夢見る頃を過ぎても 5


2000年6月12日
 さて、これまで書いたのは我ながら「大したことのない夢」でしたが、ついに私の長年に渡る野望といってもいい「大いなる夢」をご紹介しましょう。

 都心だけの問題ではないと思うのですが、ここ数年、ゴミ置き場がカラスに荒らされることが問題になっています。
 私の住んでいる地域では、ゴミ防護ネットが支給されていて、ゴルフの練習場でお馴染みの緑色のネットがゴミの上にかけられていますが、カラスは頭がいいので、ちょっとはみ出たゴミ袋からおいしそうな残飯をつつき出しているようです。

 先日も、出勤前にゴミを置こうとしていたら、頭の上で「カアー!」と言うので、ふと上を見ると、塀の上にでかいカラスが私を威嚇していました。

「すいません。あなたに危害加える気は全くありません。しかも私は大したもの食べていないので、このゴミの中にはこれといってあなたに価値のあるものはないと思いますが、だからといっても私をつつかないでください。」

 と、必死でカラスに謝りながらゴミを出させていただきました。

 カラスって本当に強そうですよね。彼らにとって、私が取るに足らない人間なので、今まで攻撃されたことはありませんが、間近であの鋭い嘴を拝見するたびに「こいつらには絶対に逆らうまい」と心に誓います。
 多分、私以外の人も同じ気持ちでしょうから「矢ガモ」なんかが出現しても「矢カラス」なんて聞いたことないです。カモに矢を放つという卑劣な弱いものイジメをする人間だからこそ、カラスに同じ事をしてボコボコに復讐されるような事態になることは本能的に避けているのではないかと推測してしまいます。

 カラスがたむろしている現場を見ると、「どんな武器を持っていても、こいつらには勝てないのではないか」と思います。
 拳銃を持っていたとしても、集団の前には無力でしょうし、青龍刀を振り回しても何匹斬れることやら・・・早朝の歌舞伎町などを歩いておりますと、歌舞伎町で一番権力を持っているのは「カラス組」なのではないかと思うのです。

 それにカラスってなんとなく「高貴」な雰囲気がありませんか?もし、カラスを一羽飼うことになったら、私なら「デューク」(公爵)とか「バロン」(男爵)とかいう「お貴族」な名前をつけてしまいそうです。黒装束もハイソな感じだし、あの羽はたまに道端に落ちていますが、玉虫色に光ってなかなか美しいのです。黒タキシードに身を包んだ高貴なマフィア集団、というのがカラスに対する私のイメージです。
 その思い込みのせいか、盛り場でたむろしている「不良少年」たちを見かけても、あの輪の中には入りたくありませんが、同じようなやさぐれた雰囲気でたむろするカラスの集団を見掛けると、ときどき仲間に入れてもらいたくなります。
 というわけで、私の夢は

カラスの王になる

 昔、「花のアスカ組」で主人公アスカがカラスを子分にしていましたが、あれを読んだときには「同じことを考える人がいるもんだ」と思いました。
 カラスを味方につければ、もうこの世は怖いものなしです。たとえ盛り場で、チンピラに絡まれたり、かつあげされそうになっても、「ピュイー!」と口笛を吹けば、カラスがやってきて悪者の頭を血が出るまで突ついてくれるはずです。チンピラたちは「ちくしょう、おぼえてやがれ!」と月並みな捨てセリフを残して去っていくことでしょう。大丈夫です、カラスは頭がいいらしいので、憶えていてくれることでしょう。

 テロリストになることも可能です。屋外だったらどんなに警備が厳しくても、カラスだったら大丈夫。サミットでずらりと勢揃いする各国首脳の頭も思う存分突ついてくれることでしょう。カラスの攻撃に遭ってはSPも無力です。発砲するわけにもいかないし、せいぜい威嚇射撃ができるくらい。あとは、みんなでバタバタと上着でも振り回すしかありません。カラス攻撃に応戦するためには、警備側にゴルゴ13クラスのスナイパーがたくさんいないと無理でしょう。

 私は平和主義者なので、そんなことに「カラス軍団」を利用しませんが、もともとゴミ収集所にたむろしているのですから、その事実をもっと平和利用したいです。ゴミ集収日以外にゴミを出す不届き者をカラスに突ついてもらうのです。その代わりに近隣の住民は「警備料」として食べ残した焼き肉などを貢ぎましょう。

 ビジュアル的にもカラスを従える謎の美女っていいじゃないですか。悪の組織も一目置いてくれるはずです。「あの女にはうかつに手を出すな」とか言われちゃったりして、クーッ!やってみたい!

 どうやったらカラスを手なずけられるのでしょうか。
 新宿のアルタ前の広場には早朝、カラスを餌付けしている浮浪者のおっさんが出没します。カラスを見ていると、おっさんは話し掛けてきます。「カラスの餌代ちょうだいよ」傍らには「カラスの餌代」と書かれた小箱があって、私はしかたなく50円寄付しましたが、ああいうのじゃなくて、もっとかっこよくやりたいです。

 とりあえず、子ガラスから育てればいいのではないかと考えているのですが、カラスから子供を奪うことがどれだけ大変か、そのシーズンに代々木公園などで「注意。カラスが巣を作っています」と看板が立てられた木の下を不用意に横切ってしまった方ならご存知だと思います。

 どうしたらこの壮大な夢が叶うのか、かなりまじめに考えているのでありました。

 あれ?ロマンチックな夢のはずでしたよね。私なりにロマンチックだと思うのですが・・・
 それで思い出しましたが、「この母にしてこの子あり」で、私の母の夢も動物ものです。でも、母の夢のほうが現実的だし、「カラス」よりはロマンチック度高いと思いますので、次回は「母の夢」を母に無許可で公開したいと思います。


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