ハギ

「秋風は 涼しくなりて 馬並めて いざ野に行かな 芽子(ハギ)が花見に」・・・・万葉集

現代で花見と言えばサクラ(桜)であるが、万葉の時代に花見と言えばハギ(萩)かウメ(梅)であった。
「秋の野に咲きたる花を指折り かき数ふれば七草の花 ハギの花 尾花葛花 なでしこの花 おみなえし また藤袴 朝顔の花」 と山上憶良が万葉集の中で秋の代表的な七つの花を詠んでいるが、ハギの花はその筆頭を飾る。 更に、ハギの花を詠んだ歌は万葉集の中に140首近くあり、梅を抜いて草木部門では一番多く、当時は、春の梅、秋の萩と並び賞された。 「人は皆 ハギを秋と言う よし我は 尾花が末を 秋とは言はむ」 と尾花(ススキ)に味方する歌が詠まれるほど万葉の時代から秋を代表する花であった。
当時はハギの字に芽子(ハギ)、波義(ハギ)等が当てられ、秋を代表する花の意味でくさかんむりに秋と書く 「萩」 の字が当てられたのは後の和製漢字が出来てからである。
その後も秋を代表する花として和歌や俳句に盛んに詠まれ、「一家(ひとつや)に 遊女も寝たり 萩と月」 と芭蕉の句もある。
ただ、一口にハギと言っても一つの花ではなく、同じような花を付けるマメ科の落葉低木の総称で何種類もあり、秋の花とは言っても夏に咲く萩もあり種類も多い。 代表例を挙げるとヤマハギ、シロハギ、ミヤギノハギ、マルバハギ、キハギ等が比較的この地方の散歩道の途中で見られる萩であるが、どれも良く似ていて、それぞれを区別する事はなかなか難しい。

ヤマハギ         ヤマハギ        シロハギ

ミヤギノハギ         マルバハギ           キハギ

ヤマハギは山に咲く萩、シロハギは名の通り白色の萩、ミヤギノハギ(宮城野ハギ)は宮城県の県花で、夏にも咲くのでナツハギとも呼ばれ、マルバハギは葉が丸いハギ、キハギも木質の萩の意味である。
ハギの名の由来は二説あり、毎年新しい芽を出す事から 「生え芽」 となり、生芽(ハギ)になったとする説と、小さい葉が歯芽(ハギ)に似ている為ハギになったとする説があるが定かでない。
万葉の時代には秋の七草が歌に詠まれ、平安時代には 「物のあわれは秋ぞまされる」 と和泉式部が春より秋に軍配を上げたように、日本の伝統的情緒と美意識は当時から培われたものであり、秋の十五夜にススキや団子と一緒に萩を縁側に供え、月を眺めるのは日本ならではの事である。

次へ

最初のページへ戻る