* 音楽の国ドイツとフラメンコ *
- ドイツ在住中のれぽ〜と 98年10月 -

 私とフラメンコの出会いは、奈良の地方新聞の広告で知った「フラメンコ無料体験レッスン」だった。以前から、体力づくりにダンスでも習いたいなと考えていたので、 ごく気楽な気持ちでフラメンコを習い始めた。 私が通っていたフラメンコ教室は、奈良の学園前にあり、スペインにフラメンコ留学なさっていた先生がちょうど始められたばかりの小さな教室であった。先生の熱心な指導と、奈良祭りなどの様々なイベントでフラメンコを踊っていくうちに、すっかりその魅力にとりつかれ、フラメンコは私にとって生きる糧とまでなってしまったのだ。

 そして、夫がドイツに転勤と決まった時、私はあることをすごく期待した。 ドイツといえば、世界の音楽史に名を残
す偉大な作曲家が数多く存在するクラシック 音楽の大国、
スペインには近いし、きっとすばらしいフラメンコスタジオとタブラオ(飲食しながらフラメンコショーが見れる店)
がたくさんあるんだろうと、それは大きな夢を膨らませて
来た。

 本題にはいる前に、フラメンコについて簡単に説明をしておきたい。日本では踊りばかりがクローズアップされて、フラメンコ = 踊りと誤解されているケースが多く見られるからだ。
フラメンコとは、カンテ(歌)、トーケ(ギターの演奏)バイレ(踊り)の3つがそろって始めて成り立つ芸術だ。日本には馴染みのない十二カウントのリズム構成で、 振付やテクニックよりも、リズムが一番重要になる。そして、フラメンコ独特のアイレも必要不可欠だ。アイレとは、直訳すると「空気」だが、フラメンコ的な雰囲気を意味する。生きる喜びや悲しみ、苦しみ、つまり人生をフラメンコで表現するので、 アイレのこもったフラメンコを観たり聴いたりすると、独特のオーラみたいな波長を感じて、血がすごく騒ぎだしてしまう。それがフラメンコだ。そして、本当のフラメンコを知ってしまうと、そうでないフラメンコは色あせて見えるから不思議である。

 私がドイツに来てすぐしたことといえば、もちろんフラメンコ教室探しだった。 ドイチェテレコム(ドイツのNTT)のイエローページで、”ダンス”のページを見てみる。あるある、フラメンコ教室がたくさんある!さすがドイツと感動しつつ、 広告の一番でかいスタジオに電話をしてみる。
「フラメンコの先生は、今いません。今日の夕方の6時か
ら、確か中上級者クラスがあるから、直接来て先生に聞いてみてください。あっ、そうそう、なんでしたら体験レッスンを受けてはいかがですか?もちろん、無料ですよ。」
 あぁ、なんてラッキーな私、天にも昇る気持ちで、ハウプトバッヘにあるスタジオに行ってみた。
そこのスタジオはフラメンコ以外の教室もいくつかあるらしく、かわいい 練習用チュチュを着たバレエの生徒やレオタード姿の女性を何人か見掛けた。フラメンコの先生が来るのを待っている間、声をかけてきたドイツ女性にこのスタジオについていろいろ尋ねてみた。この女性は、前は他の教室でフラメンコを習っていたが、あまり先生がよくなかったので、最近この教室に換えてきたと言う。ここの先生は女性で、基礎の練習をしっかりやるのでとてもいいよ、と私の期待を裏切らない評価。そして、 当人がやってきた。ドイツ人にしては小柄な、金髪のブルーな瞳が印象的で、とてもやさしそうな女性だ。
私は事情を説明し、体験レッスンを受けたい旨を説明する
と、 快く教室のなかに案内してくれた。
 そして、先生が一番前に立って、その後ろに約10人くらいの生徒が自分の体が鏡に 見えるよう配列し、期待のレッスンは始まった。しっしかし、私が目にしたものは、 想像していたそれとは全然違っていたのだ。 (えっ、ちょっとまって、これって本当にフラメンコ?!?!)
彼女の踊りは一応フラメンコの振りだが、フラメンコのアイレ(雰囲気)が全然ない。 と同時に、私の期待は音をたてて崩れていったのは、言うまでもない。
もし、あなたが演歌の魅力にとりつかれ、本格的な演歌を習いたくなって、訪ねた教室の先生が、音程はしっかりしているものの小節のきいていない、感情のかけらもない演歌を歌って教えていたら、その先生から本当の演歌を習えると思いますか?  彼女のレッスンは、フラメンコで一番重要なリズムもいい加減で、数人の生徒のリズム感のひどさは、もう途方に暮れるほど悪かった。
 レッスンが終わった後、彼女にもっとレベルの高いクラスはないか尋ねてみた。 私のショックと不満は彼女に伝わったようで、 「フランクフルトの教室はどこもこの程度のレベルしかないのよ。先生もね。でも、マンハイムにレナーテというすごくいい先生がいるから、遠いけど、そこに行く気があるのなら住所を教えてあげるわよ。」
 その後、他の教室にも見学に行ってはっきり分かったことは、普通のドイツ人には リズム感というものがまったくな
い、ということだ。そういえば、音感とリズム感はまったく別物で、音感の優れた人が必ずしもリズム感が優れているとはかぎらない、 と聞いたことがあったが、まさにその通りである。ここは音楽の国だから、普通の ドイツ人でもきっと音感は優れている、と信じたい。。。。。
 本来、フラメンコはジプシーたちが自分の心の欲するまま喜怒哀楽を表現してできたものなので、他の芸術と違って細かい決まり事がなく、頭が堅くて融通のきかないドイツ人には向かない踊りなのかもしれない、と感じてきた。
 しかし、ここまできたらもう意地である。 我が家から約2時間半もかかるマンハイムまで、フラメンコ教室を探しに行くことにした。 そして、苦労してたどり着いたフラメンコスタジオは、おおぉ、私にとってはまるで天国のような所だった!!!!
フラメンコ専用の床に、正面の壁一面には鏡でおおわれ、他の壁はフラメンコの写真や ポスターが貼りめぐらされ、しかもギタリストが生演奏をしているではないの!  日本のフラメンコ教室に、毎回生のギターがつくことはほとんどないのに。。。日本では、ギタリスト人口が少ないのと、費用が高いからだ。

先生レナーテに会ってみると、これまたドイツ人にしては小柄な、でもすごく太った中 年女性だった。正直に言うと、少しがっかりした。
しかし、レッスンが始まって彼女の踊りを見たら、今までの失望感と疲労も一度に吹っ飛んだ。レナーテは、アイレ(雰囲 気)のこもったすばらしい踊りとリズム感を持った女性だった。 初級者クラスのリズム感は、フランクフルト教室のレベルと差はほとんどないが、上級者の踊りのアイレ(雰囲気)とリズム感は、これが同じドイツ人かと疑うくらいすばらしくいい。練習の仕方と努力によって、こうも上達できるのかと思うと、どんなに遠くても頑張って来ようというやる気がでてくる。
 こうして、私のマンハイムまでのフラメンコ教室通いが始まったのである。

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