(原審:東京高判昭和41年3月10日(昭和39年(行ケ)第154号))
<判決>
上告棄却。
「上告代理人リチヤード・ダブリユー・ラビノウイツツ,同松枝迪夫,同佐藤正昭の上告理由について。
特許法156条1項が,審判長をして当事者および参加人に審理の終結を通知させるのは,特許の審判事件は書面審理による場合が多いことにかんがみ,事件が審決をするのに熟したものと認めて審理を打ち切った旨を事件関係者に知らせ,不意打ち審決の幣を避けるとともに,審決は原則として右通知を発した日から20日以内になすべきものとして(同条3項),審判の促進をも図らんとしたものと解せられる。もつとも,右終結の通知をした後であつても,審判長は必要があるときは,当事者らの申立によりまたは職権で審理を再開することができることになつているが(同条2項),右再開をするか否かは審判長の権限に属するのであつて,当事者らに審理再開の権利を与えたものとは解されない。
従つて右156条の規定は,職権審理主義の建前のもとにおける審判機関の審判の公正と促進を図るのを主眼として設けられた手続とみるのを相当とし,これを当事者らの審判手続上の権利を保障したもののごとく主張する所論は首肯しがたい。しかも,本件における同条違反は,審理終結の通知が審決書作成に遅れて発せられたというだけのことであり,そのことによつて,上告人が審判上不利益を被つた事実は認められず,そのことが,審決の実体は影響を及ぼしたことも考えられない。してみれば,原判決が本件に審決を取り消すほどの瑕疵の存しをない旨を判示したのは,正当であり,論旨は理由がない。
よつて,民訴法401条,95条,89条に従い,裁判官全員の一致で,主文のとおり判決する。」