especially




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「スマンけど、明日行かれへんわ」

夏休みに入って数日、友達と出かけるための仕度をしていたとき、特定の人物からの電話を告げる
メロディーが緩やかに部屋に響いた。

「えっ?」
「事件解決してくれゆうて、さっき速達が届いたんや。せやからオレ、これから出かけてくるわ」
「出かけるって、どこ行くん?」
「サド」
「サド?」
「そうや、佐渡島や。せやから明日の約束、帰って来てからにしてや」
「佐渡やったらアタシも行きたい」
「そらアカン」
「なんで?」
「なんでて、遊び行くんやないんやで? みやげ買うて来たるから、おとなしう待ってれや」
「ほんならいつ帰って来るん?」
「そら向こう行ってみなわからんわ」
「わからんて・・・」

いつものことだけど・・・という虚しい諦めと、相変わらず急な約束のキャンセルに対する悲しさの
何ともいえない嘆息が小さく漏れた。
電話の向こうの彼はそれを察知したのか、慌てたように言葉を足した。

「な、なァ、帰るとき連絡するから、そしたらすぐにプール行こな」
「・・・・・・」
「そしたらプール代、和葉の分もオレがもったるわ。な?」
「・・・・・・」
「わかった。ほんなら3日で帰って来る。せやから3日後、空けとけや」
「・・・守れん約束やったらせーへんほうがええんとちゃう?」
「大丈夫や、ちゃんと3日で帰って来るて」
「戻って来れへんかったら?」
「そしたら晩飯も奢ったる」
「・・・しゃーないわ。それで手打つから、ちゃんと3日で帰って来てや」
「おう、まかしとけや! そしたら帰るとき電話するわ」

軽やかな声で「ほな行って来るで」という言葉を残し、電話は切れた。
こちら側には重い空気だけが漂っていた。


携帯をぼんやりと眺めながら、さっきの会話を反芻してみた。
3日で帰って来れなかったらどうするのか、という自分の問いに、平次は夕飯を奢ると返してきた。
アタシが望んでいたのはそんな返事じゃない。
ただ「必ず戻る」と言って欲しかっただけ。
「待ってろ」という言葉が欲しかっただけ。

「そう思うんわ、ワガママなんやろか・・・?」

窓の外の飛行機雲を眺めながら、そう呟いた。





3日後、どんなに待っても彼からの電話を告げる音は鳴らなかった。





「スマン・・・」

1週間ぶりの平次の声。
腫れ物に触れるような声。
平次にそんな声を出させているのが他ならぬ自分であることが、無性に腹立だしかった。
それなのにどうしてもキツイ言葉しか出てこない。

「どちらさんですか?」
「和葉・・・オレやて」
「オレって誰やの?」
「・・・平次デス」
「何や、めっちゃ久しぶりやね。もう平次の声、忘れてしもたわ」
「せやからスマンて・・・」
「謝って済むんやったら、おとうちゃんたちの仕事は何なん?」
「あー、もう、ほんまにスマンて! 3日で帰る言うたのに、1週間もかかってしもたことは謝るわ。
スマンかった。向こうで色々大変やったんやで?」

3日で帰らなかったことに腹が立ったんじゃない。
無事なのかどうか、それだけでいいから知りたかった。
それなのに、携帯は一度も彼からのメロディを告げなかった。

「帰れへんのやったら電話くらいくれたらええやろ? あれから何の連絡もよこさんで
どれだけ心配したと思てんの?」
「それは電話する余裕もなかったんや。山ん中行ったり海岸沿いに行ったり、佐渡ん中走り回っててな
電話せなアカンなァ・・・って気づく頃にはもう夜中になってしもてん。
せやけど和葉やって電話くれへんかったやろ?」
「アタシは平次の邪魔になるかと思ったから、かけへんかったんです。前にも話し中に切られてしもた
ことがあったし?」

電話の向こうで一瞬息が詰まったのが、耳を澄まさなくてもよくわかった。
そしてフーッと軽い溜め息を付くのも聞こえてきた。

「・・・ホンマにすんませんでした」
「さっきかスマンしかあらへんのね」
「あんなあ、ホンマにスマンと思ってるからそう言うんやで? せやけど和葉、オマエもねちっこいわ。
ええかげん機嫌なおさな、眉間の縦皺取れんくなるで? これ以上不っ細工な顔になったらアカン
やんけ」
「なっ・・・アタシは平次のこと信じて待っとったのに、何でそんなこと言われなアカンの?
ホンマにもう呆れて何も言われへんわ。平次のこと信じて待ってて損したわ」
「オレかて和葉に信じてもらわんたてエエわ」
「そーですか! もう平次のことなんて、よう知らんわ!」

ブチッ!
怒りに任せて電話を切った。

「平次のどアホ!」

携帯を投げ出して、自分もベッドに突っ伏した。



一方的に電話を切られた平次の耳には、ツーッツー・・・という無機質な機械音だけが鳴り響いていた。









オトコの人って、どうして1本の電話を入れられないのだろう? 「忙しかった」を理由にするのはズルイ気がします。
平次くん、短くてもいいから、待っている和葉ちゃんに電話してくださいね。
さてさて、次はどうなることやら・・・?











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