アラスカの夏

遥々と流れ来たハバード氷河は
自らの重みに耐えかねてついに潰え
轟く氷の瀑布と化して
夏の海に果てる。

響き渡る轟音のあとに
静けさが訪れる

その静謐の中に
ぼくたちは居ます。

陽の光も弱まる、北の果ての
人の力の及ばない地で
自然が引き起こす巨大な崩壊の
轟音の絶え間に。

こんなに遠くまで
ぼくたちは来たのですね。
こんなに美しいところまで
ぼくたちは到達したのですね。

ふたりで歩き始めて
もう三十六年−
多くのことに出会い
たくさんの障害を越えて
ここまで着きました。

振り返れば
すべては茫々として静まっています。
手に負えずに取り残したことも
解決を迫る難題も
今はありません。

いま、僕たちの前には
未来があります。
他の誰のものでもない
僕たちの未来が。

僕たちを乗せて
船は滑るように進みます
波や風に悩まされること無く
暑さ、寒さをしのぐ要も無い
幸せ。これ以上なにを望むべきでしょう。

でも、僕は望みます
そうです。僕は望みます。
あなたが、ますます健やかに
ますます若々しく
明るく、ユーモラスに
毎日を楽しむことを。

自らに課題を課して進む
あなたが、敢闘し、達成し
成就した果実を
大いなる喜びをもって
収穫することを。

あなたの愛が
周囲を温め、癒し、潤し
より大きな歓びへと昇華してゆくことを。

絶え間なく氷河は流れ、船は進む。
美しいアラスカの夏は輝きつつ闌ける。

その時の移ろいに乗って
さあ、行こう。僕たちの未来に向かって。

次のプランは何ですか。
すぐに中身を決めましょう
もう、秋の気配を
肌に感じる季節なのですから

2002.8.25

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