんにこのやり方をお勧めするのは、いささか難しいのかもしれませんが、自分の目と耳で見ること聞くことの大切は身にしみてわかったような気がします。
この10年ほど、各地域の有力な企業向けのビジネスに携わっていたのですが、そのためにあちらこちらの街へ出張する機会がありました。その際には、前の上司の教えを思い出し、できるだけその街を見聞することにしておりました。最近は、交通が便利になったため、出張もたいていは日帰りかよくて前夜遅くの現地着というスケジュールのため、なかなかゆっくりと見聞の時間を取ることはできませんが、それでも、30分あれば、その街の目抜き通りを一通り見ることはできます。そこで、地酒と特産品のお土産ものを眺めていると、その街の特長や産業構造が何となくわかるような気がします。その街の人通りを眺めていると、その街の人々の年齢構成や賑わいの様子も感じることができます。その街が抱える悩み事のようなものにふと気づくことさえあります。そういう時間がとれなければ、せめて空港のレストランか売店で地元の名産品を買い求めるだけでもと思っています。(この理屈は、お土産を買うのが大好きな私に対する自己弁護の気持ちも大きいのですが。)
ご経験されておられる方もたくさんおられると思いますが、各地域を代表する企業には、お客様としては大変手強い方々が多いように思います。私自身、交渉の難しさにめげたこともよくありましたが、そういう際には、できるだけ、先ほど眺めた街並みを思い出すことにしておりました。各企業は、それぞれの地方の経済の中心として、間違いなくその街並を担っています。そういうお客様の誇りや気概を少しでも理解していれば、そのお客様の「がんばり」の根拠を実感できるように思ったからです。わずかばかりの見聞では、お客様と全く同じ気持ちでその街を見る事は難しいと思いますが、それでも、その街の銘酒や名物を知っている方が、はるかに理解できるような気がします。
少し大げさな結論になって恐縮ですが、あるいは、そんなことは当たり前だと仰る方もおられるかもしれませんが、私たちの仕事は、単にシステムを売るのではなく、システムを通じて、その街の活性化に少しでもお役に立つことだと私は考えています。


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