プロローグ

 それは五百年も昔の話。
 東の海の果ての出来事。
 紺碧の海はその島を守るように、高く波頭をあげていた。
 レインボーヘブン……豊饒と慈愛の女神アイアリスに守られた、この世の富をすべて集めた
至福の島……
 波の間から垣間見える島の緑は、目に染み入るように輝いていた。穏やかな風に運ばれた
住民たちの歓喜の歌は、辺りの島々にその豊かさをしらしめていた。
レインボーヘブン、それは、人々の羨望と憧れを一身に集めたこの世の楽園。
 だが……その島は、突然、海に消えた。
 
 最後の日、島が消えうせたその後も、波は静かな音色を奏でていた。だが、辺りに浮かびあ
がっているのは、おびただしい数の木片、倒壊した家屋の残骸。

 この哀しさは何だ?
 この悔恨の思いは、いったい何処から沸いてくるのだ?

 海は、突然、叫ぶように波を荒げ渦を描きだした。すると、その中心を貫くように蒼い光が現
われた。
 泥の沼のように暗く濁った天空。切裂きながら、光は七つに別れ飛散する。
 “何処へでも行くがいい。……永い時を越えて、流離い、迷うがいい” 
 レインボーヘブンの守護神アイアリスは、寂しげに空を見上げた。
“だが、再びお前たちはここに戻ってこれるのだろうか……?”
 アイアリスは、レインボーヘブンが海に消えたその後に、島を蒼の光として封印し、七つの欠
片に分けたのだ。
 “……レインボーヘブン、私にすらその行く末は計り知れない。だが、私は償わなければなら
ない……真の至福の島をその住民に返す事で”

 “アイアリス”
 五百年の時を経て、今に伝えられたレインボーヘブンの伝説の書。それにはこう記されてい
る。
 ―レインボーヘブンは再び蘇る。その欠片たちが力を取り戻し、その血を受継いだ住民がそ
の地を訪れた時に……また蘇る―









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