本屋さんのダイアナ
柚木 麻子 新潮社 2015年1月10日読了 ISBN:978-4-10-335531-1



読んでから1年近くも経ってしまった本の感想を書くのはさすがに難しい。(そんなに放置するのが悪いのだが。)

ただ、とても良い本だという印象は今でも残っている。読み始める時は、「現代の赤毛のアン」などという帯は如何なものかと思っていたが、読み終えてみると確かにその通りかなと思ったりもした。それほどページ数があるわけではないが、女性二人の半生を描いて、ボリュームの割に充実した本だと思った。

本屋大賞にもノミネートされたが、宜なるかなと思う。

きのうの影踏み
辻村 深月 KADOKAWA 2015年10月9日読了 ISBN:978-4-04-103207-7



辻村深月さんは、「島はぼくらと」で初めて読んだのでそういう作風の人かと思ったのだが、実は、この本の方が本筋の人みたいだ。これはこれでとても面白い。色々な作風で、色々な物語を書けるというのは素晴らしい才能に違いない。

本書は短編集なので、作品毎にいささか出来不出来があるのは致し方ないのかも知れないが、よくできた(と私が思った)ものは、なかなか切れ味鋭くて小気味いい。

彼女の本、もう何作か読んでみようと思う。

ところで、随分長く読書から遠ざかっていたことになる。思ったより忙しく、また、移動も多いのでちょっと本を持ち歩くのが面倒になっていた。そこで、ついにKindlePaperWhiteを導入。(以前も何冊かは電子書籍で読んでいたが、)本書は、本格的電子書籍導入第一号である。やはり、本は紙でなければと、今でも思っているが便利さには敵わないのかも知れない。

陽気なギャングの日常と襲撃
伊坂 幸太郎 祥伝社 2015年10月14日読了 ISBN:978-4-396-33521-2



Kindle利用第二弾。Kindleだからというわけでもないと思うが、本読み復活の兆し。もっとも、大好きな伊坂さんの「陽気なギャング」シリーズなので、おもしろくないわけがないということもあるのだが。

相変わらず、キャラの切れた4人組の抱腹行動記録。こういう本に何かしかつめらしいコメントを書くのも無粋なので特には何も書かないが、一言書くとすれば、伏線を何処でどう拾うかという伊坂術は、分かっていても、それでもはまってしまうところが、この本の面白さだと思う。

バイバイ、ブラックバード
伊坂 幸太郎 双葉社 2015年10月17日読了 ISBN:978-4-575-51565-7



読み始めるとなかなか止まらないのが、こういう本のいいところ。
最初は「繭美さん」の人相風体や言動にびっくりしてしまうが、やがてすっかり気持ちが彼女に移ってしまうのは、伊坂話術の真骨頂だろう。

男女の別れと出会いの断面をいくつか切り取って物語にするというのは、死神シリーズと少し似ている。そんなバカなというお話しの連続でも、何となく人生の喜びとか悲しみとかがきちんと伝わってくるのが素晴らしい。
こういう本の終わり方は難しいだろうなと思って読んでいたが、作者も少し終わらせ方には困ったのかも知れない。私は、もう少しキリッと終わってもと思ったのだが、これはこれでまあいいかという感じ。目くじらを立てるほどではないのかも知れない。

悟浄出立
万城目 学 新潮社 2015年10月23日読了 ISBN:978-4-10-336011-7



Kindleの「積ん読」解消。以前から買ってあったものを読んでいくことにする。

万城目さんの普段の著作をはちょっと色合いが違って、中国古典をベースにして人間についてきちんと考える本。(普段の本がきちんとしていないというわけでは無いが、ここまで真っ正面から来るものは少ないと思う。)
小生の知識では、何処までが既に物語りとして語られ、何処までが史実に基づくのか残念ながら判別できないが、それでも、大半は本書の創作だと思うし、そのできばえは素晴らしいと思う。

これだけの蓄積があればこそ、あの「万城目節」が可能になるのだとあらためて痛感。私ももう少し中国古典をきちんと読んでみなければと思う。(中国古典に限らずだが…。日本の古典は少しは読んだと思うが、それ以外は全然読めてない。元気なうちに読んでおかねば。)

ツナグ
辻村 深月 新潮社 2015年10月30日読了 ISBN:978-4-10-328321-8



これもKindle積ん読解消シリーズ。人の生き死にの断面を捉えた連作短編で、伊坂さんの死に神シリーズやバイバイブラックバードと似て無くもない。

これはこれでとても面白いと思う。連作なので、章によって好き嫌いができるのは仕方ないと思うが、例えば「待ち人の心得」は好きだけれど、「親友の心得」は余り好きにならない…。が、いずれにせよ、最後の「使者の心得」は要らないのではないかと何となく思う。種明かしの章ではあるが、ない方が(或いは別の組み立ての方が)ずっと余韻が残ったのではないかと思う。その点、よく似たしつらえでも伊坂さんの方が一枚上手かなと。

とはいえ、一気に読んでしまっているわけだし、面白いのは間違いない。

陽気なギャングは三つ数えろ
伊坂 幸太郎 祥伝社 2015年11月7日読了 ISBN:978-4-396-21026-7



一旦積ん読解消シリーズを中断して新作へ。このシリーズも三作目。こういうのを書き継ぐのは本当に大変だろうなと思う。(著者も本文の中でさりげなくそう書いている。)

マンネリにならないように、伏線と見せて全然伏線で無かったりと意表を突くことに少し苦労している感じ。勿論それはそれで面白いのだが…

さすがに次作はこの延長線上には難しいのだろうなと思うが、そこは伊坂さんのこと、またきっと鮮やかなやり口で次が出るのだろうなと(期待を込めて)願っている。

太陽のパスタ、豆のスープ
宮下 奈都 集英社 2015年11月10日読了 ISBN:978-4-08-771332-9



「積ん読」解消シリーズに戻る。これはかなり前の作品。

「失恋に傷ついた女性が、身の回りの人の助けを借り、また自身の様々な努力でこの傷を癒しながら、一人の女性として成長していく物語」などと書いたら、本の紹介文としては最悪だと思うが、しかし、実際にこういう物語をきちんとリアリティをもって書けるのがすごいと思う。宮下さんの作品をそうたくさん読んだわけでは無いが、読んだ作品はいずれも人の心の成長というものをまじめに考えるものだ。下手するとわざとらしい教養小説になりかねないところだが、この人が書くと何とも暖かくてほほえましいのが素晴らしい。
考えてみれば、色々なことに悩み傷つく主人公はともかく、周りに登場する人物はいずれも型破りの魅力的な人たちばかりで、こういう人たちをこんなにたくさん登場させては反則だろうと思うが、それがこの人の物語をチャーミングにしているのだと思う。

面白い本を書く人は、何かそういう強みを持っているのだなとあらためて思う。

エデン
近藤 史恵 新潮社 2015年11月20日読了 ISBN:978-4-10-305252-4



「積ん読」解消シリーズの続き。これもかなり前の作品。

「サクリファイス」の続編。この本を読んだ時、最後のところで少し感動したのを覚えているのだが、細かい点は忘れているので、続編としては全然読めていないのが少し残念。サクリファイスと少し違って、驚くようなラストではないのだが、緻密に積み上げられているので「ツール・ド・フランス」という大舞台のフィクションも無理なく読める。「タルト・タタン」、「ヴァン・ショー」とミステリー仕立ての本をたくさん読んでいただけに、ちょっと意外の感もあったが、ミステリーにしなくても面白い本がかけるということなのだろう。

盤上の夜
宮内 悠介 東京創元社 2015年12月1日読了 ISBN:978-4-488-74701-5



「積ん読」解消シリーズもそろそろ大詰めなのだが、これはかなりの話題作。(SF大賞受賞作のはず。)

ボードゲームをテーマにしたファンタジーといえばファンタジー。面白いと思うが、こういう本が好きかというとちょっと何とも言えない。いささか猟奇的な味わいを含むものも多くて、「清く、正しく、美しく、面白く」派(?)私とは世界観が違うかなと思う。「屍者の帝国」も挫折しているし、この系統はやはり弱いということか。とは言え、勿論面白いわけで、著者の才能は疑う余地がないことも確かである。もう1冊「ヨハネスブルグの天使たち」を読むかどうか迷うところである。

よろこびの歌
宮下 奈都 実業之日本社 2015年12月6日読了 ISBN:978-4-408-55099-2



これは、「太陽のパスタ、豆のスープ」を読み終えた時にダウンロードしたので、積ん読シリーズではない。割に新しい本。

彼女の作品は大半が「清く、正しく、美しく」シリーズなので小生には安心して読める。こう書くと何だか皮肉っぽいのだが、全くそんなつもりはなくて、正直に感心している。こういう王道の本を書くのは本当に難しいと思う。登場人物達が順次視点を変えて綴っていく連絡短編で、この形もいわば王道と言えるのだが、陳腐でも不自然でもないのは、やはり一人一人のキャラクターに紛れがなく生きているからなのだろう。

簡単に書けそうで書けないのがこういう物語だと私は思う。

かのこちゃんとマドレーヌ夫人
万城目 学 KADOKAWA 2015年12月12日読了 ISBN:978-4-04-100687-0



いよいよ、積ん読解消も大詰め。すっかり電子本に慣れた。やはり紙の本に未練はあるが、あのサイズと軽さで何百冊も本が持ち運べることや、別の媒体で簡単に読み継げる便利さを考えると戻れないかも知れないと思う。

かのこちゃんのお父さんは鹿と話ができたそうなので「鹿男」の関係者なのかも知れないし、かのこちゃんもほとんどネコのマドレーヌ夫人と話をしているので、そういう血を継いでいるのかも知れない。万城目さんらしい楽しくて暖かいファンタジーだ。ネコと犬が夫婦であろうとも、猫又が人に化けようとも、読んでいると別に不思議でも何でもないのが万城目さんの真骨頂だろう。小学生の女の子の成長物語なのだがそれが何とも言えずすがすがしい。

長編というほど大部でもなく、といって掌編というほど小振りでもないこの本のサイズ(長さ)がまたいいと思う。

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