本書裏から引用する。
受験生・大学入試関係者・教育行政当局者、必読!
p.25 では次の表明がある。
なお本書では、昭和 40 年代から 50 年代あたりまでのいろいろな入試問題を参考にして議論を展開しますが、 アラカルト方式の数学Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、A、B、C もなく、マークシート形式問題もあまりなかった当時の入試問題のほうが、 真剣に入試数学を考える場合には適している、という信念の表れであることを留意していただければ幸いです。
第1章は「学習指導要領と出題者心理」である。1-4 節の表題が「履修範囲外のハミルトン・ケイリーやロピタルの定理で解いてもよいか」なので、 この二つの定理はずっと高校数学と関係がある定理なのだろう。もっともハミルトン・ケイリーのほうは、現在(2023年)では高校数学に行列がないので、 今は気にすることはないだろう。これら二つの定理を含めて高校の範囲履修外の定理を「高校数学の飛び道具」として紹介したことを思い出した。
本書の著者は、ハミルトン・ケイリーは高校数学の範囲である2行2列の行列に対しては使うべきではないこと、 ロピタルに関しては、これに頼ると微分に関する力がひ弱になるのでロピタルの定理を用いない解法も合わせて考えるべきことを主張している。著者の意見は穏当だと思うが、 しかし私だったらロピタルの定理を使いまくってしまうだろうとも思う。芳沢氏がその後「新体系・大学数学 入門の教科書 上」で、 前提条件をおろそかにするとロピタルの定理の帰結が成り立たない場合を紹介しているのは、ロピタルの定理の濫用を戒めるためなのだろうと思う。
また、本節でこれらの定理の前に「斜回転体の体積公式」について言及されている。これについても、「高校数学の飛び道具」で少し記載している。
第2章は「マークシート問題の出題者心理」である。マークシート問題ならではの裏技について紹介されている。
この章を読むと、マークシート問題は計算問題としての整数問題と相性がいいような気がしている。
私が読んでおもしろかったのは、裏技の種類を説明しているところだ、p.67 で紹介したある裏技に対して、
上記の裏技はまだ正直なほうで、実はもっとずるい方法もあります。
以下で説明されている裏技である。裏技にも正直な裏技とずるい裏技がある、ということだ。
第3章は「計算と証文配列で見る出題者心理」である。3-2 節の表題が《「センス」を見る問題と「努力」を見る計算問題》となっていて、 これらを説明するための問題が pp.85-86 にある。そのうちの(1) を引用する。
(1) 次の式を因数分解せよ。
`(x+y+z)(-x+y+z)(x-y+z)`
`+ (x+y+z)(-x+y+z)(x+y-z)`
` + (x+y+z)(x - y+z)(x+y-z)`
` + (x-y-z)(x-y+z)(x+y-z)`
この問題のセンスある解答は本書を参照してほしい。センスのかけらもない私は次のようにして解いた。
まず、最初の2項と最後の2項の共通因子をくくりだす。
`(x+y+z)(-x+y+z){(x-y+z) + (x+y-z)}`
`
+ {(x+y+z)+(x-y-z)}(x - y+z)(x+y-z)`
{}内を計算すると次の式となる。
`2x(x+y+z)(-x+y+z)+ 2x(x - y+z)(x+y-z)`
第1項では(y+z) に、第2項では (y-z) に着目すると、それぞれ次のように計算できる。
`2x(-x^2+(y+z)^2)+ 2x(x^2 - (y-z)^2)`
共通因子の `2x` でくくると `x^2` の項が消え、次の式となる。
`2x{(y+z)^2 - (y-z)^2}`
{}内を計算すれば最終的に次の結果が得られる。
`8xyz`
因数分解を最初から狙ったわけではなく、式の計算を進めたらたまたま因数分解できた式になった、ということである。 p.90 では本書で紹介したセンスある解答に対して、次の評がある。
(1) は、他にもいくつかの方法はあるものの、展開して計算する考え方に近いもので、それなりにテクニックを要します。 もし、与式を一旦バラバラに展開することを考えると、全部で 108 項も書き出すことになり、これは極めて大変な作業になるでしょう。
私の解答は全部で 108 項も書き出すものではない。共通因子を見つけ、それで括るということは、きっとそれなりのテクニック
といえるのだと思う。
数式は MathJax で記述している。
書名 | 出題者心理から見た入試数学 |
著者 | 芳沢光雄 |
発行日 | 2008 年 10 月 20 日(第1刷) |
発行元 | 講談社 |
定価 | 800 円(本体) |
ISBN | 978-4-06-257617-8 |
その他 | 講談社ブルーバックス、草加市立図書館で借りて読む |
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