吉野雄二 : 基礎課程線形代数

作成日 : 2022-01-28
最終更新日 :

概要

まえがきから引用する : 本書はおもに将来線形代数を必要とするこれらの専門分野を志す学生に向けて書かれた線形代数の入門書である.

ここでこれらの専門分野とは、理系の自然科学はもちろんのこと文系の社会科学など

を指すと思われる。

感想

まえがきではなかなか手厳しいことが書かれている。以下長くなるが ii ページから引用する :

(前略)(2) 多くの線形代数学の教科書がすでに出版されているが, 特に最近出版されたものの多くは抽象的議論を避けて,数値計算に重きを置くものが多い. これは最近の学生が抽象論を嫌う傾向にあるので, 掃き出し法などの数値計算を通して理論の背景を理解させようという配慮からであると思う. しかし,学生の中には,行列の計算は全部掃き出し法で計算すればよいと勘違いする者が多いのも事実である.(中略) 本当に必要なのはベクトル空間や線形写像といった抽象的なものの考え方自体である. そこで,本書では掃き出し法については第6章で簡単に触れるにとどめて, むしろ線形代数そのものの考え方の理解に重点を置いたつもりである.

私は学生ではないが、自分の学生時代は抽象論を嫌っていたのは確かだ。痛いところを突かれたと思う。

脚注が親切である。p.3 の脚注で有理数 rational nubers は整数の商 quotients で表される数だから `QQ` で表わすとあり、参考になった。 ただ、無限次元ベクトル空間について触れられている個所(p.97 )で、 Qベクトル空間としての R の基底についてハメル基ということがあるという脚注は、 恐ろしく感じた。ハメル基ということばは「ヘンテコ関数雑記帳」 という本で知ったのだが、こわい感じがしたのだった。

線形代数学は解析学より抽象度が一般には高いように思う。 なかでも、まえがきにあるとおり、本書は抽象的な記述が多くを占めている。 驚いたのは、付録のジョルダン標準形の解説で、ジョルダンの定理、すなわち、 任意の `n` 次行列はある標準形行列と相似である、 の証明に、中山の補題とフィッティングの補題を用いていることである。 また、この標準形行列はある意味で一意であることに証明にヤング図形が用いられていることにも驚く。 なお、ジョルダンはもとより、中山、フィッティング、ヤングもみな、数学者の名前である。

f-安定部分空間

p.149 の 11.4 節 は「線形変換の安定部分空間」という標題である。ここで定義 11.4.1 を見てみる。

定義 11.4.1 ベクトル空間 `V` 上の線形変換 `f:V -> V` の部分空間 `U` があるとき,

`f(U) sube U`
が成立するとき,`U` を `V` の f 安定部分空間 という.

これは何とかわかる。一方で、p.207 では次の記載がある。ここで「この節」とは A.3 フィッティングの補題の節を指す。

この節を通して,`V` はいつもベクトル空間,`f` は `V` 上の線形変換を表わすものとする. この状況を以下では「`V` は `f` 安定空間である」ということにする.

この言い方は `f`- 安定部分空間と結び付くようなのだろうか。よくわからない。

誤植

p.5 上から 16 行め、任意の `x in A` 対してとあるが、《任意の `x in A` 対して》 だろう。

pp.205-220 は付章 ジョルダン標準形であるが、もともとこの章は付章ではなく第 16 章として構想されたふしがある。 というのも、付章の本文で pp.210 の下から 2 行めに注意 16.3.4 によると,という表記があったり、 p.226 の演習問題の略解に 16 章という表記があったりする。これらは 16 を A と置き換えれば正しい。 いっそのこと、付章の A というアルファベットを 16 に置き換えたほうが整合性がとれるかもしれない。

それからこれは誤植ではないが、「数の集合」について、pp.3-4 で、自然数の集合、整数の集合、 有理数の集合、実数の集合、複素数の集合をそれぞれ黒板太字の `NN, ZZ, QQ, RR, CC` で表わしている。 しかし、目次と本文の間にある記号表のページではそれぞれを太字立体の N, Z, Q, R, C で表わしている。 また p.88 以降では実数体、複素数体、有理数体が出てくるがここも太字立体R, C, Qである。 ややこしいことに、記号表では、実係数の多項式全体のなす `RR` ベクトル空間や 複素数係数の多項式全体のなす `CC` ベクトル空間をそれぞれ `RR[x], CC[x]` で表わしているのに対し、 p.88 以降のこれらの多項式はそれぞれ R`[x]`, C`[x]` である。 これらは別に問題にはならない。

数式記述

このページの数式は ASCIIMathML で記述している。

書誌情報

書名基礎課程線形代数
著者吉野雄二
発行日2000 年 3 月 25 日 初版発行
発行元サイエンス社
定価1,700 円(本体)
サイズA5 版 229 ページ
ISBN4-7819-0945-0
NDC
備考草加市立図書館で借りて読む

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MARUYAMA Satosi