横道世之介
吉田 修一 毎日新聞社 2011年6月7日読了 ISBN:978-4-620-10743-1



1年ぶりの読書感想。今までも、何ヶ月か本を読まないということはあったが、ほぼ1年というのは初めて。色々言い訳はあるが、要は無精ということ。
そろそろ本を読もうと思ったきっかけは、児玉清さんが亡くなって、「週間ブックレビュー」の追悼番組を見たこと。「やはり、本を読まなければ・・・。」という気がしみじみとした。

読書のリハビリとしては、これ以上ぴったりの本はないと思う。元々世評の高い本だが、とにかく心にしみる本だった。落ち着いて考えてみれば、世之介のような人が身の回りにいるとは思いにくいし、その他のユニークな登場人物もしかりであるが、それでも、彼らの繰り広げた青春の一コマは、私たちが経験したそれをしっかりと思い起こさせる。フィクションの力は強いと思う。

「悪人」の印象が強かった吉田脩一さんなので、こういう本も書くのかと少し驚いた。一度機会を見つけて「パレード」を読んでみたい。

小暮写眞館
宮部 みゆき 講談社 2011年6月18日読了 ISBN:978-4-06-216222-7



リハビリ第2弾は、宮部みゆきさん。これも1年以上前に買った本だ。
(積ん読は、まだ10冊以上ある。)

月並みな表現になるが、この本は、「喪失」とそれからの「回復」と「赦し」の物語。いくつかの家族と、それを取り巻く街並みという小宇宙で宮部ワールドが展開する。 一時期、宮部さん少し不調かなという感じがあったが、これはとても面白かった。何となく肩の力が抜けたような気がする。

本当に見てきたように書く宮部さんの文章の力にはいつもながら驚かされる。700ページの大作だが、どこも退屈せずに読み終わった。

キケン
有川 浩 新潮社 2011年6月30日読了 ISBN:978-4-10-301872-8



積ん読解消シリーズ第三弾。

これも、有川さんらしい本で楽しく読み終わったが、前半の部分は、ちょっと違和感があった。特に、二コマ目の恋愛譚がなんかとってつけたような気がした。といっても、後半、特にラーメンのところは有川節全開という感じで爽快。

有川さんの手にかかると、「男の子の青春」というのは、こんな感じになるなのだなとちょっと感心した。

世界史を変えた異常気象
田家 康 日本経済新聞出版社 2011年9月10日読了 ISBN:978-4-532-16804-9



忙しさにかまけて、また、読書から遠ざかっているが、本書は、感銘を受けた「気候文明史」の著者の近作につき最優先で読了。

前作に負けず劣らず面白いが、なんといっても最終章が力作。それとあとがきも面白い。
極論すれば、気候の変動は、そのまま食糧事情の変化であり、人類の歴史にとっては、即ち、それが最も重要問題であるということだ。もちろん、皆、それに気がついてはいるが、その点をきちんと詰めて考える人も、機会も少ないと思う。

著者は、農業問題の専門家であるとともに、気象に関する、特に、気候変動に関するエキスパートという特異な知見をお持ちなのだから、これを活かして、気候変動と農業問題(即ち、政治・経済問題)に焦点を絞り、近・現代から近未来に関して、読み物の枠を超えた著者の持論を読んでみたいと考えるのは、私だけではないと思う。

はやく名探偵になりたい
東川 篤哉 小学館 2011年10月15日読了 ISBN:978-4-334-92777-6



これは、電子本で読了。本物の本は最近さっぱり読まないが、電子書籍であれば、場所を選ばず読めるし、いつも持っているiPhoneやiPadで読めるので、ついそのスタイルになってしまう。結局、これからは電子書籍の時代なのかと思うが、CD(即ち音楽のデジタル化)が音楽業界を一変させたことを思うと、出版業界も激変していくのだろうと思わざるを得ない。(それが、本好きにとっていいことなのか、どうなのか?余りいい方向には行かないような気がして私は心配している。)

本書は、昨年の本屋大賞作家の作家の新作。受賞作「謎解きはディナーのあとで」は、「本」で持っているのだが、こちらが先になってしまった。「謎解きは・・・」を読んでいないので、何ともいえないが、こちらの方は、面白いけれど、それ以上でも、それ以下でもないという感じがした。

とにかく、紙で持っている方を読んでみなければ。

日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか
山田 奨治 人文書院 2011年11月6日読了 ISBN:978-4-409-24092-2



Twitterで評判になっていた本。確かに面白いし、それに色々と考えさせられる。

結局、ここに書かれていることはある種「日本の縮図」で、詰まるところ(陳腐な言い方だが)、日本に「民主主義」は全く根付いていないということだという感じがした。

必要以上に権利者(既得権益)側に傾いた様々な「しかけ」は、日本共通の枠組みだと思うが、結局これで何が失われていくのかということだ。もちろん「声なき多数」の権利が少しずつ小さくなっていくということだが、それに加えて、もっと大きなものをむしばんでいるということだと思う。この著作権に関していえば、即ち、「国家の文化的基盤」とでもいうべきものを損なっているという気がしてならない。

話は少し飛躍するが、ポスト・ウォークマンをAppleとSONY他の国産勢が争っていた頃、決定的にその運命を分けたのは、それに付帯するPC側の管理ソフトの使い勝手だったと私は思っている。もちろん、Appleのソフト作りのうまさはこれに始まったわけではないのだが、国産勢ソフトで一番取り回しにくいと思ったのは、そのDRMに対する厳格さというか頑なさだった。「私的複製」と割り切ったiTuneに比べて、ファイルの複製や移動もままならない国産ソフトにあきれてiTuneを使うようになったユーザーは多かったのではないだろうか。(かくいう私もそうだった。)
本書を読んで、この当時に、この本に書かれたダウンロードの違法化を含む電子的著作物の管理のあり方について議論がなされていたということがよく分かった。そして、こんな頑ななソフトを作らざるを得なかった雰囲気もよく分かった。

しかし、これは、過剰なDRMへの配慮によって、デジタル音楽プレイヤーがAppleの独壇場になったということだけではなく、全てのデジタル・コンテンツの支配する力をAppleが身につけたということであり、その裏側で、我が国が失ったものは計り知れないということだと思う。過大な既得権益の主張が、新しい国家的文化基盤をひいては国益を損なっていると思うのは私だけだろうか。

我々は、もう少しきちんと、世の中を監視していかなければならないと痛感した。

加藤周一を読む
「理」の人にして「情」の人
鷲巣 力 岩波書店 2011年12月6日読了 ISBN:978-4-00-025821-0



加藤周一の著作と思想と人生が驚くほど平易にかつ的確に語られていることに感動した。

「羊の歌」に出会って以来、氏の著作は私の世界観の骨組となっていると、本書を読みながら改めて痛感。と同時に、時間ができたらもう一度、氏の全著作を再読したいとも痛感した。
そして、氏には、遥かに及ばずとも、また、いくら年齢を重ねていっても、世界を理解しようとする強い意志を失ってはならないとあらためて思い直す。

こういうきちんとした本を読むと、これからの人生、限られた時間の中で、どんな本を選び、どう読んでいくかを、もう少しきちんと考えた方がいいと気付かされる。

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