特殊関数に詳しい応用数学の名著。
厚さの割には安く、お得な本である。また図も多く、見ているだけで楽しい。
p.8 では Taylor の展開式とその剰余について述べられている。
なかほどで、Taylor の定理が微分学において最も重要な定理であるといい、
もしこの定理がなければ微分学の活用範囲は実にあわれなものであろう.
とまでいっている。
さて、剰余 `R_n` とは下記の Taylor 展開の末尾の項を指す。
`f(x+a) = sum_(m=0)^(n-1) x^m / (m!) f^((m))(a) + R_n`
`R_n` の形は次の2種類が載せられている。
`R_n = x^n /(n!) f^((n)) (a + theta x)`
`R_n = (x^n (1 - theta')^(n-1))/((n-1)!) f^((n)) (a + theta' x)`
同書では第一のを Lagrange の形,第二のを Cauthy の形という
とある。なお、`0 lt theta, theta' lt 1` である。
この本にはないが、上の両者を特別な場合として含む剰余がある。
`R_n = (x^n (1 - theta)^(n-p))/((n-1)!p) f^((n)) (a + theta x)`
ただし `p` は `0 lt p le n` を満たす実数。
この剰余項をロッシュ-シュレーミルヒ ( Roche - Schlömilch) の形という。 `n = p` の場合は Lagrange の形に、`n = 1` の場合は Cauchy の形に帰着する。
この形は、ロッシュの剰余項またはシュレ(ー)ミルヒの剰余項と呼ばれる場合もある。
楕円関数が出ているが、この ℘ 関数というのはなんだろう。たぶんペー関数と呼ぶのだと思って調べてみたら、その通りだった。 ただ発音が書かれていない用語が多いので、素人には扱い難い。
索引はアルファベット順である。S の項に Serret-Frenet の公式がある。ふつう、フレネ=セレの公式というのではないだろうか。 そう思って示された 38 ページを見てみると、本文には Frenet-Serret の公式と書いてあった。 では索引の F の項はどうか。Frenet-Serret の公式 38 と載っていた。しかし、これは例外であった。
数学ではよく近傍ということばが使われる。のちの論理展開で都合がいいようにとった十分近い領域のことである。 数学以外では近傍ということばは使わないと思う。日常使うのは近所であり、数学では近所ということばは使わない。 ところが、この本 p.180 で近所ということばが次のように記述されている。近所っていいなあ。
`z = a` の近所(ただし `a` を除く)で `f(z)` は正則かあるいは極以外の特異点を持たないで, `lim_(z -> alpha) f(z)` の値が全く不確定である場合には, `z = a` は函数 `f(z)` の真性特異点であるという.
p.437 の脚注が、 1) 寺沢,小平共編 : 佐野応用数学,現代工学社,14頁.
とある。
佐野応用数学というのは変だと思ったら、
どうやら寺沢,小平・共編、佐野静雄・著 応用数学が正しいようだ。
601 ページもある本なので役に立つかもしれない。
p.531 は 12.15 `vartheta` 函数であり、これについては次のように述べられている。
楕円函数に関する種々の計算をするにはこれを使うと非常に便利であるから,ぜひその一斑を心得ておく必要がある。
この一斑を心得
るというのはどういうことか、調べてみた。角川新字源(改訂版)によれば、一斑とは豹の皮のひとつのまだら模様、
転じて物事の一部分を指す、ということだった。なるほど。
章末には問題が出ているが、巻末の「問題解答と註」で言及されている例は少ない。 たとえば次にあげる問題の解答は載っていない。 著者にとってはやさしいのだろう。第3章 p.117 にある問題を引用する :
16. 閉曲線 C で囲まれた面分 S の面積は線積分
`1/2 int_C (xdy - ydx)`で与えられることを示せ.
私の解答例は次の通り。
本書の Gauss の積分定理から導かれる p.102 の次の式
この解答を得るまで私は数年間悩んでいた。 この問題自体は、 安田 亨 : 東大数学で1点でも多く取る方法―理系編― を読んだときから知ったのだが、解答がわからず、ずっともやもやしていた。 わかってみればあっという間である。結局、面積というからには重積分 `int int_S 1 dxdy` だから、 左辺がこの形にならないかな、と考えたらわかったのだった。なお、問題としては、 平面のグリーンの定理[物理のかぎしっぽ] (hooktail.sub.jp) などにも載っている。
この問では `S` を面分といっているが、面分という用語は見たことがない。本書でも本文には出てこない。 問題においては本問のほかには同じ章の問 18 にしか出てこない。
数式は ASCIIMathML で記述している。
書名 | 自然科学者のための数学概論 |
著者 | 寺沢 寛一 |
発行日 | 1997 年 6 月 5 日 |
発行元 | 岩波書店 |
定価 | 円(本体) |
サイズ | |
ISBN | 4-00-005480-5 |
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