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名演2005年11月例会 文化座公演 


―汝が名はピーチ・ブロッサム―

葉月奈津・若林尚司著「ピーチ・ブロッサムへ―英国貴族軍人が変体仮名で綴る千の恋文―」より
藤原書店刊)

作/八木柊一郎 演出/鈴木完一郎


11月24日(木)6時30分
    25日(金)1時30分
          6時30分

名古屋市民会館中ホール
 地図  
1 会費     
 月額 2600円 
 22歳以下  2000円  
 高校生以下 1300円

2 入会金 
 2900円 
 22歳以下  2300円 
 高校生以下 1600円


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あらすじ

 1902年、「憧れの日本」の日本に赴任してきた英国軍人アーサー・シノットは桃花の下に佇む小川まきを見初め、ピーチ・ブロッサムと綽名する。周囲の偏見を乗り越え二人は結ばれるが、アーサーは愛するマキを日本に残し香港、ビルマ、遂には第一次世界大戦の激戦地まで赴くことになる。
 遠く隔てられた二人。この切り離された時間と空間を埋めるようにして交わされた千通に及ぶ手紙が二人を強く結び付けていた。しかし二つの大戦によってアーサーとまき、そして二人の間に生まれた息子・清の人生は大きく狂わされていく。
 日本人となり家族とともに暮らすことを願って止まなかった男。彼が思い描いたものは遠い夢だったのか…。

日本人になりたかった男

 20世紀の幕開き、ある英国貴族軍人と日本人女性の間に芽生えた愛。それは20世紀の激動の歴史に翻弄され、数奇な軌跡を辿っていった……。

 十数年前に発見された、英国軍人から日本人女性に送られた日本語による千通に及ぶ手紙をもとにNHKラジオの特別番組「日本人になりたかった男」が放送されたのは昭和62年夏。大きな反響を呼ぶ。そして1998年、「ピーチ・ブロッサムへ」というタイトルで二人をめぐる家族の物語として原作は出版された。

 1902年。「憧れの日本」にやってきたアイルランド貴族の軍人、アーサー・シノットは、桃花の下に佇む下町育ちの大和撫子小川まきを見初め、ピ−チ・ブロッサムとあだ名する。二人は間もなく所帯を構えるものの、大英帝国の武官たるアーサーは香港、ビルマ等での勤務を、そして遂には第一次世界大戦への従軍を強いられる。この二人を切り離す時間と距離を埋めるように幾百の手紙が交された。

 アーサーとまき、そして混血の宿命を背負って生れてきた清の歩んだ波瀾に満ちた人生は、真実の重みをもって私たちの胸を衝く。

 この作品は『大草原の小さな家』の翻訳者として著名な、英文学者、鈴木哲子氏の姑まさの遺品の中から発見された、約千通もの変体仮名の手紙から、鈴木家の人々の歩んだ20世紀を描いた実話に基づいています。 以下、鈴木家(劇中では小川家)の4人の軌跡を辿リます。

 アイルランド出身の英国貴族アーサーが日英同盟締結直後の1902年春に駐在武官として来日、東京の軍人会館で、「桃の妖精」のように愛らしい給仕係の鈴木まさを見初め、周囲の反対を押し切って翌年に所帯をもつ。2年後に日露戦争が勃発し、旅順へ赴くが、翌年の戦争終結によリ帰国、長男清誕生。 その後数年間に、香港、ビルマに着任、1914年に来日し、日本に帰化しようとする。しかし、第一次世界人戦勃発のため、ピルマに戻リ、二年後西部戦線に出征、翌年戦場で両足喪失の負傷を受け、その翌年英人女性と結婚した。日本に帰化し、まさと清との三人の生活をしたいとの希望は断ち切られた。
 その間届いたアーサーからまさへの愛の手紙は、彼の結婚を知って、一度は廃棄しようとしたが、清が止め思い止まった。
 幼少時から、父のいない家庭で、混血児として周囲から、特別な目で、見られながら育った清は、京都の三高へ人学し、中学から始めた陸上部へ入部、長身を活かして記録に残るほどの大活躍をした。
 父のアーサーは、清が法律か経済を学び、実業家になることを望んでいたが、彼は三高講師の三木清の講義がきっかけで哲学を希望し、三木先生の後を追い束京帝大の哲学科を目指すものの、母の望む京都帝大の法学部へ入学。卒業後就職難を理由に東京帝大の文学部へ入学、さらにフランスへ留学し、パリのソルボンヌ大学哲学科で学んだ。
 パリ留学に先立ち、通っていた東京神田のアテネ・フランセ(外国語学校)で、幼なじみの勝田哲子と再会し、結婚を決めた。彼女は初対面のまさに清の留学の許可を求め、同意を取り付けた。しかし、留学前の結婚は学園創立者の父の死で延期せざるをえなかった。
 留学を終えて帰国した直後の1939年9月に第二次世界大戦が勃発、2年前の日中戦争に続き、日本は軍事体制がますます強化されていった。そんな中2年後に清と哲子は結婚した。共に、34歳だった。しかし、結婚の三か月後に清は軍隊に召集され、戦後シベリヤ抑留中の1945年12月に、病死し、二人が再会することはなかった。  それに先立ち、1942年にアーサーは心臓発作で死去した。敗戦後20年経った1965年4月、まさが、又、更に35年後の2000年1月に哲子が死去、鈴木家の20世紀が終わった。この作品は、奇しくも同年3月、初演された。
 
 鈴木家の四人−鈴木まさ(劇中では小川まき)、アーサー、鈴木清(劇中では小川清)、鈴木哲子(劇中では小川麻理子)が辿った約一世紀に亘る軌跡は、数多くの戦争に翻弄され、引き裂かれながら、夫婦・親子の愛の絆で繕ばれ、平和の尊さを静かに、しかし力強く訴えかけています。



 井上ひさしは劇場の機知として、「劇中劇」「一人二役」「実は存在しているが舞台では見せない」など、自作例を挙げて説明している。
 彼によれば『父と暮せば』では、更に手の込んだ構造にしている。一人二役+「見えない自分が他人の形となって見える」という、二つの機知を重ねたそうである。つまり、父(いましめる娘)と娘(願う娘)に分けて、一人二役を二人で演じることにした。
 『父と暮せば』に感動したが、こんな劇構造になっていたとは、全く気がつかなかった。台本は観客の想像力に対する、作者の挑戦なのだろう。

 台本(戯曲)と小説とは違いがある。小説では会話と共に、登場人物について心理や性格、状況についての書き込みがあり、理解しやすい。ところが台本では、台詞とト書きしかないため、どのような人物なのか、台詞(会話)で判断する以外にない。演劇にとって、台詞の役割はとても大切である。演劇との接し方が、観劇だけでなく、台本を読むことで、想像力がより刺激されるなら、魅力も倍加するような気がする。

 文化座と八木柊一郎の組み合わせで、演劇を観るのは2回目である。過去に蓮城三紀彦の作品『紅き唇』が、鈴木光枝の主演で『あかきくちびるあせぬまに』と題して、例会になった。その印象がまだ頭の片隅に残っている。人間の内面を描くのが巧いように思った。
 八木柊一郎は『遠い花』を、序章と2幕10場で構成している。物語性と事実性が巧みに展開できるなら、愛と家族の絆の物語としてメッセージが伝わると思う。
 筋立ては簡単だが、説明の挿入、回想形式、紗幕の場面、そして三高寮歌やロンドンデリーの歌などの音楽効果で、作者が観客の情感を誘う工夫があるように感じた客席が反響板になるか、興味深い。

 台本は1902年の二人の出会いから、小川まきが亡くなる1964年までを描いている。アーサーとまき、息子・清の運命を、その時代の足音と共に浮かび上がらせようとしている。
 戦争によって引き離された男と女、そして母と子、父と子の関係が、どのようなクライマックスを迎えるか、期待したい。同時に「家族の絆とは」何なのかの問いに、考えを発展することができれば、と思う。

 1998年に出版された葉月奈津と若林尚司の共著『ピーチ・ブロッサムへー英国貴族軍人が変体仮名で綴る千の恋文―』が文化座上演の『遠い花―我が名はピーチ・ブロッサムー』の原本である。
 劇団文化座の『遠い花』の初演は2000年だから、出版後2年で劇化したのは、魅力的な題材だったからなのだろう。

 北アイルランドの由緒ある貴族の出身で、イギリス陸軍軍人であるアーサー・シノットが日本の女性鈴木まさ(劇中で小川まき)に宛てた手紙が、まさの死後17年経った、1982年に古い長もちの中から発見された。
手紙の数は千通を越え、消印から判断するとアイルランド、フランス、パキスタン、ミャンマー、アメリカ、そして香港、世界各地から出されていた。
 しかもそれは、巻紙にみごとな変体仮名で書かれており、和紙の封筒に入っていた。封印にはシノット家の紋章が押されていた。
 手紙の内容からすると、まさからアーサー宛の手紙も、相当な数あるはずだが、残念なことにそれらは見つかっていない。
 手紙の保管者・鈴木哲子(劇中では麻理子)は、時代の証人となるその手紙を、何とか生かしたいと思っていた。
 この手紙をもとに、1987年にNHKラジオの特別番組で「日本人になりたかった男」が放送され、大きな反響があり、その後の出版、劇化へ繋がった。
 本田靖春の『我、拗ね者として生涯を閉ず』を読んで、拗ね者としての誇りを貫いた生涯に、魂を揺さぶられた。同様に映画『ミリオンダラー・ベイビー』も感動した。が、アニメ『岸辺のふたり』が印象に残る。わずか8分間の短い時間に、父と娘の人生が凝縮されていた。台詞がないため、自由に解釈ができ、感銘が深まった。
 名演の例会作品で自分の人生との接点が拡大できればうれしい。(S・Y男)


<キャスト>  <スタッフ>

小川まき

八木柊一郎

小川 清

米山  実

演 出

鈴木完一郎

小川麻理子

阿部 敦子

装 置

上田 淳子

アーサー・シノット

照 明

小川きよ(母)

遠藤 慎子

音 響

深川 定次

小川市太郎(長兄)

伊藤  勉

衣 裳

岸井 克己

小川米吉(次兄)

青木 和宣

舞台監督

亀山 義信

小川とめ(嫂)

高村 尚枝

制 作

中山 博実

田島よし江(姉)

有賀ひろみ  

倉田(三高生)

佐藤 哲也

秋元(三高生)

田村 智明

高井

青木 和宣

船津夫人

高村 尚枝

桜井少佐

佐藤 哲也

中国人のボーイ

田村 智明

中国人のメイド

小谷 佳加

少年時代の清

 小川 賢太  (劇団東俳)

少女時代の麻理子

小林悠記子

関連サイト

文化座ウェブサイト http://www.bunkaza.com/

田村智明さんサイト「どっぐまんらんど」 http://tamura.tsukaeru.jp/

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最終更新日 2005/11/02