especially




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8月某日――
今日もまた、うだるような暑さで幕を開けた。
痛くなるような陽射しが、これでもかというくらいに降り注ぐ。

「んもう、ホンマなんでこんなに暑いねん!」

家の掃除をしていたために、エアコンは一時的に切ってある。
額から幾つもの汗が零れ落ちる。
脱衣所・お風呂場と水周りの掃除を始める頃にはもう、着ていたTシャツが汗でぐっしょりしていた。

「アカンはもう。シャワー浴びよ」

手にしていた掃除機を壁に立てかけ、汗で濡れたTシャツを洗濯機の中へと放り投げた。




浴室を出ると、ひんやりとした空気が体を包んだ。
掃除の途中でシャワーを浴びたのだから、エアコンのスイッチが入っているはずがない。
慌ててリビングに戻ると、でん、とソファに寝っ転がりながら新聞を読んでいる平次がいた。

「ちょ、どっから入って来たん?」
「窓」
「窓て・・・」
「和葉、お前無用心やで? リビングの窓、開けっ放しやったぞ。風呂入るんやったら鍵、閉めとけや」

その言葉に慌てて窓の方に目をやるが、今はキチンと閉じられ、優しい色をしたレースのカーテンだけが
静かに下りていた。
視線をソファに戻すと、平次は社会面からTV欄へとページをめくっていた。

「・・・気をつけマス。って、それよか平次、あんた早よ来過ぎやねんで? 約束の時間までまだ
1時間もあるやんか」
「んー? ああ、出かける前にちゃんと話しとこって思てな」

手にしていた新聞を丁寧に畳み、平次はゆっくりと姿勢を正した。
和葉もなんとなく緊張しながら、ちょこん、とその隣に腰を下ろした。

「ホンマ、すまんかったな」
「・・・・・・」
「ぐだぐだ言うのは性に合わんし、昨日の電話で和葉、許してくれたみたいやけど、やっぱなァ
ちゃんと会って謝ろー思てな」

真摯な目が、和葉だけを真っ直ぐと捉えていた。
射抜くようにこちらを見据えていた。
胸が痛くなるほど真剣に。

「・・・もうええよ」
「えっ?」
「もうわかりました、ってこと」
「せやけどオレ、まだちゃんと謝ってへんで?」
「昨日電話で謝ったやん」
「や、そうやない。会ってから謝ってへんて」
「眼がそう言うてるから」
「眼ェ?」
「そや。平次の眼がそう言うてるから、もうええねん。昨日も電話くれて、アリガト」

和葉の表情が、ゆっくりと和らいでいった。
その顔にホッとして、平次は姿勢を崩しながら自分のポケットに手を入れると、カサッという音とともに
薄い紙の感触が手に伝わった。

「せや、忘れる所やった。コレ、大した物やないけど、一応みやげ」
「みやげ?」
「おい、忘れたんか? オレは1週間前まで佐渡に行ってたんやけど?」
「そやったなァ。それが原因やったね」
「・・・和葉ァ」
「まぁええわ。アリガト」

掌に乗る程度の小さな紙包みを開いてみると、キュートな衣装を着たキティちゃんが現れた。

「やぁ、かわいい〜! キティちゃんのストラップやん。なに、コレ平次が買うたん?」
「せやからみやげやって言うたやん」
「なんか平次がコレ買うたんかと思うと、おかしいなァ」

クスクスと笑いながら、ストラップを揺らし眺めた。

「笑うんやったら返しや」
「そしたらコレ、平次が使うん?」
「・・・・・・」
「キティちゃんを付けてる平次も見てみたいけど、コレ、素直に貰っとくわ。ホンマにありがとな」

テーブルに置きっぱなしになっていた携帯を手に取り、ストラップを取り替えた。
新しく取り付けたキティちゃんを改めて眺めながら、平次にニッコリと微笑んだ。

「・・・2週間ぶりやな」
「うん? 何が?」
「何でもない。ほんならオレ、一旦帰るわ。また3時過ぎに来るし」
「うん」
「ちゃんと髪、乾かせや。和葉みたいなお子様、ちゃんと乾かさな風邪引くで」
「言われんでも乾かします。ホンマ、一言多いんやからー」
「うるさいわ」

コツン、と指先で軽く頭を小突くと、「ほな後で」と平次はリビングを出て行った。
2週間ぶりに見た和葉の笑顔を噛み締めながら・・・









書くのが遅くてすみませんーーー。
忙しいー忙しいーって、忙しいのを理由にしてたら平次くんと同じだわ(苦笑)
さてさて、これでやっと話が進みます。そう、やっと本編に突入します。
頑張って書くですヨ。











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