especially




―3―





新一から電話が入ったのは、和葉とケンカした日の夜だった。
「自分で誘え」と言われても、その日のうちに連絡するのはなんだか癪で、結局次の日
携帯に短くメールしただけだった。
向こうも口をきく気がないのか、そっけない返事が一度きただけだった。

(電話せなとは思うんやけどなァ・・・推理してるとそれしか考えられへんし・・・)

和葉を怒らせるたびにそう思うのだが、結局いつも同じパターン。
事件が解決してホッとするのも束の間、大事なことを忘れていたと、脂汗が背中に走る。
いつものように慌てて電話をするのだが、案の定彼女は怒っている。
初めは自分が悪いのだからと殊勝な態度でいるのだが、気が付けば売り言葉に買い言葉、
いつのまにか口喧嘩になってしまっている。
その喧嘩が翌日まで繰り越されることなど、よくある話だ。
そのたびにやるせなくて苛立って、寝付けない夜を何度も過ごしてきた。

怒らせたいんじゃないのに・・・悲しませたいんじゃないのに・・・

でも結局は和葉の優しさに甘えている自分がいる。
情けなかった。

1週間後、改めて入った新一からの電話。
まだ喧嘩をしていることに半ば呆れ気味な声を出して、明日の約束を指定した。
新一に言われるまでもなく、意地を張っていることに自分自身で呆れてしまう。
つまらない意地だとわかっている。
ゴメン、と謝ればすむことなのに、でもその一言が口に出来ない。
不甲斐ない、カッコ悪すぎ、自分の非を認められないガキと同じ・・・。

(あーもう情けなー! こんなんヘタレやんか。オレが悪かったん、ちゃんと謝ろ・・・)

怒られようが罵倒されようが、もうどうとでもなれという諦め半分・やけくそ半分な気持ちと
和葉が電話に出てくれるかという不安を胸に抱きながら、携帯のボタンを押した。





「あれから服部君とは連絡取ってないの?」
「うん・・・」
「そっかぁ・・・。明日会うときまでには、何とか仲直りできるといいね」

電話の向こうで心配そうに眉を寄せている彼女の顔が、脳裏に浮かんできた。

「ゴメンな、蘭ちゃん・・・せっかく蘭ちゃんと工藤君が来てくれんのに、アタシらがこんな
ケンカしてしもてて・・・」
「ううん、私も同じ立場だったら怒っちゃうと思うし。新一もねぇ、同じようなトコあるし」
「せやけど工藤君は『ねちっこい』やの『ブスになる』やの言わんやろ?」
「うーん、そうでもないよ。新一、結構口悪かったりするし。まぁでも、そのあと一応のフォローは
入れてくれるから、何か本気で怒る気になれないのよね」
「・・・蘭ちゃん、それや。平次とアタシ、口喧嘩するなんしょっちゅうやろ? どっちかが折れるとか
どっちかがフォローに回るとか、ようできひんのや・・・。アタシら子どもと変わらへんね」
「そう? 和葉ちゃんと服部君の会話、ケンカしているというよりじゃれあっている感じがして
いいなぁって私は思うけど?」
「へっ? ちゃうちゃう、どっちも負けず嫌いやから、どっちかゆうたら売られたケンカは買うたんで
ってゆう感じやねん」

自分の説明がおかしかったのか、受話器の向こうからクスクスと笑う声が聞こえてくる。
甘い甘い、女の子の香りを纏いながら・・・・・・

「んー、そしたらこれからちょっとずつ変わっていけばいいんじゃない?」
「ちょっとずつ?」
「うん。無理して急に変わる必要なんてないんだし」
「せやなァ」
「そうそう」
「でも今回は向こうから謝ってくるまで許されへんわ」
「もう、意地張っちゃって」
「うっ・・・」
「私もねぇ意地張っちゃったりするんだけど、あんまり張り過ぎると取り返しがつかなくなったり
しちゃうからねー、ほどほどにしとかないとネ」
「うん・・・アリガト・・・」
「ふふ、服部君にもそれくらい素直にね」

「じゃあ明日、会えるの楽しみにしてるね」という優しい言葉を残して、蘭は電話を切った。
子機を充電器に戻しながら、隣で充電中の携帯電話に目をやった。

(平次に・・・平次に電話しよかな・・・)

ゆっくりとその小さなボディに手を伸ばした。



掌に収まっている携帯のリダイヤルボタンを押そうかどうしようか悩んでいると、突然、それが
16和音のメロディーを奏で出した。
そう、彼からの電話を告げる特定のメロディーを・・・・・・

   ♪ティロリロリロリー・・・ティロロティロロティロロー・・・

メロディーが響くたび、手が汗ばんでいくのが分かる。

      ♪ティロリロリロリー・・・ティロロティロロティロロー・・・

鼓動が少し早くなる。

         ♪ティロリロリロリー・・・ティロロティロロティロロー・・・

切れないで・・・お願い、切れないで・・・

            ♪ティロリロリロリー・・・ティロロティロロティロロー・・・

気持ちが指を動かした。

「・・・ハイ」









わかり辛くてごめんなさい。前半平次が和葉ちゃんに電話をかけたシーンと後半の和葉ちゃんが受け取った
電話のシーンは、全て「1」のラストシーンへとつながります。
早い話「1」から次の「4」に飛んで頂いても話が繋がるわけですが、そこはまぁ・・・(苦笑)
トコロデこのお話は単なる痴話げんかの仲直りで終わるわけではないのですヨ。
ああ、早くそこまで話を持っていきたいよー! でも書く時間がないよー!











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