レイル・ストーリー3 電鉄富山の謎


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 ●電鉄富山の謎

日本最大規模の中小私鉄、それは富山県内に路線を持つ「富山地方鉄道」である。鉄道線は富山を基点に宇奈月温泉へ向かう本線と立山黒部アルペンルートへのアクセスである立山線を中心に形成され、富山市内の軌道線を加えた総延長は99.6kmにも及ぶ。またバス部門や不動産部門などもあり、その形態は大手私鉄に勝るとも劣らないものがある。

ターミナルはJR富山駅に隣接する電鉄富山駅だ。その電鉄富山駅は通勤通学客や観光・行楽客で多いに賑わっている。電車は富山地方鉄道オリジナルの電車をはじめ、今や主力となった元京阪特急などが走り、「特急うなづき号」「アルペン特急」は元西武レッドアローを中心に運転、極めて多彩だ。

電鉄富山駅

もと京阪特急と地鉄オリジナル電車

電鉄富山駅

左は元京阪特急の10030系
右は富山地方鉄道オリジナルの14720系

さて、ここで「おや?」と思うことがある。

確かに社名は「富山地方鉄道」なのだが、なぜ「電鉄富山」という名前が付いているのだろうか。富山地方電鉄ではないのに。この鉄道には他にも電鉄魚津、電鉄黒部など、同じ例が存在する。

地鉄マップ

現在の「富山地方鉄道」(以下略して地鉄)が形成される前は、富山県内には数多くの鉄道が存在した。今の上滝・不二越線と立山線の一部(稲荷町-粟巣野)は富山県営鉄道だったし、富山市内線は富山市が経営していた。その他現在廃止された路線を含めると実に8社が林立していた。

そこで将来的には富山県東部を一つの都市圏となるべく鉄道をつくろうと考えた男がいた。
昭和5年2月11日に「富山電気鉄道」を興した佐伯宗義である。佐伯はまずそれらの路線を結んで県下にネットワークを築くため、今の地鉄本線の大部分(電鉄富山-電鉄黒部)と立山線の一部(寺田-五百石)の建設に着手する。

本線の計画は、今のJR北陸本線とほぼ平行するルートでもあった。これは政府の認可がなかなか得られなかったが、佐伯は「輸送目的が違う(一地方のローカル輸送だという考え)のだから競合するはずがない」と北陸本線との違いを訴え続け、ついに路線免許を取得した。こうして現在の地鉄路線がほぼ形成されたのは昭和11年10月の事であった。

そして昭和18年1月、陸上交通調整法により、これらの路線は佐伯率いる富山電気鉄道を母体とした私鉄、「富山地方鉄道」として統合された。この時は今のJR富山港線(前身は富岩鉄道)も含まれていたが、沿線に軍需工場などがあったため半年位で国策により鉄道省に移管されて現在に至っている。

戦後、地鉄は笹津線、射水線(どちらも現在は廃止)の開業、高岡市内線の開業などで富山県下全域に路線の拡大を始める(のち県西部の路線は石川県進出を睨んだ新会社「加越能鉄道」に譲渡)。その頃、地鉄は金沢への路線をも計画しており、実際に昭和29年5月10日には富山-金沢間の路線免許を取得していた。さらに昭和32年3月1日付けで電鉄富山-仮電鉄高岡間の工事施工認可も下りて着工は目前まで迫っていた。

…しかし、富山から金沢へ向かう地鉄の新路線は着工には至らず、昭和40年代の後半には工事に殆ど着手されないまま路線免許を失効してしまった。逆に佐伯は立山の観光開発に力を注ぎ、昭和29年のケーブルカー開通を皮切りに、「立山・黒部アルペンルート」の開発に成功、富山・長野両県を結ぶ壮大な計画が実現したのである。

話は大きくそれてしまったが、今の「富山地方鉄道」の母体そのものは佐伯が率いた富山電気鉄道である事は確か。その頃開業した地鉄の富山、魚津は今でも「電鉄」を冠している。ただ、地鉄となった今でも「地鉄○○」とは改称していないのも事実。そして電鉄黒部は近年まで「電鉄桜井」と名乗っていたが、一般的に考えればこちらも「地鉄黒部」と改称すべきところを「電鉄黒部」としたのは、富山電気鉄道時代のまま「電鉄」を冠している他の二駅と単に合わせただけなのか、それとも創始者佐伯に敬意を払っての事なのかは判らない。


地鉄の富山-金沢を結ぶ路線が実現していたら…そう思うと何かワクワクするものがあります。というのも、レッドアローや京阪特急が金沢でも見られたかもしれないのですから。ただし、将来的に北陸新幹線が出来た暁にはJR北陸本線は第三セクター化されてしまうかもしれませんが、その時地鉄の動きがあるのでしょうか…

次はアルペンルートの入口、地鉄立山駅の奥に走るトロッコの話です。

【予告】もうひとつのトロッコ

―参考文献―

鉄道ピクトリアル 1996年9月号 <特集>北陸の鉄道 鉄道図書刊行会刊
鉄道ピクトリアル 1997年9月号 <特集>富山地方鉄道 鉄道図書刊行会刊

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