菊枝のメルヘン

魔法の杖のひと振りで
あなたは変身した。
一年前の二十一歳のあなたが
妻、主婦、母の三変化
あれよという間に
きょうは二十二歳のあなた。

ぼくは目を見張り
この不可思議を考える

ぼくは気づかなかった
あの日のあなたが
ぼくたちの列車の行き先をそっと変えたのを。
ぼくたちが旅した
五色の沼や霧の山や
北の湖や黄葉の森が
まだパンドラの箱の開かれていない
メルヘンの世界だったということを。
ぼくたちが湯浴みした山間の泉が
新しい生命を宿らせる
魔法の泉だったということを。

いま、ぼくはようやく気づく
あなたの不思議な力に。

あなたが住むと
ボロ家が心地よく甦り
古びた衣服が新しくなり
ただのジャガイモやブタやウシが
すてきな珍味に変る。
あなたが手を触れれば
赤子はほほ笑み、ぼくの疲れは去る
あなたの笑い声は『青い鳥』を呼ぶ。

のどが渇いたら
たちまち美味な飲み物が現れ
心が渇したら、ひたひたと
愛のせせらぎが癒してくれる。
ぼくはいまメルヘンの世界に居るのだ。
ぼくはアラジンのように満たされ
ソロモンの生活をおくっている。

ぼくの世界を変えたあなた
この世にまたとないあなた
ぼくは感嘆し、そして感謝する
すばらしいぼくのあなた
きょう二十二歳。

1967.8.25

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