17歳
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ぽんぽん、ぽんぽんと、優しくアタシの肩が叩かれた。 「和葉、起きや」 「・・・うん・・・?」 「ほら、帰るで」 「・・・ああ、平次ィ・・・」 いつの間にか眠ってしまったようやった。黒板のトコの時計は、6時を回っている。 「平次、遅かったやん」 「ああ。スマンかったなァ、こんなに待たせて」 「ううん。平次待つのはいつものことやし」 「そら、盛大な皮肉やな」 苦笑するというよりは、ちょっと自嘲的な笑みを平次は浮べた。 そう言えば、いつやったか「平次はいっつも人を待たせる」って言うて、ケンカしたんやったっけ。 アタシは椅子から立ち上がりながら、一瞬昔の記憶を引き出した。 「皮肉ってゆうか、ホンマのことやし?」 「ハイハイ。すんません」 「せやけどアタシ、平次待ってるの、結構好き」 半分フォロー、半分本音でアタシがそう言うと、平次の顔から笑顔が消えた。 その代わり、凄く真剣な眼差しをアタシに向けた。 「和、葉・・・」 アタシの名前を呼ぶ平次の声が、少し掠れていた。 何? と返事をする代わりに、アタシは首を軽くかしげた。 平次は黙ったまま、こっちをずっと見つめている。 真剣で、でも少し切なそうにして、ちょっとだけ目を細めて。 今まで見たことないような表情。 アタシ、平次から目が離されへんかった。 「和葉」 もう一度、やっぱり少し掠れ気味な声でアタシを呼ぶと、一瞬、視線を下に走らせた。 そんな平次を不思議そうに見ていたら、平次の手がアタシの手首をそっと掴んだ。 ・・・ドクンッ・・・! 鼓動が一気に大きく跳ねた。 胸に手を当てへんでもようわかるくらい、急激に心臓の針が触れ出した。 凄い勢いで心音が刻まれていく。 そのうち吹っ切れてしまうんやないか、って思うくらいの勢いで。 でも、それでも、平次の目はアタシを捕らえて放さない。 その左手はアタシの手首を掴んだままや。 もしかして・・・平次、もしかして・・・ いつもみたいに心臓に「静まってや」なんて言う余裕は全然なくて。 ただもうバクバク波打って。 そんなアタシの心の中を覗いたのか、平次がふっと微笑んだ。 その笑顔に、胸がキューンと締め付けられる。 めっちゃ嬉しくて、切ない痛さ。 もう、心臓が壊れてしもたと思った。 思わず目を伏せてしまったら、平次の左手が手首から指先へ、ゆっくりと降りてきた。 軽く繋いだ指先が、微かに震えていた。 物音一つない夕暮の教室で、静かに影が重なった。 触れた唇は、少し冷たかった。 |