これで、彼女の手に入る作品(ミステリー)は読み終えたことになる。2冊とも期待通り。彼女は、「もっとも好きな作家達」の一人に入ることになると思う。
「時計を忘れて・・・」は、謎を解くという意味では、ミステリーには違いないが、「心の謎解き」という趣向がメインで、とても良くできている。真理と真実の狭間で、人は生きている。何が正しくて、何が間違いかは、その人の心のあり方に依存するというメッセージだと思う。童話作家のほうが本職ということらしいが、なるほどと思う。
さらに、本書は、(古き良き時代の)清里、特に清泉寮とキープがモデルになっているので、そのあたりに土地勘がある小生には、その森と谷の姿が、手に取るように分かるので、なおさら、楽しい。(最近の清里はちょっと・・・であるが。)そして、作者の自然を見る目は、実に優しい。これも本書の大きな魅力。(もちろん、人を見る目の優しさも、ひけをとらない。)
本書に登場する童話作家曰く(この人は、作者の分身だろう。)物語を書くためには、三つの方法があって、一つは「伝えたいメッセージ」、一つは「伝えたいシーン」、一つは、「伝えたい人(キャラクター)」だそうである。
なるほどと思う。
才能に恵まれないのは、いやというほど承知しているが、それでも、僕もいずれこのうちの一つを描いてみたいと思ってしまう。
「遠い約束」は、「好きなもののために意地を張っても良いが、好きなものに意地を張ってはいけない。」というわかりやすいメッセージがテーマである。この当たり前すぎるメッセージを語って、この本は見事であると思う。
作者は大阪大学の大学院まで出ている才媛らしい。従って、大阪池田のキャンパスの雰囲気が大変よく出ていると思うが、でも、全く嫌みはない。
ただ、この文庫本の解説にはいささか閉口した。(何を勘違いしているのだろうか?解説というのは自己主張の場とでも思っているのだろうか?)こういうものは、やめてほしいと思う。
本人曰く、大変な遅筆とのことなので、次の作品にはなかなか出会えないかもしれないが、早く次作を書いて頂きたいものである。
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