最判昭和52年2月14日(集民120号35頁(昭和49年(行ツ)第81号))

(原審:東京高判昭和48年6月5日(昭和43年(行ケ)第62号)

<事案の概要>
 X(原告,被上告人)は,日本国内に営業所を有しないドイツ民主共和国(東ドイツ)の外国法人である。
 Xは昭和34年11月26日,Y(被告,上告人)を被請求人として,Yが商標権者である登録第539524号商標について,登録無効の審判を請求した。特許庁は,昭和34年審判第618号事件として審理のうえ,昭和42年11月18日,「本件の審判請求はこれを却下する。」旨の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,昭和43年1月10日Xに送達された(出訴期間は昭和43年5月9日まで延長)。
 審決の理由は概略,「Xは,日本国内に営業所を有しないドイツ民主共和国の外国法人であるが,ドイツ民主共和国は1956年3月26日パリ条約の再適用を宣言し,さらに1964年7月10日パリ同盟条約(リスボン改正)及び原産地虚偽表示の防止に関するマドリッド協定等への加入宣言をし,1964年12月15日スイス国政府によって同条約加盟各国に対しその旨の通知がなされた。しかるに,これに対し,日本国政府は昭和40年1月16日上記ドイツ民主共和国のパリ条約への加入宣言に基づく一般的効力の発生を留保し,わが国に対し,その効力を生じない旨の反対宣言をしていることが明らかとなった。してみれば,単に同国がパリ条約に対する加入宣言をしたというだけでは,Xがわが国における本件審判請求をなすについて権利能力を有するものと認めることができない。
 また,相互主義の適用については,上記のような経緯に徴すると,わが国は,ドイツ民主共和国を旧特許法第32条(旧商標法第24条によつて準用せられている)にいう,その者の属する国に該当しないものとし,同国との関係においては日本国内に住所又は営業所を有しない外国人の権利享有能力に関する相互主義の適用を認めるに至つていないものと解するを正当とし,その他条約又はこれに準ずべきものに特段の協定もないから,本件に相互主義の適用を認めることもできない。よつて,商標法施行法第7条第8項を適用して,Xの本件審判請求を却下することとする。」というものである。
 X出訴。
 原審(東京高判昭和48年6月5日(昭和43年(行ケ)第62号))は,審決を取り消した。
 Y上告。

<判決>
 上告棄却。
「上告代理人磯長昌利の上告理由について
 旧商標法(大正10年法律第99号)24条の準用する旧特許法(大正10年法律第96号)32条は,外国人の特許権及び特許に関する権利の享有につき相互主義を定めたものであるが,同条にいう「其ノ者ノ属スル国」はわが国によつて外交上承認された国家に限られるものではなく,また,外交上の未承認国に対し,右相互主義の適用を認めるにあたつてわが国政府によるその旨の決定及び宣明を必要とするものでもないとした原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は,独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて,採用することができない。
 よつて,行政事件訴訟法7条,民訴法401条95条89条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」