白取 春彦:独学術

作成日:2013-06-20
最終更新日:

概要

著者はあとがきで「独学は人生を変える」と主張する。その著者が独学の心構えと実際を説く。

感想

合うところと合わないところ

この内容で 1000 円か、損した、と最初は思った。 まあ、よいところもあるので、そこは見習わないといけない。 しかし、これは受け入れられない、というところもある。

カバーの裏側

カバー(正式にはジャケット)のそでに宣伝文がある。これを引き写してみる。

本書は、 自分で勉強しようにもどこか不
安でおぼつかない感じを持っている人に
勇気と指針とコツを与えることを目的と
する。実験や機器を必要とする理科系以
外の勉強なら、ほぼすべて自分でできる。
本書で紹介する方法をためしてみれば、
勉強の本当の楽しさ、自分の能力の果て
しなさ
がわかることだろう。

この文は、一番最後に目にした。ここは抜粋であり、本文でも理科系以外云々のところは 17ページに書いてある。 「理科系以外の勉強なら」と書いてあることに気が付けば、 理科系の独学に興味がある私は買わなかっただろう。

しかし、理科系と一口にいっても、実験も機器も必要としない分野は多くある。数学、 理論系の物理、化学、生物などの理学系だ。これらは著者の方法で対応できるのか? 自分で解を見つけないといけないだろう。 それから、実験ではないが野外観察(フィールドワーク)を必要とする分野もある。 このような分野では独学ができるのか、興味はつきない。

さて、よく読んでみるとこんな個所があった。

まず基礎を固め、それからだんだんと難しいほうへという方向性が必要なのは数学と楽器演奏だけである。 他の事柄には実は基礎も中級も上級もない。(p.19)

そうだろうか。数学以外の理科系の分野は違うのだろうか。 数学だって水道方式がある(もっともこれは基礎応用というより、一般特殊のことをいっているが)。 物理や生物だって基礎から難しいほうにはいるのではないか。 スポーツはどうなのか。

このあと、著者は哲学の入門書ではなく、哲学書そのものを読め、といっている。 これは、哲学には当てはまるかもしれない。少なくとも私はそうしてきた。 プラトンは全集を買った。他の主要な哲学者の著作は、中央公論社の「世界の名著」を買った。 (世界の名著はこの著者も勧めている)。 しかし、物理ではどうだろうか。 少なくとも、ニュートン力学を理解したいからといってニュートンの「プリンキピア」を読むのはばかげている。 そんなことをした物理学者はごくわずかなはずだ。初心者用の本があっていい。 (なお、世界の名著にはこの「プリンキピア」もある)。

p.20 では、学校のテストに出される問題の例がある。

日本に仏教が伝来したのは、(    )年である。この空欄を埋めなさい。

著者は、仏教伝来を何年と記すことができない、という。なるほど。そして、 学校の勉強ができた人はこの空欄に五五二年と簡単に記すことができるのである。 という。ん?この数字に違和感がある。五三八年という説があるのではなかったか。 私の予想は、Wikipedia にあたって解決した。538 年 と 552 年の両方があるというのだ。 著者はインターネットも、そして Wikipedia も批判するけれど、私にとってはありがたいものだ。 なぜ著者は 538 年説を全く本に書かなかったのだろう?

私は著者と別の観点から見ている。 私に言わせればこんなのは数値の観測誤差であり(理系にいるとこういういい加減な考え方をする)、 歴史の因果関係が狂いさえしなければかまわない。もっとも私には歴史の因果関係がついぞつかめなかったから、 歴史が苦手になったのだ。だから私のいうことは信じないでほしい。

独学に関する本

書誌情報

書 名独学術
著 者白取 春彦
発行日2012 年 9 月
発行所ディスカヴァー・トゥエンティワン
定 価1000円(本体)
サイズ?版
ISBN9784799312254
その他ディスカヴァー携書

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MARUYAMA Satosi