17歳







「あれ、和葉、まだ帰らへんの?」

放課後の教室、ひとり残って問題集を解いていたアタシ。
ガラガラっとドアが開く音がしたので顔を上げると、そこに居たのは待ち人ではなく
平次のことで相談する、数少ない友達やった。
アタシは平次とアタシのこと、あんまり人には話さへん。
せやから、彼女は貴重な友達。

「んー。もうちょっと居るかな」
「あ、服部君待ち?」
「うん。アイちゃんは?」

アイちゃんは自分の席、つまりアタシの隣の席に腰掛けた。

「私はもう帰るわ。スカパーの『鬼平』特集、間に合わんとアカンから」

そう言いながら、アイちゃんは机の中にあるものを鞄の中に詰め込んでいく。
その細い指に、銀色のリングがはめられている。
凄くシンプルなデザインが、薬指に似合ってる。
指輪は先生に見つかると取り上げられてしまうから、アイちゃんはいつも帰るときだけ指に通す。
それだけで、アイちゃんが急にオトナに見えた。
でもそんなアイちゃんが、帰り仕度をしながら『鬼平』の歌をハミングしとるから
アタシ、思わず笑ってしもた。

「ホンマに好っきやなァ」
「ええ趣味やろ? 和葉のオトコの趣味はわからへんけど」
「ちょっと、アイちゃーん?!」

軽くアイちゃんを睨んでみたが、彼女は構わず鼻歌を続けている。
そのまま席を立って教室のドアまで近づいたとき、ふとアイちゃんの歌が止まった。
何かを思い出したように、こちらに戻ってくる。
アタシの机の傍までやって来ると、顔を近づけて話し出した。

「そうそう、昨日の電話やけど」
「あ、うん」
「焦らんでも大丈夫やで。あっちがチョットお子様なだけやから」

アイちゃんの口元には、微かな微笑みが浮かんでた。

「んもぅ、ベツに焦ってへんて! 何でかなって言うただけやん」
「せやったっけ? まあええわ。またな」

もう一度微笑んだアイちゃんに、アタシはちょっとだけムッとして。
問題集とノートをパタンパタンと閉じながら、バイバイって投げつけた。


ホンマはわかってる。
皮肉を言うのはアイちゃんなりの励まし方やってわかってる。
わかってるんやけど・・・。
ちょっとイライラしてしもた。
アタシ、自分で気づいてるより気にしてんのかも。
昨日アイちゃんに相談したこと・・・。




「平次、遅いなァ・・・」

黒板の上にある時計を見ると、もうすぐ5時半になろうとしていた。
いつもだったら部活中やけど、今週末から中間テスト。
テストの1週間前から部活動は禁止になる。
教室にはもう誰も残ってへん。
アタシひとり、自分の席でボーっとしてる。
薄い夕陽が、がらんとした教室に影を作る。
秋でもないのに夕陽が眩しいなって思ってたら、平次の席が視界に入った。
窓際、前から4番目。
アタシは自分の席を立って、窓際へと近づいていく。
そっと、平次の机をなぞる。
椅子に腰を下ろして、どかっと背もたれに寄りかかってみた。
ちょっと気だるそうな座り方。平次の、休み時間の腰掛け方。
アタシ、そのまま机に突っ伏した。平次がいつも、昼寝するみたいに。















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