夢見る頃を過ぎても 7


 2000年6月23日
 今回は数ある私の夢の中でも最もまっとうな夢をご紹介します。
 
 「航空機のコックピットに入りたい」

  これは誰でも憧れていることだと思います。私がもっと幼い頃飛行機に乗る機会があれば、この夢はかなえられていたのかもしれませんが、なにしろ初めて飛行機に乗ったのが20歳の時でしたし、それもシンガポール航空だったりしたものですから、「コックピット見学させてください」とも言い出せませんでした。民族衣装風制服に身を包んだスッチーの美しさに圧倒されていたのでありました。

 当時、国内線では「飛行機好きのお子様」をコックピット見学させてくれるサービスがあったと風の噂で聞いていました。
 本当かどうか知りませんが、けっこう信憑性はあると思いました。パイロットを夢見る少年少女の為には必要不可欠なサービスでありますから。
 私はその噂を信じることにして、夢の達成を先送りにしました。

「自分が母親になればいいのだな」

 そういうことなら、己の欲望のために、生まれてきた子供が男だろうが女だろうが、浴びせるように飛行機のおもちゃを与え、天気のいい日は空を見上げ、大空の素晴らしさを語りかけて徹底的に洗脳し、どこに出しても恥ずかしくない立派な「飛行機マニア」に育て上げようと決意しました。それに、この計画は端から見てもそれほど不審なものでもなさそうだし、「いいお母さん」とも思われそうです。

 そして、いよいよ飛行機に乗ることになったら事前に入念なリハーサルをしておきます。
 シナリオはこんなかんじです。

 まず、飛行機の中で泣き出したりする「困ったちゃん」を演じるために、何か適当な合い言葉を作ります。
 例えば、

「ローズ・バット」(刑事コロンボで、この言葉(市民ケーンが出典です。念のため)で人をかみ殺す犬の事件があったので)

と、私が囁くと子供が「びえー!」と泣き出すようにします。
そして、そのときにスチュワーデスが様子をうかがいにきたら、すかさず泣き止む呪文も用意します。(呪文はまだ決めてません。いいのがあったらどなたか教えてください)
子供が泣き止んでほっとしているスッチーに向かって、私がにっこりと、

「ああら、この子ったらスチュワーデスさんが好きなのねえ」

と言って、スッチーへの印象を良くします。2回くらい繰返せば、たとえ鉄仮面のスッチーでも悪い気はしないでしょう。
向こうの心の隙を狙って、ちょっと無駄話なんてしつつ、核心に迫ります。

「この子ったら、本当に飛行機が好きで・・・大きくなったらパイロットになりたいんですって」

後ろでは我が子が飛行機のおもちゃと戯れています。これで落ちなかったら(スッチーの心がです。飛行機ではありません)その航空会社は厳しい競争に生き残れないでしょう!

まんまと子供をコックピットに案内してくれることになったら、すかさず、

「でも、この子人見知りなんで、ごめいわくかけるんじゃないかと心配ですから、私も付いていきますわ」

これで、私の長年の夢はかないます。

 しかし、そんなに上手い具合に事が運ぶのかどうかは別として、それ以前の問題で、未だ一人も子供産んでいないので、計画の進めようがないまま10年経ってしまいました。
 しかし、まだあきらめたわけではありません。実の子が無理でも、甥っ子とか姪っ子でも実現できるだろうし(どの程度自分の思い通りにできるかが問題ですが)そのうちいつかやってやろうと心の奥底に潜む野望を大切に暖めていたのですが、そんな一途な気持ちを踏みにじる大事件が・・・

記憶に新しい、あの国内史上初めて犠牲者を出してしまったハイジャック事件です。抵抗した機長がお亡くなりになりました。
あの事件のあと、しばらくして新聞を何気なく読んでいたら・・・

航空業界はハイジャック防止策強化のため、コックピットに乗客を入れることを極力控えることにする」などと書いてあったのです。
 詳しいことは動転のあまりに憶えていないのですが、そう書いてある以上、やはりそれ以前はけっこう一般乗客入れていたんですよ。そして、あの事件の後、「最近は危ない人も増えているから、もうそのようなサービスはやめます」ということになってしまったようなのです。

 でもでも、あの犯人は別に見学を装ってコクピットに侵入したわけではありませんでしたし、それよりも、「乗客入るべからず」になってしまった聖域に踏み込むためには、今後「子供を連れた母親」という牧歌的なものを目指すのではなくて、まさに「ハイジャック犯」にならないと入れないじゃないですか!

 ちなみに、過去に一度だけコックピットを拝見したことがあります。
 NYに旅行に行ったときに、帰りがワシントン経由だったのですが、JFK空港に行ってみたらなんだか様子が違うので不審に思っていました。(エア代にホテルの付いたフリー・ツアーでしたので、自分で手配していないので空港では添乗員のあとをついていくだけだった)

 さあ、搭乗です。と案内されたら、なぜか建物の外に出ました。近代空港で搭乗するとき外に出るのも変だなあ、タラップ昇るのかなあと思い前を見ると、そこには立派なプロペラ機が・・・・生まれて初めてプロペラ機に乗りました。
 目の前では今まさに私たちの見覚えのある荷物が、機体に運ばれています。それをひょいひょいと積んでいるオニーサンは、ターミネーターのようなサングラスをしていましたが、なかなかのハンサムさんで、「オレって、すっげえ女にもてもてなのさ」と耳なしホウイチのごとく体中に書いてあるかのようにフェロモンびしばし振りまいていて、「これに乗るのかあ」とボーゼンとする私たちに「ハーイ!」とか挨拶してくれました。女とみれば反射的に挨拶してしまうようなかんじでした。

 おそるおそる中に入って座席に座ると、客席と操縦席を区切っているのは、ただのカーテンでした。
 パイロットも乗り込んできたようで、なにやら話し声がするなと思っていたら、さっとそのカーテンが開かれました。顔を出したのは、さっきの「ハーイ!」なオニーサンでした。ちょっと不安になりましたが、彼が副操縦士であるとすぐにわかったので安心しました。結局、その仕切りのカーテンがフライト中にも開けっ放しになっていたので、コックピットが覗けてちょっとうれしかったです。

 でも、パイロットが荷物の積み下ろしをしている光景を見ると、どうしても英国のコーチ(長距離バス)ステーションを思い出し、飛行機に乗っているというよりは、バス旅行の気分でした。

 たしかに、あれは本物のコックピットでしたが、私の夢としてはボーイング747せめて767、もしくはエアバスとかDC10クラスの「長距離旅客機」に限定しておきます。


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