最判平成7年2月24日(民集49巻2号460頁(平成3年(行ツ)第139号))

(原審:東京高判平成3年3月28日(平成2年(行ケ)第131号)

<事案の概要>
 X(原告,被上告人)は自己の登録意匠(以下「本件本意匠」という。)を本意匠とする類似意匠の意匠登録出願をしたが(以下,該出願に係る意匠を「本願意匠」という。),本願意匠は先に意匠登録出願がされた他人の意匠(以下「本件引用意匠」という。)に類似していた。本件引用意匠は,本件本意匠の意匠登録出願後,本願意匠の出願前に意匠登録出願がされたものであるところ,該出願については拒絶査定が確定している。Xは,本願意匠の意匠登録出願につき拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,特許庁は,本件引用意匠と本件本意匠との類否について判断することなく,本願意匠は本件引用意匠に類似するから意匠法9条1項所定の登録要件を充足せず,意匠登録を受けることができないとして,被上告人の審判請求は成り立たない旨の審決(以下,これを「本件審決」という。)をした。
 原審(東京高判平成3年3月28日(平成2年(行ケ)第131号))は,「(1)類似意匠の意匠登録出願の際に,右出願より先に意匠登録出願がされた他人の意匠(以下「先願意匠」という。)が存在し,かつ,前者の意匠が先願意匠に類似する場合でも,先願意匠が本意匠の意匠登録出願後に出願され,本意匠に類似するときは,先願意匠は,本来,本意匠の意匠権の及ぶ範囲に属するものとして実施が許されないはずのものであるから,そのような先願意匠に類似意匠の意匠登録出願との関係で先願としての地位を認めることはできない。(2)したがって,類似意匠の意匠登録出願に係る意匠が先願意匠に類似する場合であっても,先願意匠が本意匠の意匠登録出願後に出願され,本意匠に類似するものであって,その出願が拒絶されたものであるときは,類似意匠の意匠登録出願に係る意匠は,本意匠に類似するものである限り,意匠法10条1項により意匠登録を受けることができると解するのが相当である。(3)そうすると,本件審決が,本件引用意匠と本件本意匠との類否について判断することなく,本件引用意匠に本願意匠に対する先願としての地位を認めたのは違法である。」と判断して,審決を取り消した。
 Y(特許庁長官。被告,上告人)上告。

<判決>
 破棄自判。
「二 しかしながら,原審の・・・判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 類似意匠の意匠登録出願に係る意匠が先願意匠と類似する場合には,先願意匠の意匠登録出願が取り下げられ又は無効にされたときを除き,先願意匠が本意匠に類似するかどうかにかかわらず,右類似意匠の意匠登録出願は,意匠法9条1項により拒絶されるべきものと解するのが相当である。けだし,意匠法9条1項の規定の適用上,意匠登録出願が初めからなかったものとみなされるのは,同条3項によりその意匠登録出願が取り下げられ,又は無効にされたときに限られていることからすれば,先願の意匠登録出願につき拒絶査定が確定したとしても,その意匠登録出願が先願としての地位を失うものではないと解すべきだからである。右のように解したとしても,本意匠の範囲には影響しないから,本意匠の保護を目的とする類似意匠登録制度の趣旨を損なうものではない。また,右の場合に本意匠の意匠権者が類似意匠の意匠登録を受けることができなくなるのは,その意匠登録出願が先願意匠の意匠登録出願に後れたためであって,意匠法が類似意匠の意匠登録出願の時期について本意匠の意匠権者を優遇する特別の規定を設けていない以上,やむを得ないものというべきである。
 これと異なる判断の下に本件審決に違法があるとした原判決には法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,前記事実関係の下においては,本願意匠が意匠法9条1項所定の登録要件を充足せず,意匠登録を受けることができないとした本件審決に違法はなく,他に被上告人は本件審決の取消事由を主張していないから,その取消しを求める被上告人の本訴請求は理由がないのでこれを棄却すべきである。
 よって,行政事件訴訟法7条,民訴法408条96条89条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」