さだめ
昭和二十年八月九日午前十一時二分
長崎市松山町の上空五百メートルで
原爆が炸裂したとき
あなたは大和の里で
母の胎内に居た
ぼくはといえば
丹波の篠村で
初めての田舎の夏休みを
集団疎開の宿 如意寺に
過ごしていた
このふたつの命をめぐる
さだめについては−
誰も知らない
そんなことがあるとは。
そんなことがあるはずがないと
誰も信じない
しかし−
たしかに それはあった。
月満ちて
誕生の時をはかる
あなたに すでに
約束されていることがあった。
目に見えない赤い糸が
あなたの誕生と同時に
ふたつの命を結ぶために
もうすでに
伸びてきていた
誰も知らない
あなたも知らない
ぼくも知らない
知らないうちに
決まっていることがある。
それは さだめ
不思議なさだめに 導かれて
いつの日にか ふたりは出会う
出会うはずの無い
成長の過程を辿りながら
思いもよらない
道筋を経て ふたりは出会う
そう あなたとぼくは
ついに 出会った
思いもよらない 予想もしない
相手に出会った−
と、思ったかな?
そのとき あなたは。
ぼくは判った
ああ、この人だ
とうとう 出会えた と。
出合って 初めて納得した。
それから三十年−
長崎松山町の爆心地に立って
ぼくは思った−
今日 ふたりで ここに来ることは
あの時から 決まっていたんだと。
それが
ぼくとあなたの
さだめだったのだと
1996.8.25
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