林俊介:100 年前の東大入試数学

作成日 : 2023-06-27
最終更新日:

概要

「はじめに」から引用する。

さあ,それでは,100 年前にタイムスリップし,当時の東大受験生になったつもりでチャレンジしてみましょう!

感想

本書は「問題編」と「解答・解説編」に分けられている。解答・解説編は第1章から第5章まである。扱われている題材を解くには、大学2年生までの数学および物理が必要と思われる。 もっともそれでも、大変な問題もある。

放物線の軸を定規とコンパスで決定する方法

pp.214-215 に問題 069 とその解答がある。

069 紙上に描かれた放物線がある。定規とコンパスを用いてその軸を求める方法を述べよ。

この解法は、次の手順を踏んでいる。以下、本書の p.214 の要約である。

  1. 放物線と相異なる2点で交わる直線を引き、その2交点をP, Q とする。
  2. 上記直線と平行でやはり放物線と相異なる2点で交わる直線を引き、その2交点をR, S とする(`P!=R, Q!=S`)。
  3. 線分 PQ と線分 RS の中点をそれぞれ M, N として、直線 MN を引く。
  4. 直線 MN に垂直でかつ放物線と相異なる2点で交わる直線を引き、その2交点を T, U とする。
  5. 線分TUの垂直二等分線を引けばそれが放物線の軸である。

この解法が成り立つのは、紙上に描かれた放物線を頂点が通っているときである。 放物線が頂点からみて一方のみにある場合は、上記の解法は使えないと思う。例えば右の図で、 放物線が `x gt 0` の間しか与えられていない場合は、直線 MN に垂直でかつ放物線と相異なる2点で交わる直線は引けない。 このような場合にも定規とコンパスだけで放物線の軸を決定することができるかどうか、私には不明である。

現代の入試数学でも通用する問題

p.3 では、国会図書館で見つけた、現代の入試問題にない問題という見出しで、昔の入試問題を著者が見たときの驚きが述べられている。 本書の収められた問題は確かに、現代の大学入試問題にはない問題が多いが、現代でも大学入試問題として通用する問題もある。たとえば、次の問題などはどうだろうか。

051 `int_0^oo abs(sinx)e^-xdx` を計算せよ。

本書の pp.170-171 にこの問題と解答が掲載されている。この解法を見る限りは、現代の高校数学でも十分理解できると思う。 ただ、実際の大学入試問題として広義積分は表向きには出せない。だから、佐久間一浩:特異点のこころえで紹介されているような体裁をとるのがいいと思う。

付記

グラフは defghi1977 氏のSVGGraph.js(defghi1977.html.xdomain.jp) を用いている。

書誌情報

書名 100 年前の東大入試数学
著者 林俊介
発行日 2022 年 8 月 16 日(初版)
発行元 KADOKAWA
定価 1400 円(本体)
ISBN 978-4-04-605616-0
その他 越谷市立図書館で借りて読む

まりんきょ学問所数学の部屋数学の本 > 林俊介:100 年前の東大入試数学


MARUYAMA Satosi