ノボさん
小説 正岡子規と夏目漱石
伊集院 静 講談社 2014年1月2日読了 ISBN:978-4-06-218668-1



正岡子規の壮絶な人生を綴った本なので、お正月に読むには、少し重たかったかも知れないが、心揺さぶられる本だった。

子規をはじめとして、漱石、鴎外など日本の近代を切り開いた人たちの物語。きら星のごとくそれらの人々が登場する時代が眼前に展開し、あらためて、その時代の凄さを感じる。どうしてあのような時代があり得たのか、歴史の偶然だったのか、或いは必然だったのか。そんなことに思いを馳せさせられる。
考えてみれば、私も高校生時代に「漱石全集」を読んで思い切り感動し、「寺田寅彦全集」を読んで物理学者を志したくらいだから(残念ながら志は半ばになってしまったが)、あの時代の人たちに、人生の基礎を作ってもらったようなものだ。それはとても幸せなことだと今になってしみじみと思う。

「小説」というよりは、「伝記」に近い物語だと思うが、日本の文化史のど真ん中を、一点も揺るがせずにきちんと描いたこの本は、歴史の脇道を必要以上にフレームアップする「司馬遼」流が大嫌いな私にはとても胸のすく本である。

ノックス・マシン
法月 綸太郎 角川書店 2014年1月19日読了 ISBN:978-4-04-110415-6



去年の「このミスNo.1」の本。
面白いか面白くないかと聞かれれば、面白いと答えるとは思うが…。

これだけ衒学的にして、かつ、こなれない物理学の用語を駆使しなければ物語は作れないのかと思ってしまう。それある意味で、書き手の趣味と言えばそれまでだが、それをベストワンにせざるを得ないというのは、ミステリ業界相当苦しいと小生は思う。
私が日本製のミステリを一生懸命読んでいた20年くらい前は、それでもまだ面白い本が一杯あったと思う。(クリスティの時代に比ぶべくもないとしても。)それが、ここへ来てこれほど減速してしまうのはなぜなのだろうかと、寂しい気持ちになる。
明らかに、書き手がこの世界を敬遠しているというか、かつての高村さんをはじめとして、宮部さん、伊坂さんといったベストセラーメーカーが何となくこの世界から離れているし、その他たくさんの名作を書いた人たちも最近はぱっとしない人が多い。「面白い本がない→読み手が離れる→ますます面白くなくなる」という悪循環なんだと思う。
もう一つ、ちょっと名をなした人(あえて名前は書かない)が、テレビや映画でもてはやされていることをいいことに「粗製濫造」しているのも大きいと思う。「XX列車殺人事件」といったくだらないミステリを乱作した人がかつていたが、それと同じで、こういうことをしていると読み手の水準を大きく下げてしまう。だから、その反動みたいにして、こういう本が「ベストワン」に選ばれるのだと思う。(明らかにこの本は読み手を選ぶ。)

娯楽の世界だから、人気を保つということと、読み手に迎合するということは紙一重だと思うが、一方で滅茶苦茶に迎合する人あり、一方で迎合を嫌って孤高を選ぶ人ありでは、この世界は救われないと思うのは私だけだろうか。

神去なあなあ夜話
三浦 しをん 徳間書店 2014年1月25日読了 ISBN:978-4-19-863506-0



前作「神去なあなあ日常」の続編。
前作が、滅び行く第一次産業の苦闘みたいなものにお話しの重心があったのに対して、こちらは、どちらかと言えば「恋愛小説風」になっている。そして、その語り口は、まさに「三浦しをん節」とでも言うべき物で、圧倒的に面白い。

小説の面白さの半分くらいはヒロインの魅力で決まると私は常々思っているが(余りいい読者ではないかも)、その点に関して、三浦作に敵う本はあまりないのではないだろうか。「女性が描く女性」のある種生々しさは、絶対男性には書けないと思う。(生々しいといっても、なまめかしいという意味ではなくて、心理と生理が手に取るように見えるということ。)そして、我々男性は、すっかり男性主人公に感情移入して読んでしまうということになる。それが読書の楽しみといえばそれまでなのだが…。とは言え、それでは何か敵の術中にはまっているようで、ちょっと情けない感じはある。

などといいながら、この続きがあるのかどうか分からないが(この先は書きにくそうだ…)、もし出れば、きっと真っ先に読むだろうとは思う。

ビブリア古書堂の事件手帖 5 栞子さんと繋がりの時
三上 延 KADOKAWA 2014年1月29日読了 ISBN:978-4-04-866226-0



しばらく間が空いたが、人気シリーズの続編。
書き始めたときはこんなに長く続くと書き手も思っていなかったのではないかという気がするが、魅力的な主人公と、奥深い「本」の世界に支えられて、なかなかどうして緩まず面白い。これだけのものを、人気に甘えることなく、質を落とさず書き続けていくことはとても大変だと思う。

本作も女性主人公の魅力に支えられていることは衆目の一致するところだと思うが、一つ前に読んだ三浦しをん作のヒロイン像とはある種対極にあるのが面白い。この超絶的な魅力と能力は、明らかに人間のものとは思えないわけで、男性の描くヒロインには、得てしてこういうタイプの女性が登場するように思う。(すなわち、心理や生理が手触りを持って感じられない。その非現実性が、読み手の憧れを誘うということ。)どちらの方がすぐれているということはないが、このタイプの女性は映画やテレビにはならないだろうと思う。(この小説、確かテレビドラマになったが、このヒロインを演じることは不可能だと私は思う。)

本筋と離れた感想になってしまったが、さしもの物語もいよいよ大詰め。エンディングは、何となく想像がつくような気もするが、是非、想像を超えるあっと言うような終わり方を期待したい。

限界集落株式会社(小学館文庫)
黒野 伸一 小学館 2014年2月10日読了 ISBN:978-4-09-408867-0



これは、過疎の山村と滅び行く第一次産業たる農業の現実を描いた意欲的な作品。高齢化も含めて、日本の問題点をダイジェストするような難しいテーマだと思うが、とても上手くまとまっていると思う。

小説としては、同じ一次産業を描いた「神去シリーズ」の手際に較べるべくも無いが、不器用なストーリー展開をカバーするだけの思いがこもっていると思う。実際に過疎に苦しむ農村の立場からすれば、いささか非現実的なストーリー展開だという気もするが、何かをしなければという思いの強さがこの物語を「絵空事」から救っている。

これに限らず、日本の社会(日本だけではないが)が抱えるたくさんの問題点。どうして私たちは、いつもいつも「ゆでがエル」なのかと思う。

ペテロの葬列
宮部 みゆき 集英社 2014年2月23日読了 ISBN:978-4-08-771532-3



「ソロモンの偽証」三部作が未読了になって以来、久しぶりに宮部みゆきさんの本を読む。

当然と言えば当然かも知れないが、面白い。人の心の深層に潜む「悪意」と人間の根本原理としての「善意」をリアルに描いて、この人の右に出る人は少ないかも知れない。だから、こういう人の善意と悪意が如実に表れる「経済犯罪」ものは特に面白いのだと思う。「火車」を初めて読んだときに、あまりの面白さに驚いたが、本書は、その流れを汲む傑作だと思う。
ただ、結末の方は、何となくしっくりこない。宮部さんなりの結論なのだろうが、そういう結論しかなかったのだろうかと思う。

とは言え、宮部さんはやはり面白い。最近の小説がどんどん長くなるその流れを作った人だと思うが、途中になっている「ソロモンの偽証」をまず読み終えようと思う。

首折り男のための協奏曲
伊坂 幸太郎 新潮社 2014年3月3日読了 ISBN:978-4-10-459606-5



これは、「協奏曲」というより、「超絶技巧練習曲」である。

連作短編と言えるほどには緊密につながっておらず、かといってバラバラというほどでもないこれらの短編を結んでいるのは、「技術(話術)」を駆使するとお話しはどうなるという実験精神のような気がする。これはこれでとても面白いのだが、「そこまでやるの?」という感じも強く残る。読む方も集中力を試されているようで、なかなか大変である。

そうは言っても、全編伊坂流リリシズム(?)に包まれ、結局彼の術中にはまってしまうことは避けられない。私は、最後の「合コンの話」が好きだった。

雪月花黙示録
恩田 陸 KADOKAWA 2014年3月14日読了 ISBN:978-4-04-110670-9



久しぶりに恩田作品を読む。途中から、彼女のお話に何となくついていけなくなって遠ざかっていたわけだが、本作も、やはりついていったとは言いがたい。

ファンタジーと言えばファンタジー、SFと言えばSF。メッセージ性もあるような無いような…不思議な作品ではあるが、別にこの本を読んだからと言って、「恩田ワールド」に近づいたという感じがするものでも無いように思う。

「夜ピク」はちょっと別格としても、「六番目の小夜子」、「光の帝国 常野物語」、「Q&A」、「ユージニア」などといった昔の作品の方が、ずっと素直で面白かったと思う私は、恩田小説の読者としては落第なのかも…。

聖なる怠け者の冒険
森見 登美彦 朝日新聞出版 2014年4月23日読了 ISBN:978-4-02-250786-0



森見さん、祇園祭シリーズの一作。面白いのだが、何となく面倒でもあり、読むのに時間がかかってしまった。例によって例のごとくの「森見節」炸裂なので、これ以上あまり書くことはないのだが、それにしても、ちょっとこねくりすぎかなと感じた。(とはいっても、面白いことは面白いです。)

宵山万華鏡など、過去の作品が少し下敷きになってはいるが、続編というほどでもない。個人的には、前作「ペンギンハイウエイ」の方が好きだ。京都シリーズなら、「夜は短し恋せよ乙女」が好きかなという感じ。

春、戻る
瀬尾 まいこ 集英社 2014年4月25日読了 978-4-08-771548-4



やや薄い本ではあるが、あっという間に読了。この手の本、好きである。

過去との和解し、未来に向き合うこと。こういうとても「ステレオタイプ」のストーリーをこうやって、きちんと説得力を持って書くことのできる力はすてきだと思う。
高尚すぎることもなく、勿論難解でもなく、とはいっても、とても平凡なわけではない。「中庸」、「穏やか」。こういうストーリーを力まず、自然に書くことができるのは、女性の特権のような気がする。

こういう本の評価は人によって分かれるかも知れないけれど、私は好きです。

怒り(上)(下)
吉田 修一 中央公論新社 2014年6月9日読了 ISBN:978-4-12-004586-8
ISBN:978-4-12-004587-5



上下2冊とは言え、読むのに時間がかかってしまった。面白くなかったわけではなく(むしろその逆)、この著者らしい重たいお話しなので、間を空けながら読んでいたら、1ヶ月半もかかってしまった。

人生の取り返しのつかなさというか、思い通りに行かないことの多さとか、運の悪さとかそういうものを集めたらこういうお話になりますという物語。それを無用な同情を引くこともなく、あざとくもなく、淡々と書き進めてこのリアリティが伴うのは、著者の力量だと思う。人生って、人間ってこんなものなんだろうなと思ってしまう。さらに、三つのお話しが、バラバラになるでもなく、つながるでもない、この距離感がとても良い。
ただ一点、いわば主人公ともいうべき(あえて言えば)真犯人の「怒り」の根源が分からない。ゆっくり読んだので、忘れてしまっているかも知れないのだが、他の登場人物の「人となり」はよく分かるのに、この人だけがよく分からない。ミステリーの体裁を取ると、こういうことがよく起こるが、ちょっとその点が残念。(私の読み方が悪いだけならすいません。)

クラスメイツ 前期
クラスメイツ 後期
森 絵都 偕成社 2014年6月18日読了 ISBN:978-4-03-814410-3
ISBN:978-4-03-814420-2



「怒り」同様2冊にまたがる本だが、こちらの方はすぐに読了。

24人のクラスメイト一人一人を順に主人公にする、長編と言えば長編、連作短編と言えば連作短編というスタイルの本だが、実に上手くできていると思う。こういう形を取ることにより、この世代の一人一人が、色々な悩みを抱えており、或いは、色々な運命に遭遇しており、それらに敢然と、或いは、嫌々ながら立ち向かう群像劇が見事にできあがる。素晴らしい技術と言えばそれまでだが、形と中身が見事に釣り合っている。

小生には、既に50年の彼方の出来事であるが、これを読むとなんだか昨日のことのように思い出される。大人になってもこういうおはなしが書けるのはすごいなと思う。

島はぼくらと
辻村 深月 講談社 2014年7月23日読了 ISBN:978-4-06-218365-9



辻村深月という作家を初めて読んだ。今まで読んだことがなかったのは、迂闊だったとあらためて思った。本屋大賞で高い評価を受けていたのも大変よく分かる。こういうスタイルの作家、たくさんいるようで余りいないのかも知れないと思った。

こちらは、島の高校生4人を中心とする物語だが、その周りにたくさんの人々が登場し、たくさんの出来事が起きる。時代も、一世代前に(或いはもう一世代前に)広がっている。その複雑な物語をとても的確に書ききっていると思う。登場人物のキャラクタも紛れることなく、説得力もある。
勿論、さすがに拾いきれていない伏線があるような気もするし、例えば、エピローグは必要だろうかと思ったりもする。(ない方が、余韻がたくさん残るようにも思う。)
それでも、文句なしによくできたお話しだと思う。

ということで、辻村さんのお話をいくつか読んでみることにする。

昨夜のカレー、明日のパン
木皿 泉 河出書房新社 2014年8月3日読了 ISBN:978-4-309-02176-8



これも評判の本。今まで読んだ本とは少し感じが違う。とても精密に組み立てられた「短編群」。一つ一つのお話しがよくできていて、しかも、全体との繋がりも素晴らしい。ものすごく考え込まれた物語だと思うが、それを感じさせないのもとても上手い。この手の連作短編集は、よくあるが、複雑に入り組んだあやがとてもロジカルだと思う。

巻末を読むと、木皿泉さんというのは、夫婦二人組の著名な脚本家とのこと。なるほどと思う。このお話は、一人で考えたのではなく、二人の知恵を集めてものすごく考え抜かれたお話しなのである。
読み終わった、すぐまた最初から読み始めたくなったのは、この本が久しぶり。それくらい、きちんと伏線が張られ、きちんと回収されている。

最後のお話しは、何処にも「明示的」にはそれまでのお話しとの繋がりは書かれていないような気がする。(私の読み落としかも…)それでも、このお話しが全体につながる話だと思うし、だから、この物語の値打ちがさらに高まっているような気がする。そういう不思議な読後感も、新鮮でよかったと思う。このお二人の次作に期待。

八月の六日間
北村 薫 KADOKAWA 2014年8月9日読了 ISBN:978-4-04-101554-4



女性を主人公にしたらこの人に適う人はいない。覆面作家時代、女性の作者だと思われていたというお話しを聞いたことがあるが、本作もその流れ。

そして、デビューからの一連の作品にはなかった、この落ち着いた雰囲気。上手に年を取るというのはこういうことなのだと、長く北村作品に親しんできた小生は思う。
40歳そこそこの女性主人公が、ここまでの落ち着きを身につけているものなのかとふと思うが、それでも、全編に亘って細かく書き込まれた主人公の心の綾に強く共感する。自然と人間との関係、人間と人間との関係、踏み込みすぎず、突き放すわけでもない、この距離感が素晴らしいと思う。そして、ときどきに現れる乾いてきれいな「ユーモア」。

私たちの世代は、これから数年が人生で一番充実したときなのではないかと、この北村作品を読んで思う。

紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場
佐々 凉子 早川書房 2014年10月8日読了 ISBN:978-4-15-209460-5



読み終えるのに少し時間がかかってしまった。忙しかったこともあるが、読み飛ばすには少し重たい本でもあった。

東日本大震災にかかわる書物、映像資料ほど数限りなく編まれ、そして、公開・出版されたものは無いだろうと思う。被害の大きさや、その深刻さから考えて当然だと思うのだが、どれもが心を打つのかというと、正直そうでもない気がする。かかるテーマは取材も難しいだろうし、また、その表現も被害者の立場に立てば自ずと一定の制限がかかるので、結果としてどれも似たようなものになってしまう気がする。

それらの中で、この本ははっきりと個性が際立っており、また、結果として、大震災がもたらしたもの、また、それに向かう人々の大変な苦労とそれを乗り越える気概、それでも超えることのできない痛みと傷が実に心を打つ形で伝わってくる。
「あの大震災で本当に起こったことは何だったのか。」それを伝えるのにこれほど相応しい本はないと私は思う。

ハケンアニメ!
辻村 深月 マガジンハウス 2014年10月30日読了 ISBN:978-4-8387-2690-5



辻村深月さんの近著。「島はぼくらと」には少し敵わないかも知れないが、面白いお話しだった。

私は、「ハッピーエンド」が好きだと思う。この本は、そのハッピーエンドに向けて、緻密な取材と綿密は伏線で組み立てられた物語だ。結果として、少しわざとらしくもあり、読む前に何となく先が読めたりもする。それがいやな人には、少し気になるかも知れないと思う。

女性作家特有の女性主人公に対する共感性も私は好きだ。本書も三人のヒロインを余すところなく書いて気持ちいい。もう少しこの人の書いた本を読んでみようと思う。

神様のケーキを頬ばるまで
彩瀬 まる 光文社 2014年11月12日読了 ISBN:978-4-334-92928-2



この人の本は初めて。日経の読書欄で取り上げられていた。

著者は、ものすごくまじめで誠実な人なのではないかと思う。登場人物達も、皆、ものすごくまじめで誠実。雑居ビルの中で、ほんの少しずつ関わり合う人々の連作短編。一編一編の中で、少しずつ明るんでいき、一作一作が少しずつ明るさを増していく。どれも、決してハッピーエンドとは言えないけれど、それでもどことなく救いのあるお話し達。月並みだけれど、「人生ってこういうものなのだろうな」と思わせる作品集。

説得力のある、よくできた本だと思う。

アイネクライネナハトムジーク
伊坂 幸太郎 幻冬舎 2014年11月15日読了 ISBN:978-4-344-02629-2



相変わらず、この人の本は面白い。あっという間に読んでしまった。

ご本人も後書きで書いていたけれど、何となくふわりとした「恋愛もの」が物語の核となっている伊坂作品としては珍しいもの。この人が恋愛を書くとこうなるんだという感じ。なるほどなという感じでもある。
これも連作短編で、かつ時間スケールの長いお話しなので、きちんと読んでいないとお話の繋がりが分からなくなる。すなわち、それだけ綿密に設計されたお話。(読み終わったあと、もう一度読み返して何がどうつながっているのかあらためて、確認してしまった。)

作品によって若干できばえが不揃いな気がするが、それを言うのは少し贅沢。とても面白い本であることに間違いありません。

キャロリング
有川 浩 幻冬舎 2014年11月21日読了 ISBN:978-4-344-02659-9



テレビドラマになるというので、新刊早々珍しいなと思いつつ、それまでに読んでしまおうと予定の順序を変えて読んだ。

いかにも、有川さんらしいお話。これだけたくさん有川作品を読んでいると、ちょっとした有川流の言い回しが気になってきたりする。というか、そういうことが気になるくらいで、少し緻密さや緊張に欠けるところがあるような気がした。(何と言っても、冒頭のシーンから、先の展開が読めてしまう。)

つまらない本だとは言わないけれど、有川さんとしては今一歩なのではないかと個人的には思う。主人公を例えばレイさんに変えた方が面白いお話になったように思うが如何でしょうか。(それでは、有川ストーリーになじまないというのもよく分かるのですが、)登場人物の中では彼女が一番魅力的です。

トオリヌケキンシ
加納 朋子 文藝春秋 2014年12月1日読了 ISBN:978-4-16-390145-9



少しずつ色々な病を抱える人たちが主人公の短編集。病気がテーマといっても、いずれも暗くはなりすぎない加納さんらしい洒落たお話。

冒頭の一編(表題作)だけが2006年であとは比較的最近書かれたお話し。書かれた時期が違うので、テイストも少し違う。私は、表題作が好きだ。(できばえは、少しばらついているとも思う。短編集のつらいところだ。)

弱者に注ぐ優しい目線というと月並みかも知れないが、様々な障害を抱える社会的弱者を主人公にした小説としては、きちんと節度を保ったいいお話達だと思う。

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