
97. ターニングポイント
あることがきっかけで、私に人生の転機が訪れた。
私はずっとWebデザインの仕事をしながらフラメン
コバイレ(踊り)の仕事を続けていたが、一応主婦
なので家の仕事もしなければならず、この生活の
ハードさに体力の限界を感じ始めていた時に、神戸
の老舗タブラオ”エルパンチョ・キタノ”から、
レギュラーで踊りませんか?という天から降ってき
たような話が舞い込んできた。
自分がレギュラーで踊っていけるかどうか不安も
あったが、このチャンスを逃したらもう先はないと
感じたので、今まで築いてきたWebデザインの仕事
をほとんど辞め、この世界に飛び込むことにした。
迷いはなかったのか?
もちろんあった。
私は小さい頃から舞踊を習っていたことがなく、
既婚の身なので、本場スペインに長期滞在して修行
することが出来ないし、年齢も決して若くはないの
で、将来の可能性が無限にあるわけではない。
私の活動拠点である関西は、スペイン人アーティス
トとの接触がほとんどなく、本物を追求しようと
思ったら、そういう環境を自分でつくるしかない。
不安な材料はたくさん揃っていた。
これから先はイバラの道だ。
でも弱気になる自分に負けたくない。
いつまでも夢を持ち続け、自分の可能性にチャレン
ジしたい。
覚悟は決った。
まずは、スペイン人アーティストとの仕事をいく
つか企画し、主催することにした。少しでも本物
に近付くために、今の私には必要なことだからだ。
スムーズにことが進めばどんなに楽だろうと願う
けれど、世の中はそんなに甘くないのである。
その最中、予想だにしなかったトラブルがいくつ
も発生し、精神的にかなりまいってしまったし
自分の才のなさに愕然とし、落ち込みながら
ただひたすら頑張るしか前に進む道はみえなかった。
そんな努力の結果、運がよかったことに、人もた
くさん集まり、最初にしてはいいスタートがきれ
たと思う。
リスクが大きかった分、スタジオや観客席からで
は学べないことを、舞台の上でたくさん学ぶこと
もできた。
しかし、予想外の出費が多く、金銭的には赤字に
なってしまった。リスクを負うのを覚悟でやった
ことだけど、数人の人から「これだけ人が集まれ
ば儲かったやろ。」と言われたことには、正直
ショックを受けた。ここには書けない悲しい出来
ごとも経験した。
「あれじゃ赤字だったんじゃないんですか?」 と
心配してくれた人の存在で気持ちが救われたものだ。
踊り手として上を目指せば目指す程、波乱万丈の人
生が待っていることを、私は身をもって知ったので
ある。
2003.04.12.
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