17歳







あの時のことは、よう覚えてる。
太陽が照り付ける、暑い一日やった。
午前中に終業式があった後、友達の誘いを断って平次の家に遊びに行った。
オバチャンは出かけてて、広い家には平次とアタシだけやった。
いつもみたいに平次の部屋で、だらだら雑誌を読んでいた。

「何見とるん?」

オレンジジュースのペットボトルとグラスを2つ持って、平次が部屋に戻って来た。

「ウォーカー。今週、プール特集やってん」
「プールかァ。ええなァ。近いうちに行こか?」
「えっ、ホンマ? ええの?」
「ああ。何も事件がなかったらな」
「えーっ! それやったらあてにならへんわ」

嬉しうて膨らんだアタシの気持ちが、一瞬にしてしぼんでしもた。
そんなアタシの心を知ってか知らずか、平次は持って来たペットボトルに手を伸ばす。

「なァ。事件があってもなくても、プールには行こう?」
「せやから、何もあらへんかったらな」
「誘ったのは平次やろ?」

アタシはちょっと不服そうに平次を見ると、アタシのことなんかおかまいなしに
ペットボトルのキャップを取って、目の前のグラスにオレンジ色の液体を注ぎ出した。

「なァ、平次ってばー」
「うるさいなァ。わかったわ。連れてったるから、いつがええんや?」
「ホンマ? 絶対?」
「絶対・・・とは言われへんけど、予定空けとくわ」
「んんー、まァそれでもええわ! じゃあ、ちょう待って。夏休みの予定、手帳見てみんと・・・」

アタシは手帳を見ようと思って、自分のバッグを取ろうと体を横に動かした。
そのとき、平次が差し出したグラスと、アタシの肘がぶつかった。
グラスの中にあったジュースが、その反動で零れた。

「わっ、こら、和葉!」
「えっ?」

呼ばれて振り向いたら、テーブルや床、座布団の上や平次の手に液体が点在してる。

「あっ、ごめん!」
「ええから、早よ、ティッシュティッシュ!」

アタシはベッドサイドにあったティッシュボックスを引ったくり、座布団に染みないよう叩き取る。
平次は自分の手と畳を拭きながら、こら雑巾で拭かんと・・・と呟いた。

「ごめん。ごめんな」

立ち膝のままテーブルの上を拭き取っているアタシに、平次は怒ることもなく聞いてきた。

「スカート、平気か?」
「あ、うん。たぶん平気や」

念のため、腰を捻ってスカートの後ろを見ようとしたとき、テーブルに片手だけをついて
体重を支えていたアタシの体は、バランスを失って体勢が崩れた。

「きゃっ・・・」

今日、2回目のミスを犯したアタシは、そのまま平次の方になだれ込んだ。
慌ててアタシを受け止めた平次は、中途半端な姿勢でベッドに背中をぶつけてしもた。

「っつー・・・!」
「わー、もう、ごめん! ホンマごめん! 大丈夫?」

アタシ、平次に抱きついた状態のまま、「ごめん! ごめん!」と繰り返す。
そんなアタシを平次は軽く睨んだが、ふと、口元に笑みを浮べた。
この顔は、何かを思いついたときの顔。
今度はいたずらっぽい目でアタシを見ると、耳元で囁いた。

「ったく、こんなアホなことするヤツは、こうや」

次の瞬間、アタシの目に映るものが変わった。
さっきまで見ていたものは平次のベッドとその向こうにある壁やったのに、今は平次の顔だけ。
アタシの頭は、オレンジジュースが零れてしまった座布団の上にある。
一瞬、何が起こったかわからへんかった。
アタシに覆い被さる平次と、その向こうにわずかに見える天井から、やっと理解できた。
アタシは平次に押し倒されたんや。

「へい・・・じ・・・」

アタシの顔に、平次の吐息がかかる。
ゆっくりと平次の顔が近づき、唇がアタシのそれに触れた。
アタシはそのまま目を閉じた。


平次の唇も舌も、アタシを捕らえて放さない。
いつもとは違う荒々しさが、アタシの上から降りかかってくる。
その唇が漸くアタシから離れたとき、アタシの唇からは熱い息が漏れた。

「和葉」

平次の声が、ボーっとしとるアタシの元へ、微かに届いた。

「オレ、もう、ガマンできん。抱きたい」

アタシは返事をするまもなく、唇が塞がれた。
平次の舌がアタシの中に入ってくる。
平次の舌が絡んでくる。
その熱いキスに、アタシの体温は上昇していく・・・。

やがて、閉じていた足に、平次の足が割って入ってくる。
太腿に、平次の太腿が当たる。
平次の片方の手がゆっくりとアタシの肩から腕をなぞり、下に降りていった。
その手が、アタシの太腿を撫で始めた。
平次の舌もアタシの舌から離れ、唇は徐々に下っていって、うなじのところで軽く歯が立った。
アタシはくすぐったいのと心地よいのが交互に襲ってきて、もう動けへんかった。
頭も、体も、感じたことのない熱でくらくらしていた。
ただ心臓だけが、自分のものやないみたいに動いていた。

気ィつくと、平次の片方の手が、アタシの胸のふくらみにあった。
もうひとつの手がキャミソールの裾から入って、アタシのお腹に直接触れた。
その瞬間、アタシの体はビクンと震え、全身が固まってしもた。

――そして。

閉じた瞳から、涙が零れた。

「かず・・・」

平次の掠れた声を聞いたとき、アタシの口から嗚咽がもれた。
それに驚いたのか、平次の手はアタシから離れ、上にあった重さが消えた。
起き上がった平次は、アタシの体も引き起こした。
何とか涙を止めようとして沢山瞬きしてみたけど、全然止まらへんかった。

「ごめん・・・ごめんな・・・」
「・・・・・・」
「ホンマに、ごめん・・・」
「・・・・・・」
「ごめん・・・な、さい・・・っ・・・」

アタシの目から、再びぼろぼろと涙が零れ落ちる。
唇は、しゃくりあげながら「ごめん」だけを繰り返す。
そんなアタシに、平次は戸惑いを隠せへんでいる。
でも、アタシの涙は止まらない。

平次の顔がだんだんとぼやけ、そしてゆっくり見えなくなった。






平次の家を出ると、外はまだ太陽が傾いてもいなかった。
影もあまりないような時間、ウンザリするほどの暑さやったはずなのに。
アタシひとり、冷や汗を掻いていた。


平次の部屋を出るとき、平次が言った言葉が耳にこだまする。


「オレ、謝らへんわ。そら、急に押し倒したのは悪かったと思う。
せやけど、抱きたいのはホンマやから、そのことは謝らへん」















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