1.判決
請求棄却。
2.判断
「第3 当裁判所の判断
1 刊行物発明1の認定の誤り(取消事由1)について
(1)刊行物発明1につき,本件審決の認定のとおり,「洗浄布が洗浄装置に装着される前に洗浄液を含浸させた布である点が記載されている」・・・ことは,当事者間に争いがない。
Xは,本件審決が,刊行物発明1について,「洗浄液として低揮発性溶剤を用いる点が記載されている」(同頁)と認定したことが誤りであると主張するので,以下検討する。
(2)刊行物1(甲1)には,・・・と記載されており,洗浄液として,ジエチレングリコールとポリエチレングリコールの混合液が開示されている。
そして,混合液の揮発性は,混合される成分の揮発性により,また,揮発しやすいか否かは,それぞれの成分の沸点の高低によるところ,上記混合液の成分をなすジエチレングリコールの沸点は,244.3℃であり(甲23,349頁),ポリエチレングリコールは不揮発性であるものと認められる(同,449頁)。
また,インクローラ,ブランケットの洗浄油として,灯油,ガソリン,トリクレン,メチルクロロホルムなどが用いられるところ(甲21,183〜184頁),これらの沸点は,それぞれ,150〜280℃,100〜160℃,87℃,74℃であると認められ(同,表15・1),ジエチレングリコールは,これらの溶剤に比べて高い沸点を有するものといえる。
しかも,一般的に溶剤として使用される化学物質の中で,ジエチレングリコールは,高い沸点を有する部類に属するものとして,周知と認められる(浅原照三ほか編「溶剤ハンドブック」株式会社講談社,1985年,882頁付表1「主要溶剤の沸点」)。
そうすると,他の溶剤に対して比較的高い沸点を有するジエチレングリコールと不揮発性のポリエチレングリコールとの混合液を開示する刊行物1について,本件審決が,「洗浄液として低揮発性溶剤を用いる点が記載されている」と認定したことに,誤りはないものといわなければならない。
(3)この点について,Xは,本件発明において,「低揮発性溶剤」とは,およそゼロから30パーセントの範囲の揮発性を有し,この揮発性は,ルーチン試験方法で測定されるものであるところ,本件特許の出願時,業界において溶剤の揮発性を測定するために一般に行われていたルーチン試験方法は,「ASTM測定法」であり,前記ゼロから30パーセントの範囲の揮発性という数値は,このASTM測定法に基づくものであると主張する。
そこで検討するに,本件訂正後の特許請求の範囲には,請求項1,10,17及び20に「低揮発性溶剤」と,請求項11及び13に「周囲温度および圧力で容易に蒸発しない低揮発性溶剤」と,請求項12及び14に「周囲温度および圧力で容易に蒸発しない低揮発性有機化合物溶剤」と,請求項20に「低揮発性有機溶剤」と記載され,請求項5に「低揮発性溶剤は,およそゼロからおよそ30パーセントの範囲の,揮発性をもつベジタブル油および柑橘類油から選定された容易に蒸発しない少なくとも1つの有機溶剤化合物からなる」と,請求項6に「低揮発性溶剤は,ミネラルエキスおよび脂肪族炭化水素溶剤から選定された少なくとも1つの有機化合物からなる」と記載されている。
これらの記載によれば,請求項5及び6において,低揮発性溶剤の具体名が示されているものの,低揮発性溶剤自体を定義づける記載はなく,その他の請求項にも,そのような記載は見当たらない。
さらに,本件明細書(甲15)の発明の詳細な説明(本件訂正後も変更されていない。)には,・・・と記載されているが,この記載によれば,ベジタブル油及び柑橘類油などから選定される有機化合物溶剤が,およそゼロからおよそ30.0パーセントの範囲の揮発性をもつことが理解されるだけであり,「低揮発性溶剤」が,上記数値範囲の揮発性を有する溶剤として定義されていると認めることは困難である。むしろ,本件発明においては,上記記載のとおり「容易に蒸発する」溶剤も許容されており,本件発明において様々に使用される低揮発性溶剤が,すべて上記数値範囲の揮発性を有するものに限定されているとは,到底解することができない。
そうすると,本件発明の「低揮発性溶剤」が,「ASTM測定法」に基づく,およそゼロから30パーセントの範囲の揮発性を有するものに限定される旨のXの主張は,誤りであってこれを採用する余地はなく,本件発明の「低揮発性溶剤」は,一般的に揮発性の低い溶剤を意味するにすぎないと解され,刊行物発明1に用いられる「低揮発性溶剤」と同等のものといわなければならない(なお,訂正発明5及び6において,「低揮発性溶剤」が具体的に特定され,あるいは数値が特定されている点について,本件審決は,相違点と認識した上で,刊行物発明1,2,6,7及び9並びに周知技術に基づいて,容易想到とされている・・・。)。
(4)さらに,Xは,本件特許出願時において,揮発性溶剤の使用については,否定的な見解が一般的であり,シリンダーを洗浄するための洗浄溶剤として低揮発性溶剤を使用することは,当業者においておよそ想到困難なことである旨を主張する。
しかしながら,本件明細書には,・・・と記載されており,この記載によれば,本件特許の出願前,洗浄溶剤として低揮発性溶剤が使用されていたことが明らかである(Xも,上記明細書に「低揮発性溶剤」が開示されていることは認めている。)から,上記Xの主張は,到底,採用することができない。
2 刊行物発明2及び9についての認定の誤り(取消事由2)
(1)Xは,本件審決が,刊行物発明2について,「刊行物2には,包装材(2)内を真空にする点が記載されていることから,その真空作用により,包装体と収容物とが緊密に直接接触することは当然である」・・・と認定判断したことが,あたかも包装体とインクリボンとが緊密に直接接触するかのような認定であって,誤りである旨主張する。
しかしながら,本件審決は,「刊行物2には,長期保存に伴うインクリボンのインク濃度の低下を良好に抑制し,製品の耐久性向上を図ることができると同時に,輸送時や保管時等における取り扱いの容易化を達成するために,染料にて着色された液状インクを含有するインクリボン(R),若しくは,それを収納したインクリボンカートリッジ(C)を非通気性の材料から構成される包装材(2)にて熱溶着によって真空で気密状態に密封包装する点が記載されている」・・・と認定した上,上記認定をしているのであり,非通気性の材料から構成される包装材にて真空で気密状態に密封包装すれば,包装体(包装材)と収容物(インクリボン又はそれを収納したインクリボンカートリッジ)とが緊密に直接接触することは,技術常識上,当然のことである。
したがって,本件審決の上記認定に誤りはなく,Xの上記主張は採用できない。
(2)また,Xは,刊行物2において,インクリボンを直接,熱収縮性フィルム等の包装体でシュリンクさせて包装をし,保管することとすると,フィルムの収縮力により,インクリボンの薄いテープを平たく滑らかな状態で保管することができなくなってしまうから,インクリボンを直接包装材で包装して保管することは,実施不可能である旨主張する。
しかしながら,刊行物2(甲2)には,・・・と記載され,包装材で,インクリボンを気密状態で包装することが明記されている。また,本件審決が,「インクリボンを無端状とし,容器内に押し込まれた状態で使用することも,ロール状に巻き取られた状態で使用することのいずれも,周知のことである」・・・と認定したことを,Xは争っておらず,しかも,巻芯(ロール)のような形態保持部材を用いれば,薄いテープでも平たく滑らかな状態で保管し,これを包装材で包装できることは,技術常識上,明らかである。
したがって,Xの上記主張は,理由を欠き採用できない。
(3)さらに,Xは,本件審決が,刊行物発明9について,「供給用コアにロール状に巻き取ってあるインクフィルム1の遊端部を粘着テープ等で仮止めしてあるタイプのインクフィルムロール全体を熱収縮性フィルムにて密着包装してあるインクフィルム包装体が記載されている」・・・と認定判断したことが,あたかも包装材とロール状の帯状物(インクフィルム)とが緊密に直接接触するかのような認定であって,誤りであると主張する。
この点について本件審決は,刊行物発明9において,熱収縮フィルムがインクフィルムロールに緊密に直接接触するとまで認定しているわけではないから,Xの上記主張は,本件審決を正解して非難するものとはいい難い。ただし,刊行物9(甲9)には,・・・と記載されており,図1,3及び4によれば,刊行物発明9においては,供給用コアに巻き取ってあるインクフィルムロール及び巻取用コアを緩衝材で包んだ上で,その全体を熱収縮性フィルムにより密着包装しているものと認められる。
しかしながら,上記記載等からすると,刊行物発明9の緩衝材は,インクフィルムロールの流通過程での損傷の防止,熱収縮フィルム加熱時におけるインクフィルムロールに対する悪影響の回避のために設けられているものであって,包装効果を高めるための,いわば補助的な包装材として機能するものにすぎず,これに包まれたインクフィルムロール及び巻取用コアの全体を,更に包装材である熱収縮性フィルムにより密着包装しているものと認められる。そうすると,本件審決が,刊行物9には,インクフィルムロール全体を熱収縮性フィルムにて密着包装してあるインクフィルム包装体が記載されていると認定したことに誤りはなく,Xの上記主張には理由がない。
3 刊行物発明の組合せ容易性の判断誤り(取消事由3)について
(1)Xは,本件審決が,刊行物発明1,2及び9が同じ印刷装置に関するものであるとして,これらを組み合わせる動機付けがあると説示した・・・ことが誤りであると主張するので,以下検討する。
(2)ア 刊行物1(甲1)には,・・・と記載されている。
これらの記載によれば,刊行物発明1においては,事前に洗浄液を含浸させた洗浄布を有するカセット化したシリンダ洗浄装置を提供することを技術的課題として,その解決手段として,洗浄布を布供給ロールにロール状に巻き,洗浄布からの洗浄液の蒸散を防止するために,密封手段(通気性のない円筒状ケース,洗浄布裏側全面のラミネートフィルム及び布供給ロールのフランジ)により密封するという手段を採用していることが認められる。
イ 他方,刊行物2(甲2)に,本件審決が認定した・・・とおり,・・・が記載されていることは,当事者間に争いがない。
この記載によれば,刊行物発明2の技術的課題は,インクリボン又はそれを収納したインクリボンカートリッジの長期保存に伴う,インクリボンのインク濃度の低下を良好に抑制し,製品の耐久性向上を図ると同時に,輸送時や保管時等における取扱いの容易化を達成することにあり,この技術的課題を解決するために,非通気性の材料から構成される包装材を熱溶着によって真空で気密状態に密封包装する手段を採用しているものと認められる。
ウ また,刊行物9(甲9)には,・・・と記載されている。
これらの記載によれば,刊行物発明9は,インクフィルムロールを湿気や塵埃から保護するとともに,熱転写性インクフィルムの不測の繰出しを防止し,包装後における包装体の体積を可及的に小さくするなどのために,インクフィルムロール全体を緊縛することを技術的課題とし,この技術的課題を解決するために,インクフィルムロール全体を熱収縮性フィルムにて密着包装する手段を採用しているものと認められる。
エ 以上のとおり,刊行物発明2は,インクリボン又はインクリボンカートリッジの長期保存に伴う,インクリボンのインク濃度の低下を良好に抑制し,輸送時や保管時等における取扱いの容易化を達成することなどを技術課題とし,また,刊行物発明9は,インクフィルムロールを湿気や塵埃から保護し,包装体の体積を減少させることなどを技術課題とし,当該技術的課題を解決するために,いずれも熱収縮性フィルムを用いた密着包装の構成を採用するものであり,両発明とも,印刷装置に用いる交換部品の保存,保管のための密封包装技術であることは明らかである。
他方,刊行物発明1の技術的課題は,前示のとおり,事前に洗浄液を含浸させた洗浄布を有するカセット化したシリンダ洗浄装置を提供することであって,カセット化されたシリンダ洗浄装置が,印刷装置に用いられる交換部品であることは明らかであるところ,交換部品である以上,これを一定期間保存,保管しておく必要があることも明らかである。そして,刊行物発明1のカセット化されたシリンダ洗浄装置は,洗浄布を布供給ロールにロール状に巻いた形状,構造を有しているから,当業者が,その保管,保存に当たって,類似の形状,構造であるロール状物を保管,保存する包装形態の採用を検討することは,容易に想起することといえる。
したがって,刊行物発明1において,ロール状物である点で形状を同じくし,また,印刷装置に用いる交換部品である点でも共通する,インクリボン等の保存,保管技術を採用すること,すなわち,刊行物発明2及び9の構成を採用することには,十分な動機付けが存在するというべきであり,また,その採用は,当業者が容易に想到できるものといえる。
(2)Xは,印刷機の種類自体が多種多様であって,これらの印刷機が極めて多くの部品により構成されていること,刊行物発明1の技術的課題が,印刷機のシリンダ外周面を洗浄するための洗浄装置を簡略化しようとする点にあるのに対し,刊行物発明2及び9の技術的課題には,装置を簡略化させるという視点がないこと,刊行物発明1の大型印刷機における洗浄布と刊行物発明2及び9のプリンタにおけるインクリボンやインクフィルムとでは,利用される印刷機が異なることなどを理由に,刊行物発明2及び9を,刊行物発明1に適用する動機付けは,当業者になかった旨を主張する。
しかしながら,刊行物発明2及び9と刊行物発明1とは,印刷装置という一般的な技術分野で共通するだけでなく,印刷装置に用いる交換部品の保存,保管のための密封包装という具体的な技術課題及びその解決方法においても共通しており,これらを組み合わせる動機付けが存在することは,前述したとおりである。このような具体的な技術課題及びその解決方法が共通している以上,印刷機が多種多様であることや,大型印刷機における洗浄布とプリンタにおけるインクリボン及びインクフィルムという印刷機の相違などは,上記組合せを阻害する要因となるものではない。また,刊行物発明2及び9に,刊行物発明1の技術的課題の1つである,洗浄装置を簡略化という視点が明記されていないとしても,両発明を組み合わせることに困難性がないことは,上記説示に照らして明らかであるから,いずれにしても,Xの上記主張は,採用することができない。
4 訂正発明1の進歩性判断の誤り(取消事由4)について
(1)Xは,訂正発明1においては,ファブリックロールを垂直及び水平に搬送及び保管しても,含浸された洗浄溶剤の分布状態が実質上乱れないようにするため,洗浄溶剤を含浸しているファブリックロールを,緊密に直接接触する熱シールされたプラスチックスリーブで気密包装しなければならないのに対し,刊行物発明2及び9は,インクリボン及びインクフィルムに関するものであり,そのインクは固化されているため,これを水平又は垂直に搬送及び保管しても,重力によってインクの分布状態が変動を来すことは考えられず,このように刊行物発明2及び9に本件発明の課題(溶剤の分布状態を実質上乱さないこと)が全く示唆されておらず,また,刊行物発明1が低揮発性溶剤の使用を開示していない以上,これらの公知技術の組合せは,容易推考といえず,仮に組み合わせたとしても,訂正発明1に至るものではないと主張する。
しかしながら,刊行物発明1が低揮発性溶剤の使用を開示していないとのXの主張(取消事由1)が誤りであること,刊行物発明2及び9に刊行物発明1を組み合わせることが容易であること(取消事由3)は,前示のとおりであるから,仮に,刊行物発明2及び9に本件発明の課題(溶剤の分布状態を実質上乱さないこと)が示唆されていないとしても,当業者にとって,これらの発明の組合せが困難となるものではなく,当該組合せの結果,訂正発明1の構成に至り,同発明と同等の作用効果を有することも明らかといえるが,念のため,X主張の当該技術課題について検討する。
(2)刊行物1(甲1)には,・・・と記載されており,この記載によれば,薄いフィルム30は,巻かれた洗浄布の表面に位置し,洗浄布に,直接,緊密に接触する包装材の役割を果たしており,刊行物発明1では,この薄いフィルムと布供給ロールに形成したフランジとで,洗浄液の蒸散を防止することを課題としているものと認められる。
他方,本件明細書(甲15)には,・・・と記載されており,この記載によれば,洗浄溶剤の平衡状態を実質上乱れないようにするとは,ファブリックがクリーニング力をもつ程度に溶剤を保持することと認められるから,刊行物発明1も,洗浄液の蒸散を防止し,洗浄溶剤の平衡状態を実質上乱れないようにすることを技術的課題としていることは明らかである。
したがって,X主張の当該技術課題によって,訂正発明1の進歩性を裏付けることはできない(なお,Xは,訂正発明1が,刊行物発明2及び9と異なり,水平又は垂直に搬送及び保管しても,重力によってインクの分布状態が変動を来すことを防止できるかのような主張をするが,そのような説明は,本件明細書に全く記載されておらず,これを認めるに足る技術的根拠もない。)。
5 訂正発明4の進歩性判断の誤り(取消事由5)について
(1)Xは,本件審決が,訂正発明4について,刊行物5及び6の記載を根拠として,「ファブリックを紙ファブリックとすることは,当業者が容易に想到し得ることである」・・・と判断したことが誤りであるとし,その根拠として,@刊行物発明5の洗浄紙は,使用される直前に洗浄溶剤に含浸させることが想定されているのであって,洗浄溶剤を含浸した状態で,長期間にわたり保管又は搬送することを想定していないから,このような洗浄紙に要求される強度は,訂正発明4における紙ファブリックに要求される強度よりも弱いもので足りる上,A刊行物発明6においても,洗浄紙は,ロール状に使用されておらず,本件特許の出願時,紙ファブリックについて,洗浄液に含浸させた状態でロール状に使用するために必要な強度(耐水性)を確保しつつ,洗浄溶剤を含浸することは,技術的に極めて困難であったなどと指摘する。
(2)なるほど,刊行物発明6は,印刷装置の印刷円胴の洗浄装置において,溶解力を有する溶剤を洗浄液として含浸した洗浄紙を開示するものではあるが,当該洗浄紙をロール状に使用するものではない(甲6)。
しかしながら,刊行物5(甲5)には,・・・と記載されている。
これらの記載によれば,刊行物発明5では,洗浄溶剤を含浸させロール状に巻かれた洗浄紙が容器に保管されているものと認められるから,ファブリックロールとして長期間保管するカートリッジを開示していることは明らかである。
したがって,Xの上記主張は,刊行物発明5を誤認するものであって,これを採用することはできず,当業者は,少なくとも刊行物発明5に基づいて,ファブリックを紙ファブリックとすることを容易に想到し得たものと認められる。
6 訂正発明10の進歩性判断の誤り(取消事由6)について
(1)Xは,本件審決が,訂正発明10について,「刊行物1の・・・フランジは訂正発明10のエンドキャップに相当する」・・・と認定したことが誤りであると主張し,その根拠として,訂正発明10における「エンドキャップ」が,@洗浄布ファブリックに洗浄液を含浸する際に,コア(紙管)の中に洗浄液が浸入するのを防ぐこと,A洗浄布ファブリックをプラスチックスリーブに入れて真空引きする際に,真空度が高まり,プラスチックスリーブがコアの中に引きずり込まれてしまい破損してしまうことを防ぐこと,及びB洗浄布ロールの端面から洗浄液が流出し,周囲が濡れてしまうのを防ぐことを防止することを目的とするものであるのに対し,刊行物発明1の「フランジ」は,洗浄溶剤の蒸散を防止することのみを目的として設けられるものであると指摘する。
(2)そこで検討するに,本件訂正後の本件特許の請求の範囲には,・・・と,本件明細書(甲15)には,・・・と記載されている。
上記請求項10の記載によれば,訂正発明10は,ファブリックロールの外周エッジを越えてのびているエンドキャップを有していると認められるがコアとして紙管を用いることを前提にするものではないことは明らかであるし,当該エンドキャップは,含浸排液工程の後・・・,ファブリックロールをプラスチックスリーブに挿入する前に挿入される・・・ものと認められるから,訂正発明10において,エンドキャップが,上記@の目的のために設けられていると認めることはできない。
また,請求項10において,コアは,少なくとも一端が開口を有するものの,常にプラスチックスリーブが中に引きずり込まれるような中空状態であると規定されているわけではないから,エンドキャップが,上記Aの目的のために設けられていると認めることもできない。
さらに,刊行物発明1の「フランジ」は,洗浄溶剤の蒸散を防止するために,ロール端面に配置されるものではあるが,その一般的形状からして当然のことながら,端面からのファブリック内への洗浄液の流出を防止できることは明らかである。そうすると,ロールの端面からファブリック内へ洗浄液が流出することを防止できるという,上記Bの目的は,刊行物1に明記はされていないものの,刊行物発明1がその構成上既に解決した課題といえる。
そうすると,刊行物発明1の「フランジ」と訂正発明10の「エンドキャップ」とは,設ける目的が異なるとはいえないから,Xの上記主張は採用することができず,本件審決が,刊行物1(甲1)に記載の「フランジ」が,訂正発明10の「エンドキャップ」に相当するものであると認定したことに誤りはない。
7 結論
そうすると,X主張の取消事由には,いずれも理由がなく,本件発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,これと同旨の本件審決に誤りはなく,その他本件審決には,これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,Xの本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。」