東京高判平成15年7月1日(平成14年(行ケ)第3号)

1.事案の概要
 X(原告)は,平成4年11月6日,発明の名称を「ゲーム,パチンコなどのネットワーク伝送システム装置」とする特許出願(特願平4-339418号)をした(以下「本件出願」という。)。Xは,本件出願につき,平成11年10月25日付け書面で,本件出願の願書に添付した明細書の補正(以下「本件補正」という。)をした。特許庁は,平成12年10月24日,本件補正を却下する決定をした。Xは,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,この請求を補正2001-50007号事件として審理し,その結果,平成13年11月13日に本件補正後の明細書(以下「補正後明細書」という。)に記載された発明(以下「補正後発明」という。)に関する技術的事項は,本件出願の願書に最初に添付した明細書(以下,「当初明細書」という。)及び図面に記載されておらず,これらに記載された事項から自明であるとも認められないから,本件補正は,「願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲を超えてなされたもの」であり,したがって,「特許法53条1項(平成5年法律第26号による改正前のもの)の規定により却下」されるべきものであるとして,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
 X出訴。
 本件出願に係る発明の特許請求の範囲は,次のとおりである。
  (1)出願当初
   「【請求項1】ゲーム,パチンコデータ情報等の伝送を本店スタジオ(コンピューターセンターなど)から各家庭内等に衛星回線等(パケット,データー,マルチメディア多重回線,地上映像回線伝送など)を用いて伝送するゲーム,パチンコネットワーク伝送システム装置。
【請求項2】各地のゲーム,パチンコ機械を画面表示(光ファイバー,テレビ電話,ビデオカメラ,リモコンパチンコ機械等)して各家庭内等に撮像映像伝送しオンライン照会,検索などを行うゲーム,パチンコネットワーク伝送システム装置。」
  (2)本件補正後
   「【請求項1】ゲーム,パチンコなどのデータ情報の伝送を,本部スタジオ(コンピュターセンターなど)と支部スタジオ(中継センター,携帯端末機電話機)とを,有線,又は無線で直接,又は,間接に接続して,本部スタジオから,ゲーム,パチンコゲームなどのソフトウエアデータ情報の伝送を支部スタジオに伝送し,支部スタジオにおいて受信した前記ソフトウエア情報(仮想空間・モール,カラオケ,アニメ漫画,プロ・アマスポーツ,継続役務業他)によるゲーム又は,パチンコゲームなどを実行したデータ情報を本部スタジオ(C・T・I,コンピュータなど)から各家庭内,屋外等に衛星回線等〔パケット通信,デジタルデータ情報,マルチメディア多重回線(音声,メール,画像圧縮等)携帯電話機地上映像回線伝送(通信,放送,融合機器など)を用いて伝送することを特徴とするゲーム,パチンコなどのネットワーク伝送システム装置。
【請求項2】ゲーム場又は,パチンコホールゲーム場の,スタジオと家庭のスタジオ(テレビ,パソコン,CATV,DVD,デジタル家電,ビデオカメラテレビ電話,携帯パソコンテレビ電話機など)とを有線又は無線で,直接又は,間接に接続して,ゲーム場又は,パチンコホールゲーム場のスタジオから,ゲーム機又は,パチンコゲーム機の画像及び音声情報CD-ROM,DVDソフトウエアを家庭の上記スタジオに伝送し,家庭の前記スタジオで受信したゲーム,パチンコゲームなどの前記情報をリモートコントロールなどにより実行(前記スタジオ・テレビ,パソコン,CD-ROM,DVD,デジタル家電,デジタルビデオカメラ,テレビ電話,携帯パソコンテレビ電話機など介して発信)したデータ情報を,ゲーム場又は,パチンコホールゲーム場のスタジオに伝送し,銀行オンライン照会,景品カタログ,検索,決済,商品宅配便,出玉の貯玉,銀行振込み入出金などすることを特徴とするゲーム,パチンコなどのネットワーク伝送システム装置。」

2.争点
(1)本件補正書の日付が提出日と異なることを理由に本件補正を却下した点。
(2)添付されていない図面が存在することを前提として判断をした点。
(3)本件補正が新規事項の追加に当たるとした判断に誤りがあるか。

3.判決
 請求棄却。

4.判断
「第5 当裁判所の判断
  1 取消事由1(本件補正書の日付が提出日と異なることを理由に本件補正を却下した誤り)について
    審決は,本件補正書の日付について「なお,上記補正に係る手続補正書には提出日として平成11年10月25日と記載されているところ,同手続補正書が特許庁に差し出された日は平成11年11月1日である。」(審決書1頁の理由6行〜8行)と述べている。上記審決の説示が,手続の経緯について述べたものにすぎず,このことを審判の請求が成り立たない理由としたものではないことは,審決書の記載自体から明らかである。
    Xの主張は採用することができない。取消事由1は理由がない。
  2 取消事由2(添付されていない図面が存在することを前提として判断をした誤り)について
    本件出願に係る願書に図面が添付されていないこと,審決は,その理由中に「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されておらず」などとして,あたかも,「願書に最初に添付した図面」が存在するかのように,すなわち,本件出願に係る願書に図面が添付されているかのように述べていることは,当事者間に争いがない。本件出願に係る願書に添付された図面が存在しない以上,審決は,そのような図面は存在しないことを明示して論を進めるべきであった。審決が存在しない図面につきあたかも存在するかのように述べていることは,審決が,存在しない図面を存在するかのように誤認したか,このような誤認はしていないものの,不正確な表現をしたか,のいずれかであることを意味する。
    しかしながら,上記審決中の記述は,本件補正は,平成5年法律第26号による改正前の特許法41条(「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は明細書の要旨を変更しないものとみなす。」)の適用を受け得ず,上記改正前の特許法53条1項(願書に添付した明細書又は図面について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした補正がこれらの要旨を変更するものであるときは,審査官は,決定をもってその補正を却下しなければならない。」)の適用により,却下されるべきものである,ということを述べるに当たって,上記41条が適用されず,上記53条1項が適用されることを示す意味で,条文に記載された「明細書又は図面」の語を機械的にそのまま用いたものにすぎず,存在しない図面が存在することを前提にした判断をしたことを意味するものではないことは,審決書の記載自体から明らかである。
    Xの主張は採用することができない。取消事由2も理由がない。
  3 取消事由3(本件補正が新規事項の追加に当たるとした判断の誤り)について
    (1)当初明細書(甲第8号証はその公開特許公報である。)の記載内容は,次のとおりである(甲第8号証)。
      ・・・
    (2)補正後明細書(甲第1号証の2参照)の請求項1の構成は,前記・・・のとおりである。同記載によれば,同請求項には,次の(a)ないし(d)の技術的事項が記載されているということができる。
      (a)本部スタジオ(コンピュターセンターなど)と支部スタジオ(中継センター,携帯端末機電話機)とを,有線又は無線で直接又は間接に接続すること
      (b)本部スタジオから,ゲーム,パチンコなどのソフトウエアデータ情報を支部スタジオに伝送すること
      (c)支部スタジオにおいて,受信した前記ソフトウエア情報(仮想空間・モール,カラオケ,アニメ漫画,プロ・アマスポーツ,継続役務業他)により,ゲーム又はパチンコなどを実行すること
      (d)前記のようにして実行したゲーム又はパチンコなどについてのデータ情報を,本部スタジオ(C・T・I,コンピュータなど)から各家庭内,屋外等に衛星回線等〔パケット通信,デジタルデータ情報,マルチメディア多重回線(音声,メール,画像圧縮等)携帯電話機地上映像回線伝送(通信,放送,融合機器など)〕を用いて伝送すること
      上記(a)ないし(d)を総合すると,支部スタジオにおいて,本部スタジオから送られたソフトウェアデータ情報であるゲーム又はパチンコを実行すること,支部スタジオで実行したゲーム又はパチンコのデータ情報は支部スタジオから本部スタジオに伝送されること,本部スタジオは,支部スタジオから伝送された上記データ情報を上記各家庭,屋外等に伝送するという技術的事項を意味するものと理解することができる。
      しかしながら,当初明細書には,前記のとおり,本店スタジオ(補正後の本部スタジオに対応するものと認められる。)と各家庭内等の間でデータ情報等を伝送することが記載されているにすぎない。補正後発明の請求項1にいう「支部スタジオ」は,同請求項において,「支部スタジオ(中継センター,携帯端末機電話機)」と記載されていることからみて,当初明細書にいう本店スタジオにも各家庭内等にも当たらない,と解するのが相当である。そうである以上,補正後発明の請求項1に記載された,本部スタジオからゲーム又はパチンコのソフトウェア情報を支部スタジオに伝送し,支部スタジオにおいて受信した前記ソフトウェア情報によるゲーム又はパチンコを実行し,実行したデータ情報を前記支部スタジオから前記本部スタジオに伝送する,という技術的事項は,当初明細書に記載されているということができない。
      当初明細書に記載された「各家庭内等」とは,前記認定の(1)・・・(発明が解決しようとする課題)及び・・・(発明の効果)の記載に照らすならば,「屋外」を包含しないと解するのが相当である。上記補正後発明の請求項1に記載された技術的事項(d)のうち,実行したデータ情報を「屋外」に伝送する点については,当初明細書に記載されているということはできない。
      以上によれば,本件補正は,当初明細書の要旨を変更するものであり,しかも,当初明細書に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正には当たらないものであることが,明らかである。したがって,本件補正は当初明細書に記載した事項の範囲を超えてなされたものであるとして,これを,平成5年法律第26号による改正前の特許法53条1項の規定により却下すべきものとした審決の判断は,その余の補正事項について検討を加えるまでもなく,正当であるということができる。
      念のために,他の補正事項中のいくつかについても検討する。
    (3)補正後明細書の請求項2の構成は,前記・・・のとおりである。同記載によれば,同請求項には,次の(e)ないし(h)の技術的事項が記載されているということができる。
      (e)ゲーム場又はパチンコホールゲーム場のスタジオと,家庭のスタジオ(テレビ,パソコン,CATV,DVD,デジタル家電,ビデオカメラテレビ電話,携帯パソコンテレビ電話機など)とを,有線又は無線で,直接又は,間接に接続すること
      (f)ゲーム場又はパチンコホールゲーム場のスタジオから,ゲーム機又はパチンコゲーム機の画像及び音声情報CD-ROM,DVDソフトウエアを,家庭の上記スタジオに伝送すること
      (g)家庭の前記スタジオで受信したゲーム,パチンコなどの前記情報に基づき,リモートコントロールなどによりゲーム,パチンコなどを実行(前記スタジオ・テレビ,パソコン,CD-ROM,DVD,デジタル家電,デジタルビデオカメラ,テレビ電話,携帯パソコンテレビ電話機などを介して発信)すること
      (h)前記のようにして実行したゲーム,パチンコなどについてのデータ情報を,ゲーム場又はパチンコホールゲーム場のスタジオに伝送し,「銀行オンライン照会,景品カタログ,検索,決済,商品宅配便,出玉の貯玉,銀行振込み入出金などすること」
      当初明細書には,「利用者の持点数,(銀行オンライン口座,登録料金など)が下方に表示する。」(前記(1)・・・)との記載がある。しかしながら,この記載は,上記銀行オンライン口座,登録料金又はこれに準じるものを利用者の持点数として画面に表示することを意味するにとどまると解すべきであり,データ情報をゲーム場又はパチンコホールゲーム場のスタジオに伝送し,決済,銀行振込み入出金をすることまでも含む意味のものであると解することはできない。また,当初明細書には,「勿論,テレコード利用として,テレビ電話,ビデオテープ管理,結婚相手探しなど画像表示管理可能である。」(前記(1)・・・)との記載がある。しかしながら,この記載は,テレコードが画像表示管理に利用することの可能なものであることを意味するにとどまると解すべきであり,データ情報をゲーム場又はパチンコホールゲーム場のスタジオに伝送し,「景品カタログ,決済,商品宅配便,銀行振込み入出金をすること」までも意味していると解することはできない。
      そうである以上,上記技術的事項(h)のうち,実行したデータ情報を,ゲーム場又はパチンコホールゲーム場のスタジオに伝送し,「景品カタログ,決済,商品宅配便,銀行振込み入出金する」という点については,当初明細書に記載されているとすることはできない。
    (4)補正後明細書の発明の詳細な説明中には,次の技術的事項が記載されている(甲第1号証の2)。
      (i)支部スタジオは,各家庭のテレビ,ラジオ,ポケットベル,カーナビゲーションパソコン(インターネットゲーム専用機併用パソコン)などに接続され,本部スタジオから送信されるテレビゲーム又はパチンコテレビゲームのソフトウェアのデータ情報を受信し,このソフトウェアのデータ情報を,付随するテレビやパソコン(ゲーム専用機=端末パソコン)に画像や音として出力し,出力表示されたゲームを,付随するコントロールPADで実行することを可能とし,実行後のデータ情報を本部スタジオに送信する機械システムであって,アダプタとゲーム機本体とから構成され,アダプタは,本部スタジオから送信されて来たゲームのソフトウェアのデータ情報を受信する受信ユニットと,受信ユニットを制御する周波数コントロール部と,ソフトウェアのデータ情報の直列/並列変換部と,コントロールプログラムの収納ROMと,バスラインの制御や各部の情報書込みを制御するバス制御回路からなり,ゲーム機本体にカートリッジ式に接続することができ,前記ゲーム機本体は,制御回路とデータ情報処理部からなり,ゲームのソフトウェアのデータ情報を付随するテレビやパソコン(ゲーム専用機=端末パソコン)に画像や音として出力し,出力表示されたゲームを,付随するコントロールPADで実行することを可能とし,実行後のデータ情報を本部スタジオに送信すること(補正後明細書段落【0007】参照)
      (j)ゲームのソフトウェアの内容を変更して,台,玉,釘(立体2次3次元・・・,シミュレーション,立体的に開く,上下,側面図)開発するパチンコシミュレーションソフトウェアを選択することも可能である」こと(補正後明細書段落【0008】参照)
      (k)本件出願に係る発明は,「ゲーム場,パチンコゲーム場まで出掛ける事なく,自宅で各種のゲーム(クイズ,宝くじ,パチンコシミュレーション他CD-ROM,DVD2次3次元・・・ソフトウェア)パチンコを臨場感100%で楽しむことのでき,好みの景品配達してもらう事もでき,又,貯玉に応じて換金,銀行口座に自動振り込むシステムを提供すること」ができること(補正後明細書段落【0011】参照)
      (l)本件出願に係る発明は,「結婚相手探し,継続役務業,仮想商店街(商品売買,決裁,商品配達便),仮想美術館(芸術家小説家育成シミュレーション),仮想放送局(文字,音声,ラジオ電話局,身体障害者用放送局など),仮想ギャンブル場(競馬,競輪,競艇,オートレースなど競争馬育成選手育成)仮想銀行(仮想コイン金融等,宝くじ,証券,クレジット券など),仮想国会(政党運営,選挙,資金集め,司法,立法,行政),仮想法人(病院の患者指導,看護婦の育成他イベント等のオリンピック・万博・見本市又宗教など),仮想郵便局(仮想コイン貯金,印鑑,印紙,切手など),仮想道路(鉄道,高速道路,航空,航海),仮想農漁業(米,魚など電子換金債権証他朝市など),通信カラオケ劇場,塾,医療,学校,教育他に利用すること」が可能であること(補正後明細書段落【0011】参照)
      しかしながら,既に述べたとおり,当初明細書には本店スタジオ(本部スタジオ)と上記各家庭内等の間でゲーム,パチンコデータ情報等を伝送することが記載されているにすぎないと解するのが相当であり,上記技術的事項(i)のうち,本部スタジオから送信されるソフトウェア情報を受信し,そのソフトウェア情報によりゲーム又はパチンコゲームを実行し,このようにして実行したゲーム又はパチンコについてのデータ情報を本部スタジオに送信する機械システム(支部スタジオ)が備えられている,という点が当初明細書に記載されていると解することはできない。
      上記技術的事項(j)の,台,玉,釘を開発するパチンコシミュレーションソフトウェアについての記載は,当初明細書中に見当たらず,この点が当初明細書に記載されていると解することはできない。
      上記技術的事項(k)のうち,自宅で宝くじを楽しむことができ,好みの景品を配達してもらうことができ,貯玉に応じて換金,銀行口座に自動振り込むシステムを提供すること,についての記載は,当初明細書中に見当たらず,この点が当初明細書に記載されていると解することはできない。
      当初明細書中の「勿論,テレコード利用として,テレビ電話,ビデオテープ管理,結婚相手探しなど画像表示管理可能である。」(前記(1)・・・)との記載は,テレコードが画像表示管理に利用することの可能なものであることを意味するにとどまると解すべきであることは,前記のとおりである。上記記載は,本件出願に係る発明が,「継続役務業,仮想商店街(商品売買,決裁,商品配達便),仮想美術館(芸術家小説家育成シミュレーション),仮想放送局(文字,音声,ラジオ電話局,身体障害者用放送局など),仮想ギャンブル場(競馬,競輪,競艇,オートレースなど競争馬育成選手育成)仮想銀行(仮想コイン金融等,宝くじ,証券,クレジット券など),仮想国会(政党運営,選挙,資金集め,司法,立法,行政),仮想法人(病院の患者指導,看護婦の育成他イベント等のオリンピック・万博・見本市又宗教など),仮想郵便局(仮想コイン貯金,印鑑,印紙,切手など),仮想道路(鉄道,高速道路,航空,航海),仮想農漁業(米,魚など電子換金債権証他朝市など),通信カラオケ劇場,塾,医療,学校,教育に利用すること」が可能であることを意味するものであるということはできない。当初明細書には,他にも,上記の点を意味する記載はない。上記の点が,当初明細書に記載されているということはできない。
    (5)Xは,本件補正書において補正した事項は,当初明細書の請求項1,2中の「等」及び「など」の語によって,すべて記載されていると解すべきである,と主張する。しかしながら,補正が認められるか否かの判断において問題とされる「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項」とは,願書に最初に添付した明細書又は図面に現実に記載されているか,記載されていなくとも,現実に記載されているものから自明であるかいずれかの事項に限られるというべきである。そして,そこで現実に記載されたものから自明な事項であるというためには,現実には記載がなくとも,現実に記載されたものに接した当業者であれば,だれもが,その事項がそこに記載されているのと同然であると理解するような事項であるといえなければならず,その事項について説明を受ければ簡単に分かる,という程度のものでは,自明ということはできないというべきである。
      本件補正に係る事項のうち,上記(2)ないし(4)で指摘した事項は,いずれも当初明細書の記載から上記の意味で自明な事項ということはできず,「等」及び「など」の語によって記載されているに等しい事項であるということができないことは明らかである。
      Xの主張は採用することができない。
    (6)Xは,補正中に一部についてでも認めることができる部分があるならば,その部分を除いた部分のみを却下すべきであり,補正を全部却下することは許されない,と主張する。
      しかしながら,補正は一体不可分のものと解すべきであるから,一部でも要件に適合しない部分がある場合には,全体として補正は却下されるべきである。
      Xの主張は採用することができない。
第6 以上のとおりであるから,X主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他審決にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,Xの本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。」