佐久間 一浩:特異点のこころえ
作成日:2021-10-07
最終更新日:
概要
副題は「トポロジーの本質を視るために」。
感想
私のように大学数学もわからない者には、荷が重い。ただ、いくつかある問題は解いてみようとした。
まずは p.17 の問題である。
□問題 2.1 曲線 `C : y = e^(-x) sin x ( x gt 0) ` を考える.
`C` と `x` 軸で囲まれた部分の面積を `y` 軸に近い方から順に図 (この引用では省略)のように
`S_0, S_1, S_2, ldots` と定める.
このとき,`S_n` を求めよ.また,`S = sum_(k=0)^oo S_k` とするとき,`S` の値を求めよ.
さらに,不等式
`m lt 1000 S lt m+ 1`
を満たす整数 `m` を求めよ.
面積の公式から `S_n` は次の式で表せる:
`S_n = (-1)^n int_(npi)^((n+1)pi) e^(-x) sinx dx`
`S_n` を求めるために部分積分を2回行う:
`S_n`
`= (-1)^n[-e^(-x)cos x]_(npi)^((n+1)pi) - (-1)^nint_(npi)^((n+1)pi) e^(-x) cos x dx`
`= e^(-(n+1)pi) + e^(-npi) - (-1)^n[e^(-x)sinx]_(npi)^((n+1)pi) - (-1)^n int_(npi)^((n+1)pi) e^(-x) cos x dx`
`= e^(-(n+1)pi) + e^(-npi) - (-1)^n S_n`
`S_n = 1/2 (e^(-npi) + e^(-(n+1)pi))`
`S_n` は初項 `1/2(1+ e^(-pi))`,公比 `e^-pi` の等比級数であるから、
`S = 1/2 (1 + e^-pi) * 1 / (1 - e^-pi) = (e^pi + 1)/(2(e^pi - 1))`
問題文の欄外には、近似値 `e^pi ≒ 23.14` が与えられている。これを用いて、
`S = 0.5451ldots`
が得られるので、与えられた不等式を得る `m` は `m = 545` 。
最後はたまたま `e^pi` の近似値が与えられていたので求められたが、これを何も知らないで近似するのは大変だ。
少なくとも私は、コンピュータを使わずに筆算で、この近似値を求める自信がない。
次は p.56 の問題である。
□問題 5.1 座標平面上に存在する三角形全体の集合を $ \mathcal{T} $
とする.`T_1, T_2 in ` $ \mathcal{T} $ に対して,
`T_1 ~ T_2 <=> T_1 ∽ T_2`
(*)
により関係 `~` を定める.ここで,∽ は三角形の相似記号である.
これは同値関係になるので,`T in ` $ \mathcal{T} $ の同値類を `[T]` と書くことにする.
`T in ` $ \mathcal{T} $ に対して,`T` の 3 辺を `a, b, c` とし,その面積を `S(T)` で表わすことにする.
このとき,
`Delta(T) = (a^2+b^2+c^2)/(S(T)) in RR`
と定義する.
(1) (*) が実際に同値関係になっていることを示せ.
(2) `Delta([T]) in RR` は well-defined であること,
すなわち `Delta([T])` の値は代表元 `T` の選び方に依らずに定まることを示せ.
(3) 任意の `r in RR` に対して,ある $ T \in \mathcal{T} $ が存在して,
`Delta(T) = r` が成り立つかどうかを考察せよ.
(4) `Delta([T_1]) = Delta([T_2]) <=> T_1 ~ T_2` が成り立つかどうかを考察せよ.
(25 分以内で初段)
これは難しい。
(1) `T_1, T_2, T_3 in ` $ \mathcal{T} $ とする。まず、(a) `T_1` は `T_1` と相似である。
そして、(b) `T_1` と `T_2` が相似ならば、`T_2` と `T_1` は相似である。さらに、
(c) `T_1` と `T_2` が相似で、かつ `T_2` と `T_3` が相似であれば、`T_1` と `T_3` は相似である。
以上、(a), (b), (c) より、(*) が同値関係になっていることが示すことができた。
(2) 代表元 `T_1` を一つ選び、その三角形の 3 辺を `a, b, c` とする。
この三角形に相似な三角形を `T_2` とする。`T_2` の 3 辺は、
`k gt 0` なる実数 `k` により、`ka, kb, kc` と表わせる。このとき、
`Delta(T_2) = (k^2a^2+k^2b^2+k^2c^2)/(k^2S(T_1)) = (a^2+b^2+c^2)/(S(T_1)) = Delta(T_1)`
これは、`Delta(T)` の値は代表元 `T` の選び方に依らずに定まることを示している。
(3) `T = /_\ ABC ` において、`BC = a, CA = b, AB = c` とし、CA と CB のなす角を `theta (0 lt theta lt pi)` とする。
`a` と `b` を固定し、
` theta ` を 0 に近づければ `S(T)` は 0 に近づき、かつ `a^2 + b^2 + c^2 ` は `a^2+ b^2` に近づくので、
`Delta(T)` は無限大に近づく。また、`theta ` を 0 から `pi` まで変化させると、`a^2+b^2+c^2` は単調に増大するが、
底辺 `a`、高さ `b sin theta` の三角形を考えることで、`S(T)` は `sin theta = 1` のとき、すなわち
`c^2 = a^2 + b^2` のとき面積は最大値をとる。したがって、`S(T)` の上限はない。
下限はありそうだが、わからないのでここで断念した。
(4) `Delta([T_1]) = Delta([T_2]) lArr T_1 ~ T_2` が成り立つことについては (2) で既に示した。
一方、`Delta([T_1]) = Delta([T_2]) => T_1 ~ T_2` は成り立たないことを示す。
3辺の長さのうち2辺を同じ長さ `a` に固定し、残りの辺の長さを `2ka (0 lt k lt 1)` としたときの二等辺三角形の
`Delta(T)`
について考察する。以下 `Delta(T)` を `D` と略記する。
`D = ((4k^2 +1 ) a^2)/(ka * sqrt(a^2 - k^2a^2)) = (4k^2 + 1) / (k sqrt(1-k^2))`
`:. D^2 = ((4k^2 +1 )^2)/(k^2(1 - k^2))`
`D^2` のとりうる範囲について考察する。`k^2 = t` とおくと、`t` についての2次方程式
`(4t+1)^2 - t(1-t)D^2 =0`
が、`0 lt t lt 1` の範囲で解がある条件を考える。左辺を `f(t)` とおくと、`f(t)` は `t` に関する2次式であり、
`f(t) = (D^2 + 16) t^2 - (D^2 - 8)t + 1 = 0`
`t = (D^2-8 +- sqrt((D^2-8)^2 - 4(D^2+16)))/(2(D^2+16)) = (D^2-8 +- sqrt((D^2-10)^2 - 20))/(2(D^2+16))`
よって、`D^2 = 10 + sqrt(20)` を超えていれば、t は区間 (0, 1) の間で2つの解をもつ(ここらはもう少し精密に言わないといけない)。
これは同じ `D` について異なる2つの `k` が存在することを表す。`k` が異なる2つの三角形は相似ではない。
よって、`Delta([T_1]) = Delta([T_2]) => T_1 ~ T_2` は成り立たない。
私があきらめた `S(T)` の下限だが、調べてみると次の Weitzenböck の不等式という名前で知られている次の結果がある。
`a^2 + b^2 + c^2 ge 4sqrt(3) S(T)`
等号は `a = b= c` のとき、かつこのときのみ成り立つ。
これを使えば、`Delta(T)` の下限は `4sqrt(3)` であることがわかる。
肝心の特異点については何もわからなかったが、時間があれば勉強してみたい。
数式記述
このページの数式は MathJax で記述している。
書誌情報
書 名 | 特異点のこころえ |
著 者 | 佐久間 一浩 |
発行日 | 2019 年 5 月 30 日 第1版第1刷発行 |
発行元 | 日本評論社 |
定 価 | 3000 円(本体) |
サイズ | A5版 214 ページ |
ISBN | 978-4-535-78897-8 |
その他 | 越谷市立図書館にて借りて読む |
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