去年評判になった本の一つだが、確かに、素晴らしく良くできている。
ストーリーは、もちろん、とてもおもしろいのだが、加えて、構成といい、こめられたメッセージといい、どれも文句のつけようのないものだ。これだけ、バランスの整った本も珍しいのではないだろうか。
あえて難をいえば、小難しげに見えるところだが、(それが面倒ならば読み飛ばせばどうということはないのだが、)それもこの物語の「風合い」の重要な要素になっているのだから仕方ないだろう。
一見、アンドロイドに主導権を奪われた人間の世界というありきたりの風景から始まるのだが・・・・・。
21世紀の人間の文化に対してこめられた見識も、未来を予想するセンスも実に確かだ。「Web2.0」時代を実に的確に捉えているのではないだろうか。「リアル」とは何か、「バーチャル」とは何か。或いは、「虚」とは何か、「実」とは何かという、これからのデジタルワールドの憂鬱がとても生々しく(ある意味で心地よく)描かれている。
本格的なサイエンスフィクションは久しぶりに読んだが、これは、世界でも通用するように思う。(大げさに言えば、ベルヌの志を継いでいる。)
既に発表された短編を組み合わせた「千夜一夜形式」になっているのだが、その形も全く不自然ではない。
この作者の本は初めて読んだが、(いろいろと活躍している人らしい)、世の中には、力のある人が沢山いるものだと、あらためて感心した。
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