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レイル・ストーリー3、ただいま発車いたします。


 ●消えた金名線の謎

石川県内に鉄道、バス路線を展開している北陸鉄道。かつて加賀温泉郷や能登半島にも鉄道路線が存在したがその大部分は廃止され、現存するのは金沢の近郊を走る石川線と浅野川線の二つだけとなってしまった。

廃止された路線の中には、果たせなかった夢が路線の名前に残っていたものがあった。「金名線」がそれである。

昭和の初期には金沢の南郊を走る路線が形成された。現在唯一残る石川線(野町-加賀一の宮)と、能美線(鶴来-寺井)、そして加賀一の宮からさらに手取川の上流、白山下までを結んでいた金名線の三つである。これらは昭和18年に陸上交通調整法により、石川県内の私鉄路線と共に金沢市内に路面電車を走らせていた金沢電気軌道を母体とする、北陸鉄道に統合された(一部路線は戦後合併)。またこれら三路線は総称して石川総線と呼ばれていた。

金名線の前身、金名鉄道は始め白山ろくの集落を蒸気機関車で走る、のんびりとした路線だった。のち石油の入手難で電化され電車が走るようになったが、のんびりムードには変化はなかった。

その「金名線」という名前の由来は、ズバリ金沢と名古屋を結ぶ鉄道路線となるもの…というものだった。しかし当初の目的はおろか路線は石川県内にとどまり、白山下という山あいの駅が終点になった。この先一本のレールも敷かれることもなく。

金名線は戦後のモータリゼーションの影響を受け、年々乗客は減るいっぽう。昭和62年4月29日、とうとう廃止され金沢と名古屋を結ぶという壮大な夢はこの時、幻と化した。晩年には午前は6時〜10時、午後は15時〜21時、その間だけ40分おきに運転するというパートタイマー路線だったという。終点白山下駅跡は現在も駅舎がそのまま残されていて、「白山下駅」という標記もそのままである。

もとの白山下駅はそのまま

ホームも残っている

もと白山下駅

かつてのホームはそのまま残っている

金名線が廃止されたのは確かに利用客の減少もあったが、決定的だったのは途中の手取川を渡る鉄橋の橋ゲタを支える岩盤に亀裂が入っていたのが昭和59年12月22日に発見され、そのままではあまりにも危険で電車の運転が出来ないということで即運休となったことだった。しばらく復旧方法について検討されたが、岩盤の風化がひどく鉄橋を支えきれないという結論になって、そのまま金名線の廃止が決定した。
鉄橋は廃止後撤去され、草生したコンクリートの台だけが残っていた。

橋台の下の岩盤に亀裂が

ここを電車はのんびり走っていた

この岩盤が路線の廃止を決定づけた

廃止後の対岸の線路跡

廃線跡は多くがサイクリングロードに改修された。すぐ近くを走る県道よりも勾配やカーブが緩やかなその道は、そこがかつて線路だったということを物語っている。

大日川鉄橋

また手取川の支流、大日川を渡っていた鉄橋はそのまま残されていた。まるで今にも電車が走ってきそうな…そんな錯覚さえ覚える光景だったが、平成14年にこの橋は撤去され、今は道路に変わっている。

廃止された金名線に対し金沢南部のベッドタウンを多く抱える石川線は、金沢北西部を走る浅野川線と共に合理化で路線を維持することになり、石川線には元東急東横線の7000系が、浅野川線には元京王井の頭線の3000系が導入され、赤字続きだった両線は電車の効果があったか一旦は黒字に転換したという。ただ、どちらも金沢の中心部に乗り入れておらず、スピードも遅く、乗客数の伸び悩み…という問題は抱えているようである。

昭和62年7月、北陸鉄道は高速バス事業に参入した。この記念すべき最初の路線は金沢-名古屋間であった(金沢-京都線も同時開設)。路線はJR西日本、JR東海、名鉄との4社共同で運行され、運賃はJR北陸線特急「しらさぎ」の半額程度とあって爆発的人気を得た。そのJR特急「しらさぎ」は一時ダメージを受けたが、今ではJR、高速バスともお互いに金沢-名古屋間の乗客数を延ばす結果となった。

また奇しくも金名線が廃止された年に開設されたこのバス路線は、金名鉄道以来の夢が半世紀以上を経てようやく、日の目を見たものでもあったのかもしれない。


ようやくボクの地元、石川県からの話題を書くことが出来ましたが、北陸にはこのような廃止された路線が多いのです。モータリゼーションの影響…志半ばにして挫折し、路線が中途半端に終わったもの…

でもこんな暗い話題ばかりではありません。我が石川県では北陸鉄道浅野川線の、JR金沢駅東口再開発に関連した北鉄金沢駅地下化が実現したのです。北陸では初の地下線開業…なんか少しだけ嬉しい感じです。

―参考文献―

レイル 1980年夏号 <特集> 北陸の私鉄 プレス・アイゼンバーン刊
鉄道ピクトリアル 1996年9月号 <特集>北陸の鉄道 鉄道図書刊行会刊

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ながらくのご乗車、ありがとうございました。レイル・ストーリー3はこれにて終点です。「地下鉄銀座線ストーリー」以来、話題を拾っては書き…を続けてきましたが、どうやらこの辺でひと区切りしなければならないようです。
ここまでの話題は関東や関西のものが多く、そのために何度も取材に出掛けました。いろんな路線に乗ってみて、その特徴などにも少しは触れることが出来ました。その中で東京と大阪、また地方都市の抱える交通問題の違いや取り巻く環境の違いなども、ようやく見えてきました。

ファンと利用者、政治と経営サイド、理想論と理論。これらが今、全国各地で時には熱く、時には冷たく論議されています。ただし多くは「だったらいいなあ」で語られているような感じを受けます。本当に必要なもの…多くの税金や投資を必要とするものに個人的な理想を押し付けるようなことだけは避けたいものです。

また近いうちに逢える日を期待して、ペンを置くことにします。そして「こんな話が」というお便りなどもお待ちしています

本当にありがとうございました

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