mori's Page アクティブサイレンサー
![]() アクティブサイレンサーの基礎 1.アクティブサイレンサーの種類と特徴 (1)フィードバック方式 フィードバック方式としてはTCM(密結合モノポール)が上げられる。 TCMはマイク・アンプ・スピーカーで構成される構造が簡単なアナログ方式のアクティブサイレンサー(図1参照)であり 以前から知られている方式であるが、発振などの問題があり実用で供されていない。 近年、我々の研究で低ゲインのTCMは管路に対して並列な音響抵抗であることが分かってきた。このため他の音響 素子と組み合わせて使用してパッシブな音響抵抗素子*では得られなかった減音特性を得ることが可能である。 このため2ポートマトリクスにより様々に組み合わせた管路系の計算が可能となる。音源から管路出口までの音響等 価回路は、図2、3、4のようになる。このとき管路系の出入り口の音圧と体積速度の関係は2ポートマトリックスで表さ れる。 図5は単純な拡張型消音器中にTCMを用いた場合の減音特性で、拡張室だけの場合440,880Hzの帯域の減音特性 の落ち込みが改善されている。 TCMは構造が簡単で経済的であり、車の消音器などに使用すると広帯域での効果があるが、管路径が小さいもので ないとゲインが取れず工場で多く使われている管路径では適応は難しいと思われる。(我々の研究では大口径の管路 でも適応できるシステムを考案しているがシステムが複雑となる。)
*音響素子:管路(コンデンサ、コイル)、吸音材(管路に直列な抵抗)
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(2)フィードフォワード方式 近年ではデジタル化による信号処理技術が発達し、LMS(二乗平均アルゴリズム)を利用したアクティブ消音器が主流 となっている。 図6に管路系のLMSアクティブサイレンサーの原理図を示す。 音源から発生した騒音は参照入力センサーにより採取され信号処理装置へ導かれる。信号処理系は参照入力より入 力した信号を処理し2次音源より発生させる。このとき2次音源より発生する消去音が適切か、誤差入力センサーの信 号により信号処理系を制御する。信号処理系と音響伝搬系の伝達関数が逆関数となったとき騒音は消去される。 図7は音響・電気系の信号フローのブロック図でFは音源からの音響系の信号の伝達関数、Wは電気信号系の伝達 関数を示し F=−Wとなった時に騒音は消去される。 Bは消去音源から参照入力へ向かう伝達関数でありBが大きいと発振を生ずる。 図8は消去音源と音源を合成した音波を入力する誤差マイクと消去音源間との間で発生する伝達関数(F2)を示して おり、これを解決するため参照入力と制御系の間にF2に相当する電気系伝達関数をあらかじめ配置する。(Filtered- X) パラメータ:タップ数(観測時間)、収束係数
反射型と吸音型 図9はアクティブサイレンサーで制御したときの管路内の音波を示している。消去音源より下流で音波を消去した場合 (音源よりの音波と逆位相の音波を消去音源より発生した場合)上流側では必ずしも音波は逆位相とはならず増幅す るばあいも生ずる。これは消去音源で音波が吸収されず反射されていることを示している。 吸収型のアクティブサイレンサはJesselやSwinbanksらによって提案されているがシステムが複雑となり(図10参照)、 必ずしも排気側で減音効果が増すわけではないため反射型が主流となっている。 現状では上記に述べた信号処理系は誤差入力の二乗平均誤差が最小となるように振る舞うLMSアルゴリズムを発展 させたFiltered-X LMSが主流である。 ![]() 1.2.アクティブサイレンサーの利点と問題点 周波数特性 アクティブサイレンサーの減音周波数特性は演算速度と管路内の周方向音圧分布により決まり(平面波*)、低周波 域に対して有効である。 高音域まで減音領域を広げるには演算速度を上げることと管路内を平面波*にするため管路を複数に分割してそれぞ れシステムを配置しなければならず経済性・安定性からみても実用的でない。それに対し吸音材を使用するパッシブな 方法では高音域になるほど吸音効果が増す。平面波の問題に対しても吸音材を管路内に分割配置するのみであるの でこの方が有利である。(図11参照) このためA-Scaleに対して十分な減音効果を有するためにはパッシブな方法と組み合わせて使うハイブリッドなサイレ ンサーを使用することが有利である。 減音量 拡張型などの消音器は波長の長さに比例して消音器の長さが変わり、減音量を大きくとるには拡張比を大きくとらなけ ればならず、低周波で減音量が必要なばあいは大きな消音器となる。これに対しアクティブサイレンサの減音量は十 分な平面波領域*であれば無限大となり、低い周波数では大きな減音量が期待できる。 消音装置の配置 パッシブな消音器の場合低域の周波数を対象にすると大型化し、また取り付け位置によって効果が変化する場合があ る。アクティブサイレンサーは低域で小型化できる可能性があり、また完全反射面を構築できると考えれば配置に対す る優位性があり、設置しやすさを考えると最終端に設置するのが有利である。ただしマイクやスピーカの温度・静圧・気 流音などの問題がある。
*平面波領域:管路周方向での音圧分布で管路径と波長で決まる
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