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名演2008年11月例会 加藤健一事務所公演 

作/ジョン・マランス  訳/小田島恒志
訳詞/岩谷時子 演出/久世龍之介

 

11月例会の運営がスタートし2回目の話し合いが昼夜合同で行われました。

台本を読んだ感想、劇中台詞で歌われるハイネの詩集をこの舞台の岩谷時子さんオリジナル訳詞の朗読&運営サークルの方が図書館で発掘してきた大正時代の訳詞との対比朗読。参加された皆さんにもこの舞台のイメージが湧いてきた様子。シール作りをしながら是非台本を読みたいという複数の方がお持ち帰りとなりました♪ 例会担当の私も一回台本を読んで、胸に静かにこみ上げてくる熱いものを感じ、10月7日神戸公演のこの「詩人の恋」を観て参りました。

「詩人の恋」は数々の賞を受賞している作品です

平成15年度芸術選奨 演劇部門 文部科学大臣賞:加藤健一
第3回朝日舞台芸術賞:加藤健一事務所
第11回読売演劇大賞 選考委員特別賞:「詩人の恋」
第11回読売演劇大賞 優秀男優賞:加藤健一
第11回読売演劇大賞 優秀演出家賞:久世龍之介
第38回紀伊国屋演劇賞 個人賞:久世龍之介

 今回のポスターをよく見ると・・・

永六輔氏・映画監督山田洋次氏・東京芸大名誉教授畑中良輔氏

絶賛コメントが♪ 音楽好きの方もそうでない方も是非期待してください!!!!!

舞台のセットも細部までこだわりが!

壁にはクリムト、ココシュカ、マカルト、ハンペル、皆オーストリアの画家のポスター。

他にもパバロッティの写真やオペラの写真も。

台本を読んで、俄然 舞台が待ち遠しくなった!!

C50-20 S・K

 作者ジョン・マランスの台本の最初のページに 「人間の度量は、何を嘆き悲しむかと どれをどう嘆き悲しむかによって示される」?ベルトルト・ブレヒト(ドイツ 詩人 評論家 劇作家)の言葉が記してあった。舞台セットの細部、事細かな照明の仕方、音楽・音量の指定まであり、私の頭の中に映像が描かれていくように、ぐいぐいと引き込まれていく。台詞にはドイツ語・英語まして 音楽劇であるからメインはドイツリート(注:Lied リート(複数形 Lieder リーダー)はドイツ語で、ゲルマン固有の名詞で「うた」の意。 ドイツ語では語尾のdは濁らないので、リードではなくリート。ドイツ歌曲と呼びます。)を歌うシーンが沢山あって・・・。先に台本を読んでいた担当サークルの方に「これって歌もうたってピアノも弾いてんのかしら? そこ、是非見てきて!」との言葉を確認すべく、一足先に神戸例会を観劇♪ 想像していた舞台セット、そこにはピアノを弾きながら歌うカトケンさんの姿が照明からぼんやりとだんだん浮かんで来る。と、突然、現れるアメリカ青年スティーブン役の畠中さん。のっけから、ふたりのコミカルな会話のチグハグさにクスクスと肩までも思わず笑ってしまう。スティーブンがひとりになり、ピアノを足蹴りしているのを陰からで見ていたマシュカン教授が
『・・君はベットではだめだろうな。女性を愛するのとピアノを愛するのは、密接な関係があると思っているんでね。君は私のピアノをレイプしようとしてたじゃないか!もっとやさしく可愛がってやらなくては。いきなり飛び掛るのではなく、やさしく愛撫するように。』

 マシュカン教授は歌のレッスンでスティーブンに「詩人の恋」を課題として与えるのです。ハイネの詩にシュウーマンが作曲したこの歌曲を畠中さんは劇中でどんどん上手くなっていくスティーブンを熱演。しかも二人とも歌いながらピアノも弾く!これってすごいことなんですよ!!! 二人は音楽家ではありません、役者なんです。


 『ステファン、なんでも合理化してしまう現代アメリカの音楽や建築みたいに考えるのはよせ。人生はそういつもきれいに割り切れるもんじゃない。ここ(身体)の内側に心ってもんがある。それを働かせろ。もっと情熱を込めて!』

 ぶつかり合いながらふたりの距離があることを境に急展開していく。ポスターのコメントでも絶賛されているカトケンさんと畠中さんの美しいリートとピアノ。演奏が終わるたび“賞賛の拍手を送りたい”しかし!!『静寂を壊さないように!』『余韻に浸って!!』
 そんな気迫が客席まで伝わってくる程の静寂と沈黙。そして次のシーンへ導くシューマンの詩人の恋の音楽・・・・。

『喜びと悲しみの組み合わせーこれこそ本当に美しい音楽の核となるのだ。ドラマの核、あるいは人生の核』

『アメリカでは第二次世界大戦は遠い歴史上の出来事かもしれないが、ここではいまだにみんな、毎日引きずってくらしている』

 マシュカン教授とスティーブンの出自や本心が、1986年オーストリアに暮らした人々の世情を背景にしながら浮き彫りになっていくのです。私も二人の本心がわかるにつけ、胸が切なくなり、固唾をのむほどに、舞台から目も耳も釘付けとなってしまったのでした。ときおりの笑いが悲劇的ストーリーを緩やかにしてくれます。作家J・マランスがこの戯曲に込めたブレヒトの言葉がラストに久世さんの演出で一光をさして輝きます。
 音楽、甘美な台詞、絶妙なコミカルな掛け合い、歴史、政治、宗教観・・・カトケンさん、畠中さん。

 この「詩人の恋」みなさんは、どんな視点と感覚で楽しんでくれるでしょうか?絶対多くの方々に観て頂きたい舞台です。クラッシク好き、ピアノ、声楽、コーラス・・是非興味がありそうな方がいらっしゃったら

「これ、観て見ない?」詩人の恋のチラシを渡して頂ければと思います。

「この芝居決して、誰も寝てはならぬ!静寂の中に響くのは睡魔に襲われた者のいびきだけである。」 by さとちゃん


詩人の恋」をより楽しむ

この舞台の台詞の中でちょっと 気になる言葉や、何を示唆しているのか ちょっと解ってみたらより、舞台が楽しめるだろうと、ちょっと調べてみました。

ジョン・マランス  アメリカの劇作家 NYを本拠地として戯曲や音楽を書き劇場に提供している。学生時代副専攻であった音楽で大学のシンフォニーに同行しウィーンへ。表向きは作詞者としてだったが、歌手の感性を理解するための声楽レッスンが目的だった。この劇には彼自身が受けた音楽教育(大学でも歌曲「詩人の恋」を学んでいる)、反ユダヤ主義との遭遇、ダッハウ訪問など自伝的要素が含まれている。

 ダッハウDachau)は、南西ドイツのミュンヘンの北西約16キロメートルにある中世都市のダッハウ近くの軍需工場跡地にあるナチス党率いるドイツ最初の強制収容所。ここは後に多く造られる強制収容所のモデルとなった。32099人が収容所内で死亡し、ダッハウ強制収容所はイギリス軍やアメリカ合衆国軍に解放された2番目の収容所であったため、多くの人々にとって重要な場所となっている。

右はダッハウ収容所モニュメント

クルト・ヨーゼフ・ヴァルトハイム(Kurt Josef Waldheim, ワルトハイムとも, 1918年- 2007年)は、オーストリア出身の第4代国連事務総長・元オーストリア大統領(任期1986年 - 1992年)。2007年88歳死去。1971年の大統領選挙に落選。
 しかし1986年6月8日の二度目の挑戦
マシュカン教授とスティーブンがこの選挙投票の結果を、街行く人々を窓越しに見ながら皮肉っている様子が舞台でも盛り込まれています。政治経済や歴史に強い方ならば、ご存知の人物ですね!)
では、第二次世界大戦前にナチス突撃隊の将校となっていたという事実が判明、アメリカ、イギリス、フランスなどは彼が大統領となる事に反対を表明。しかし、オーストリア国民はこれを内政干渉と反発、結果として彼は大統領に当選。

 その経歴から彼は多くの国で「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」とされ、6年間ほとんど外国への公式訪問を行わなかった(日本へは1990年の即位の礼で大統領夫妻として来日)。アメリカ合衆国は元ナチ党員及び関係者の入国を拒否しているため、1987年にはアメリカの 「要注意リスト」に挙げられた。

 ちょこっと番外

「ヴェニスの商人」上演当時はアントーニオが主役だったのでしょうが、ナチスによるホロコースト経験した現代において、この戯曲のもうひとりの主役は間違いなくシャイロック(ユダヤ人高利貸し)。マシュカン教授の台詞に揶揄のように「ヴェニスの商人」のユダヤ人の表現があり、シェークスピアが書いた時代(1596〜7年)にも差別意識が濃厚だったのでしょう。

クリムトのポスター 「接吻」政府が買い取ったクリムト代表作のひとつ。「愛」と「死(タナトス)」は共にあり、隣り合うことで輝きを増す。「接吻」は妖艶さと儚さを伴う命の本質を描いているといわれています。この舞台の中のもうひとつのメッセージかもしれません。

ヤムルカ:yarmulke スカルキャップ(skullcap):ユダヤ人男子が礼拝や聖書、タルムードの勉強などをするときにかぶる小さな帽子;特に正統派保守派のユダヤ教徒が着用する。
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スティーブンが頭に被っているのを見つけるなり、もぎ取ろうとするマシュカン教授。

『心の中で身につけていないものは、おもてにもつけちゃいかん!』 
息のあったバトル、コミカルで笑えます。

    


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最終更新日 2008/11/07