「本書の学び方」から引用する:
本書は幾何を学び始めの中学生・高校生,一通り学んだが幾何が苦手な高校生, 再学習をしたい大人を対象としています.
なお、本書は「図形編」と銘打っているが、他の分野はない。「なっとくの 高校数学 図形編」 と偶然俳句になっているのだから、ほかにも偶然俳句ができる「微分編」や「積分編」、 「代数編」などを書いてほしかった。
著者は「はじめに」で巧みな補助線は不要
と言っている。そして、
巧みでない補助線は自力で引ける必要がある
とも言っている。どこからが巧みで、
どこからが巧みでないのか。それはこの本を読まなければわからないだろう。
たとえば、ユークリッド幾何において、三角形の内角の和が 180° であることを証明するために、 補助線を引くことならば、俺でもできる。例えば右の図のように、A を通り BC に平行な直線を引く、 というものだ。こうすると、●どうしは平行線の錯角により等しく、×どうしもは平行線の錯角により等しい。 A の水平線を見れば、角A、角B、角C が一列に並んでいるから 180° となる。これでいいだろう。 この証明では A を通り BC な直線だけを使ったが、ほかにも C から BC を延長した線と BA に平行な直線の 2 本の補助線を引いて、一組の錯角と一組の同位角を使って証明する方法もある。
俺が引ける補助線はここまでだ。これ以上難しい補助線は引けない。もし補助線を引かないといけないときはどうするか。 あきらめるしかないだろう。
では、次の問題に対する補助線はどうだろうか。 p.104 にある【角の二等分線の定理】だ。
角 A の二等分線が BC と交わる点を D とする.
BD : CD = AB : AC
である.
本書での証明は、補助線を引くものと計算によるものを示している。補助線を引く証明は本書の図 6.2 を使っている。 この図 6.2 から俺の判断でいくつかの記号を省いたものを右に示す。 補助線は 2 つある。まず、BA を延長した線の上に点 E を取る。点 E は直線 CE が直線 DA と平行になるように取る。そうして直線 DA を引く。これが角の二等分線の定理の証明に使われる。 そういえば、この証明問題とは異なるが、角の二等分線に関する証明問題をどこかの WEB ページで俺は見た。 そのページでは、このような点 E をとる解法を示していて、 「角の二等分線があれば、このような点 E をとって E を通る補助線を引くのは定石」という書き方をしていた。 これを見て、「そうか、定石なのか、ではなぜこれが定石なのだろう」と思っていた。 そして本書を読んで、その定石たる理由がわかったような気がした。というのは、 本書の p.105 に次のように書いてあったからだ。
平面幾何では折れ曲がった線分は考えにくいので
折れ曲がった線分は一直線上に移動するか平行な線上に移動する
のがポイント(以下略)
なるほど。BD : CD = AB : AC をいうのに、BD と CD は一直線上だからいいが、
AB と AC は一直線上にない。だから、AC を 直線 AB 上にもってくればいい。
だから AB を延長するのだな。すると、AC の長さを移動する先はどこか。
AE の長さを求めるには E を AB の延長上にとるわけだ。E の候補として、
C を通り AD に平行な直線と 直線 AB の交点をとればいい。
というのは、このような平行線を引いておくと、いろいろな角や辺が等しくなるからだ。
まず、角 CAB と 角 ADE は平行線の錯角により等しい。
また、角 BAC と 角 AED は平行線の同位角により等しい。
そうすると、角 CAB と角 BAC は等しいから角 ADE も角 AED が等しい。
よって 三角形 ADE は二等辺三角形である。よって AD = AE がいえる。
ここまでくればなんとかなる。本書でいう「平行線の比の定理」(p.89) から、
AB : AE = DB : DC である。また、AE = AD であるので、AB : AD = DB : DC である。
ここまでくると、点 E をとること、すなわち直線 AB の延長線と点 C を通り直線 AB に平行な直線は、 巧みでない補助線、 すなわち自力で引ける必要がある補助線であることがわかった。 もっとも本書では補助線を引かない解法も紹介している。これは面積を計算する方法である。 著者はいう:
私は面積を計算する方がよい方法だと思っています. それは,角が二等分でなくても同様に考えられるからです.
俺もそう思う。だから、せっかく補助線の引き方がわかったのだけれど、 このような角の二等分線の問題があれば補助線は引かずに面積で計算しようと思う。
俺が幾何が嫌いになった理由にはいろいろあるが、 一つにはラングレーの問題がわからなかったからである。 私が大学生だったころ、知人から「これを求めてみろ」と言われて見た図形がラングレーの問題だった。 いろいろ線を引いたがわからず、降参したのだった。解法は知人から教わったかどうかは覚えていない。 その簡単そうな面をした構えとは裏腹に、うまい補助線を引かないと何とも答にたどり着かない。 そんなわけで、ラングレーの問題が嫌いになり、ひいては幾何学まで嫌いになった。 ついでに図学の授業も嫌いになってしまい、単位を取るのをあきらめた。 本書を見て、補助線の引き方と証明の仕方を学んだ。 しかし、補助線のない状態で本書で示される補助線が引けるわけがない。観賞用の幾何だと思う。
なお、本書の p.167 の最後の行で、
「△ ABE は二等辺三角形」ということが頭にあれば,
とあるが、正しくは《「△ ABC は二等辺三角形」ということが頭にあれば,》
だと思う。叙述の順序からして、この段階でわかっているのは「△ ABC は二等辺三角形」だけだからだ。
「△ ABE は二等辺三角形」であることは真だが、それはその後の推論で初めてわかるからである。
付け加えれば、△ ABE は正三角形であることがわかる。
本書の pp.18-19 から引用する。これは、多角形で微分幾何学の回転数に相当する概念を説明した経緯の説明で書かれている。
本講を書き上げてから,似たような話が『考える力をつける数学の本』岡部恒治著,日本経済新聞社, にあることを見つけました.似てはいますが,理論構成がまったく違います. 『非ユークリッ
ドの 世界』寺坂 英孝著,講談社ブルーバックス,にもあると岡部先生の本に書いてありましたが, それは確認していません.
私が本書をたまたま借りていたのと同時期にたまたま、 『非ユークリッド幾何の世界』寺阪英孝著,講談社ブルーバックス を借りていたのでこちらも読んだが、微分幾何学の回転数に相当する記述は見つからなかった。
数式はMathJax を用いている。
書名 | なっとくの高校数学 図形編 |
著者 | 安田亨・松本眞 |
発行日 | 2005 年 7 月 20 日 第 1 版 第 1 刷発行 |
発行元 | 日本評論社 |
定価 | 1600 円(税別) |
サイズ | |
ISBN | 4-535-78365-9 |
NDC | |
その他 | 草加市立図書館にて借りて読む |
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