especially ―5―
「和葉ちゃんたちまだかなぁ・・・」 「さーな。けどもう時間だし、ほっといてもそのうち来るだろ」 そわそわしながら2人の到着を待っている蘭とは裏腹に 新一はラウンジにいる客をぼうっと眺めていた。 深い光沢のあるフェアリー・ピンクカラーのワンピースを着た蘭と いつもの蝶ネクタイスタイルをした新一は、ホテルの出入り口がよく見える席に座っていた。 2人のいるラウンジは夕方の暑い陽射しを柔かく遮る作りになっており 傾きかけた太陽を眺めながらも空調の行き届いたその場所は、心地よい空間だった。 4時半という中途半端な時間にもかかわらず、待ち合わせらしい人々でほぼ満席だった。 「なーに新一、随分と冷たい返事じゃない?」 「バーカ。服部はともかく、和葉ちゃんは遅れそうなら連絡くらいよこすだろ? でも携帯にもフロントにも連絡がないってことは、時間どおり来るってことだよ」 「そっか。そうよね、大丈夫よね。んー、でも2人ともケンカしたままだったらどうしよう・・・」 「ったく心配性だなー。ほら、うわさをすればってやつだよ」 新一がひょいっと軽く顎を突き出した。 その先には見慣れた2人組がいる。 「あっ、ホント、和葉ちゃんだわ。和葉ちゃーん!」 蘭は一人掛けのソファから立ち上がり、軽く手を振った。 その姿を見つけた和葉もまた、その手を振り返した。 艶やかな玉虫色のワンピースを着た和葉の隣には、シックな装いをした平次がちゃんといる。 2人とも嬉しそうな笑顔を浮べながら、ラウンジの方へと近づいてきた。 「蘭ちゃん! 今日はありがとな」 「ううん、私もついて来ただけだし。でも元気そうでよかったー」 「おかげさんで。もやもやしてたん、なくなったし」 「もうなーに、ちゃんと仲直りしたみたいじゃない?」 「へっ、あ、うん・・・」 蘭の言葉に和葉の頬が面白いように赤く染まっていく。 少し俯き気味になるのは、照れているときの和葉のクセだ。 そんな様子を知ってか知らずか、男2人は、「キザな格好は変わってへんなァ」 「服部はますます黒くて姿が見えねぇよ」などと随分呑気な再会をしていた。 「昨日蘭ちゃんと話した後にな、平次から電話貰たんよ」 「あ、そうだったの?」 「うん・・・ちょうどアタシも電話しようかどうしようか悩んでたときに掛かって来てん」 「へぇー、それってタイミングがあった、ってことよね。よかったじゃない、ホントに」 「うん・・・それにな、今日もここ来る前に、平次、うちに謝りに来てくれてん」 「そっかー、服部君もなかなかやるわね」 「アタシも少し驚いたわ。・・・なぁ蘭ちゃん、心配かけてホンマごめんな」 「ううん、仲直りできてホントによかったね」 「なんや和葉、また姉ちゃんに心配かけとんのか?」 軽く手を合わせて謝っていた和葉に、平次が横槍を入れてきた。 「またって・・・平次、誰のせいやと思てんの?」 「は? オレのせいやて言いたいんか?」 「そうや。平次が約束ぶっちしたのが始まりやんか」 「和葉、おまえまだ言うか?」 「ったくふたりとも、その辺にしとけよ」 新一がまた一悶着起こしそうな2人の間を割って入る。 「オマエは黙っとれ」と言い返される前に、左腕の時計をトントンと指で叩きながら付け足した。 「もうすぐ時間だぜ? こんなとこで騒いでねーで、そろそろ行くぞ」 「なんや、もうそんな時間か?」 「ああ」 「和葉ちゃん、行こうか」 「そやね」 4人は席を立ち、エレベーターホールへと歩き出した。 「せやけど5時からて、中途半端な時間から始んまねんな」 「何言ってんだよ、パーティは6時からだぜ?」 「せやけど工藤、5時からやて言うてたやん」 「5時からあるのは授賞式。そう説明しなかったか?」 「してへんて。ったく、授賞式なんて堅っ苦しいだけやんか。オレは出ぇへんわ」 そう言って平次はカッチリと締められたネクタイを緩め始めた。 新一はそんな彼を一瞥した。 相変わらずマイペースだな・・・と言いたいのをどうにか堪えた。 「あのなぁ・・・オレ、親父の代わりでそれに出るために来たんだぜ? 堅っ苦しいから出たくねーなんて、ガキみたいなこと言ってんじゃねーよ」 「ハン、おまえだって逆の立場やったら面倒くせーとか言うんやろ?」 「・・・・・・」 「パーティ、6時からなんやろ? オレそれまで適当に休んでるわ」 「・・・ヘイヘイ。じゃあ後で来いよ」 「ほな」 「ああ」 平次はやってきたエレベーターには乗らずに、今来た通路を戻りかけた。 2人の会話など聞いていなかった和葉は、平次の行動にびっくりした。 「ちょー平次、どこ行くん?」 「どこて、適当」 「は? もう始まるよ?」 「授賞式やろ? オレはパス」 「パスって・・・」 「そや、和葉も来るか?」 「アンタなァ、せっかく誘ってくれた工藤君に失礼やんか」 明らかに呆れている和葉の視線などお構いなしに、平次はさっさと歩き出した。 和葉はエレベーターの中でどうしようかと途方に暮れている。 「平次ィ・・・ホンマにもう」 しょぼんと肩を落とす和葉に、蘭と新一は笑ってしまった。 「和葉ちゃん、こっちはいいから服部君と一緒にいたら?」 「せやけど・・・」 「いーよいーよ、気にしねーでアイツとどっかで休んでな」 「うーん、そしたらそうさせてもらうわ。2人ともホンマごめんな」 今日2回目の手を合わすポーズを取ると、エレベーターを降りて平次の方へと駆けて行った。 「にしても、服部相手だと大変だよなー」 「そーねー、新一相手とどっちが大変かしらねー」 「・・・・・・」 1番あなどれない人間がここにいた。 2人は、最初に新一と蘭に再会したロビー横のラウンジでくつろいでいた。 正確には和葉が食べたがっていたケーキに、平次が付き合っている格好だ。 1時間後にはパーティだというのに、甘いモノは別腹らしい。 コーヒーを飲みながらラウンジの客を何気に眺めていると、 左横の席で美味しそうにケーキを頬張っていた和葉の手が、ふと口の前で動きを止めた。 「なぁ平次。アレ、先生とちゃう?」 「ん?」 「フロントにいてる人。アレ、保健室の和泉先生やない?」 「保健の和泉ィ? ちゃうやろ。センセにしちゃコギレイ過ぎるわ」 「そんなん言うて。女はな、化粧や髪型で変わるんやで?」 「ほー、さよか。でも和泉やろ? あんなに化けんやろ」 「そこまで言うなら賭けよか? 和泉先生やったら、ここのお代、平次の奢り」 「ええよ。違ったら和葉が持てや?」 「ふふ、貰いやわ」 最後の一口をパクリと食べて紅茶を軽く口にすると、和葉はニッコリと微笑んで 賭けの相手を確かめるためにフロントへと向かって行った。 「先生?」 「えっ・・・?」 「やっぱり、和泉先生や」 「あら、あなた確か3年生の・・・遠山さん、よね?」 「そうです。こんにちは」 「今日はどないしたん? こんなええ服着て」 「先生こそどないしたんです、こんなトコで」 「私はちょっとパーティにね」 「へっ、先生もアタシらと同じ?」 「アタシらって遠山さん、他に誰かと来てんの?」 「あっちにもう一人いてるんです」 和葉は首だけ後ろを振り返りながら、ラウンジにいる相手の方へと目をやった。 「アタシの勝ちやで」と少し目を細めると、平次は悔しそうに伝票を手に取った。 「そう、服部君も一緒やったの」 「そうです」 「あなたたち、ホンマ仲良しやね。なんやの2人して、結婚式の打ち合わせ?」 「なっ・・・」 先生の言葉に、和葉は慌てふためいた。 言い返すよりも顔がほてっていくのが先だった。 「あらあら、カワイイわね。私がこれから出席するパーティの主役も、あなたたちと同じ歳なんよ」 「あっ、そうなんですか?」 「そう。橘流ってわかる?」 「わかります。あれでしょ、生け花の橘流」 「そうそう。そのね、次期家元になるやろうっていう人の婚約披露パーティなんよ」 「へぇ・・・先生、そんな凄いパーティに参加しはるんですね」 「まぁたまたま家同士の付き合いがあってね。そんなん言うけど、遠山さんかてこんなええトコ 来てるでしょ? 今日はどないしたん? 高校生がこんな所にどないな用で来てるんかしら?」 先生は先生の顔、というよりは単純に興味があって、という顔をしていた。 なんだか学校で見かける先生とは雰囲気まで違って見えた。 「アタシらは・・・」と和葉が答えようとしたとき、男性の声が割って入った。 またまた平次くんのように「忘れてたんとちゃうねん。忙しかっただけやねん」という 情けない言い訳をするしかない海月です。スミマセン、スミマセン、お待たせしたのにこんなんで。 沖縄にお連れすることはできないので、続きをさくさくupできるように頑張るデスよ! こんなんでも待ってくださってる方のために書きます。それがせめてもの恩返しです。 なにせ普段は自分中心に生きてますからネ・・・。 なんか随分中途半端なところで切れてしまいました。 ここは導入部分でしかないので、次をお待ちくださいませー。 |