最判昭和60年3月28日(集民144号399頁(昭和58年(行ツ)101号))

(原審:東京高判昭和58年3月24日(昭和56年(行ケ)第82号)

<事案の概要>
 X(原告,上告人)は,名称を「拡散ボンデイングプロセス」とする発明(以下「本願発明」という。)について,1971年(昭和46年)4月1日にアメリカ合衆国においてした特許出願(米国における出願番号第130149号。以下「米国原出願」といい,この出願に提出された明細書を「米国出願明細書」という。)に基づく優先権を主張して,昭和47年3月31日に特許出願(特願昭47-032522号)をした。その後,昭和54年7月25日,右出願の願書に添付した明細書(以下「本願明細書」という。)についてその一部を補正するため手続補正書を提出した(以下この補正を「本件補正」という。)。しかし,昭和54年12月18日,本件補正を却下するとの決定があったので,昭和55年3月12日,これに対して審判を請求し,昭和55年補正審判第23号事件として審理された。その結果,昭和55年11月11日,本件審判の請求は成り立たないとの審決があり,その謄本は,出訴のための附加期間を3か月と定めたうえ,同月29日,Xに対し送達された。
 X出訴。
 原審(東京高判昭和58年3月24日(昭和56年(行ケ)第82号))は,Xの請求を棄却した。
 X上告。
 なお,Xは昭和59年8月13日に本件特許出願の放棄をしている。

<判決>
 破棄自判。
「二 記録によれば,Xは,昭和59年8月13日,特許庁長官あてに同日付「出願放棄書」と題する書面を提出して本件特許出願の放棄をしたことが認められる。
 ところで,補正却下の決定に対する不服の審判の係属中に特許出願の放棄がされると,その後は特許出願が係属しないことになるので,右審判は審理の対象を失うものといわなければならない。したがつて,補正却下の決定に対する不服の審判請求は成り立たない旨の審決があり,その審決に対する取消訴訟の係属中に特許出願の放棄がされると,特許出願人は,右取消訴訟において右審決を取り消す旨の勝訴判決を得たとしても,補正却下の決定に対する不服の審判請求を認容する審決を得ることはできないから,補正却下の決定に対する不服の審判請求は成り立たない旨の審決の取消を求めるにつき法律上の利益を失つたものというべきである。
三 そうすると,Xは,本件特許出願の放棄をしたことによつて,本件審決の取消を求めるにつき法律上の利益を失うに至つたものというべきであるから,本件訴えは,不適法として却下すべきであり,これを適法として本案につき判断をした原判決は,破棄を免れない。
 よつて,行政事件訴訟法7条,民訴法408条96条89条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」