mori's Page アクティブサイレンサー
![]() 1.3. 自動車排気音のAACアクティブサイレンサーによる低減 乗用車では燃料消費効率向上を図る上で、自動車用排気系の圧力損失が、内燃機関のガス交換過程に直接影響 するため、その低減要求が高まっている。また車両の静粛性確保の観点から、排気騒音レベルの低減も望まれてい る。しかしながら排気系における圧力損失の低減と排気騒音レベルの低減とは特性的に相反する性質を持ち、従来両 立させることが困難であった。 我々は構造が簡単で応答性に優れたアクティブ素子で構成された音響素子であるAAC(Active Acoustic Conductance)の自動車用エンジン排気消音器への適用を試みた。 AACの自動車エンジン排気系への適用に関し解 決すべき技術課題を克服するため、数車種の乗用車に搭載して走行試験を行った。その結果を述べる。 ・AACアクティブサイレンサー TCM(Tight-Coupled Monopole)は図1aのようにマイクロホン、増幅器、二次音源で構成される。-G(ω)はマイクロホン への入射音から二次音源までの伝達係数である。ゲインGが無限大の時にTCMの位置に完全反射面ができる。管路 内の音が1次元モデルで表現される場合、進行波、後進波についてブロック図で表すと図1bとなる。これに基づき、管 路内の音圧、体積速度についての音響四端子定数を求めると
となり、ここで、Y=2G(ω)/Z、Zは管路内の特性インピーダンスである。すなわち、TCMは図1cのようなアドミタンスで等 価的に表され、ゲイン(G)が実数の場合は純コンダクタンスとなる。これをActive Acoustic Conductance(AAC)と呼ぶ。
純コンダクタンスであるAACを図2のように拡張室に適切に配置すると拡張室の消音効果を改善できる。図3は拡張室 にAACを配置した場合の消音特性(Transmission Loss)で拡張室長さの1/3の位置に配置することによりゲインが小さく ても拡張型消音器の消音効果の谷間を無くすことができる。 図3はゲインが1の場合であるが、AACのゲインを増すことにより、広い周波数帯域で平坦な消音特性が得られる。 ![]() ・排気消音系の音響特性 3.1. 排気消音系の構成 図4に一般的な乗用車の排気消音系を示す。 エンジン排気は触媒を経て、センターマフラー、リアマフラーで消音されテールチューブから排出される。
排気システムでは主な消音素子であるリアマフラーにAAC拡張型消音器を搭載する。 従来のリアマフラーは図5に示 すように多段拡張、共鳴器で構成され複雑な管路を排気ガスが流動している。図6はAACで構成したAAC拡張型消音 器で従来のマフラーと同じ大きさであるが流路は直線でスムースに排気ガスが流れる構造となっている。
3.2. AAC消音器の消音特性 本試験ではスペースの問題があり、AAC消音器は拡張室本体にのみ設置する。 図7はエンジンシミュレータで計測した排気管出口での従来型マフラーとAAC消音器との吐出排気音の比較を示したも のである。 AACのゲインは発振を起こさない1であるが、消音特性は全帯域において従来型とほぼ同等の消音性能を 有し、現状消音器に比べAACはエンジン回転数に応じて排気騒音レベルはほぼ比例し変化する。 低域周波数帯にお いては従来型を大きく上回る消音特性を示している。(試験:シリンダ容積2000CC, 6気筒, 4サイクル, 300℃)
・AAC消音器を搭載するにあたっての技術課題とその対策 表1にAAC消音器を車に搭載するにあたっての解決しなければならない技術的な課題と対策案を示す。 図8は消音器内部の各諸元で温度、流速、音圧を示している。
![]() ・実車への適用 5.1. 仕様、寸法・形状 AAC消音器はスペース的な制約があり現状のリアマフラーと同様の寸法とする。 表2に実験に使用した自動車のエンジン諸元を、表3に排気系の各諸元を示す。 図9に実験車に搭載されている現行のリアマフラーと試験に使用したAAC消音器を示す。 図10はAAC消音器を搭載した実験用の乗用車で、図11に搭載した状況を示す。 図12はAAC消音器の内部構造である。
5.2. 二次音源 二次音源は管内音圧170dBが発生出来ることが条件であるが、表4に示すような市販のスピーカー(ウーハー)を2個 使用することで可能であった。また、スピーカーコーンが紙で出来ているため耐熱的には後に述べる方法により対処す る。
充分エンジンのウオーミングアップを行った後、アイドリング回転数から6000rpmまで連続80秒間の加速した実験結果 を図14に示す。 図13は測定位置を示す。 ![]() 図15は発振を伴わずAACのゲインを増すため位相特性を改善するための補償回路を付加したときの排気音の音圧 レベルで、広い周波数帯域において2〜10dBの改善効果が得られた。
5.4. 排気抵抗と静圧 ・排気抵抗の軽減 図16に現状リアマフラーとAAC消音器の排気抵抗を測定した結果を示す。 現状マフラーはスポーティな車と静粛性が必要な高級車で構造が異なるため排気抵抗が大きく違う。 表5は2種類の乗用車にAACを取り付けたときの現状マフラーと排気抵抗の比較を示す。(値は管内流速60m/s時) ![]()
今回の試験では2000CCクラスの高級乗用車の場合AAC消音器に取り替えることにより5%程度の馬力アップが図れ
る。
(2) 参照マイクロホンと二次音源に対する静圧の影響
消音器内部では図17に示すように消音器と排気口での摩擦抵抗と断面変化による流体抵抗が発生し、二次音源とセンサー部に静圧が加わる。この静圧が大きくなるとセンサーやスピーカーの面を押さえつけ、正常な信号が採取できな い、またスピーカーから音が発生が困難になるなどの問題が発生する。 ![]()
この問題を解決するため、図17に示すように消音器出口の排気管(テールパイプ)を徐々に拡大してラッパ状にするこ
とにより消音器内部の静圧をコントロールすることが出来る。 図18は各流速においてテールパイプが直管の場合とラ ッパ状にした場合の二次音源面での静圧を示したものである。テールパイプの管径増加に応じ静圧が負の方向に向 かうことが分かる。
5.5. 耐熱 エンジンの排気温度は最大で550℃にも達する。市販されている二次音源(スピーカー等)と音圧センサーはこのような 高音に耐えるものは少ない。またあったとしても高価で乗用車には使用できない。 このため図19に示すように、 @二次音源、センサーと排気管は吸音・断熱材で遮蔽し熱に直接さらされない構造とする。 A排気管と消音器外板およびスピーカーの取り付け部は断熱材で遮断し、熱が伝わらない構造とする。 Bスピーカー面は耐熱塗料で覆う。 以上により外板は外気で冷却されるため温度は上がらず。結果的に二次音源やセンサ部では管路内に比べ大きく温 度が低下している。 図20は車を停止した状態でエンジン出力を上げ各部の温度を測定した結果である。断熱による効果で管路内に比べ スピーカー部で温度が低下している事が分かる。走行時には消音器外板が冷却されるため、冷却効率は増すと考え る。
![]() ・おわりに 本試験は市販の製品(音圧センサー、スピーカー)を使用し、数車種の乗用車に搭載して一般道、高速道路、山岳路 において走行試験を行い充分な初期性能を得た。AAC消音システムは制御系が故障した場合でも、システムの暴走 はなく、二次音源がダンパーとして働きある程度の消音効果を維持出来る。 乗用車は耐久補償面など大変仕様が厳しく、またコスト面についても現状消音器の10倍以上の価格であり、残念なが ら実用には供していない。 自動車においてアクティブサイレンサーは車室に対して付加的に使用されているにすぎず、本来の燃費向上や外部に 対する騒音低減に対しては実現されていない。今後排気系への実用については、技術的、経済性など種々な面で開発 検討が必要である。 ・謝辞 この研究を行うにあたり、叶シ脇研究所 所長・東大名誉教授である 故 西脇仁一先生に学問的・精神的に大変お世 話になり、また、AACの基礎解析や技術について首都大学東京の多氣昌生教授始め、当時大学院生であった森下達 哉氏、福島実氏、近藤殻幸氏にも理論的な面で協力頂き感謝致します。また実車に搭載しての実験につきましてカル ソニック梶i現カルソニック・カンセイ梶jの竹森良久氏、佐伯尚文氏、相馬晋氏に並々ならぬご協力を得ましたことを 感謝致します。 ・参考文献 (1)「複数の密結合モノポールによる管路系騒音のアクティブコントロール」 、多氣 昌生他、日本音響学会講演論文 集、1989.3
(2)「密結合モノポールを用いた拡張型消音器の特性改善」、森 卓支他、日本音響学会講演論文集、1989.3
(3) 「管路系騒音の密結合型アクティブコントロール」、森下 達哉他、日本音響学会講演論文集、1989.10
(4)“Active Noise Contorol in A Duct Using Active Acoustic Conductances”, M.Taki & T.Mori Proc. Of Inter-Noise 90,
1990
(5)「自動車排気系へのAAC消音器の適用」、竹森 良久他、日本騒音制御工学会講演論文集 1991.9
(6)「自動車用排気系の拡張型AACアクティブ消音システムの開発」、森 卓支他、日本騒音制御工学会講演論文集、
1992.9
(7)“Aprication of AAC Silencer to Reduce Automobile Exhaust Noise”, , Takuji Mori "Niichi Nishiwaki , Proc. Of Inter-Noise
91, 1991.11 前へ ページの先頭へ 次へ
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