クサギ

「行きすぎて 常山木(クサギ)の花の 匂いけり」・・・・富安風生

未だ暑い盛りではあるが暦の上では立秋の頃、土手や川岸を歩いていると芳香が漂い、芳香の先を見ると花をいっぱい付けた野の花目線で見られる低木に出会う。 クサギ(臭木、常山木)である。
この芳香を放つ花がなぜ臭木(クサギ)と名付けられたかというと、木を折ったり、葉をちぎったりすると嫌な匂いがすることから来ており、花にとっては心外な名前である。
秋には青色の実を付け、赤紫色のガクのコントラストが美しく、晩夏から秋にかけて花や実で良く目立つ。

クサギの花

クサギの実

現代ではクサギの名前自体も余り知られていないが、江戸時代は子供の疳の虫(かんのむし)を治す薬の木として名が有り、江戸中期の学者 「平賀源内」 が刊行した本草学の古書 「物類品隲(ぶつるいひんしつ)」 によると 「クサギの根元に潜む虫を焼いて食べさせると子供の疳の虫が治る」 とある。 このクサギの木の枝や幹にはコウモリ蛾の幼虫のサナギが潜り込んでおり、これを取り出し、串に刺してあぶったものが、江戸時代には盛んに売られていたようで、芭蕉の句に 「枝ながら 虫売りに来る クサギかな」 とある。 つい最近までこの習慣が残っていた地方もあるようである。
葉や小枝を天日で乾燥させたものはリュウマチ、高血圧、下痢などの薬となり、実を煮出して布を染めると薄い青色にそまり、貴重な染料となった。 自然界からはこのクサギの実とアイ(藍)だけしか青色をえる事はできないそうである。
又、クサギ自体も古くから食料として用いられ、春の若芽を茹でて水にさらすと悪臭が取れ、お浸しやクサギ飯等になり、特に寺社等の精進料理の重要な素材であった。
日本全土、中国、朝鮮に広く分布するクマツヅラ科の花で、かってはいろいろな用途に使われていたが、 「疳の虫」 や 「クサギ飯」 も遠い時代になりつつある。

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