大坪一子建築設計研究所
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愛知の建築設計例



愛知の建築 読者のページ 2005.2 2005.3

ル・コルビュジエの建築を訪ねて
@建築の可能性と多様性が表現化された「サヴォワ邸」
大坪一子(社)愛知建築士会・広報委員

   



サヴォワ邸
地上階・断面図
2階・3階平面図

日本中がアテネオリンピックに沸き立っていた去年の夏、パリのシャルル・ド・ゴール国際空港に着きました。あいにくの小雨空にちょっとがっかりでしたが、パリのリヨン駅南東、セーヌ川沿いのソフィテル・パリ・ベルシーホテルに向かいました。近くにはベルシー公園があり、最新の地下鉄14号線(ドライバーレス運転システム)のCour Saint-Emilion(クーサンエミリオン)駅から徒歩3〜4分。ホテルへの道筋にはワイン倉庫を改造してショップ、カフェ、ワインバーが立ち並び、屋外テントには人々の憩う姿を見ることができました。ホテルはアメリカンタイプで、水廻りも充実しており、ここを拠点に明日からの「ル・コルビュジエの見学」に備えました。

2日目は午前中に市内観光、午後に今回の旅行の第一目的地「サヴォワ邸」へ向かいました。RER(エル・ウー・エル)高速郊外地下鉄A線のPoissy(ポワシー)駅の終点、Poissy(ポワシー)駅からバス♯50でLycee Le Corbusier(リセ・ル・コルビュジェ)で下車、すぐでした。地下鉄(メトロ)は、パリ市内は同一(1.3ユーロ=139円×1.3=180円)ですが、郊外へ行く場合は料金が異なるので、目的地までの切符を購入する必要があります。

「サヴォワ邸」の設計者であるル・コルビュジエは、20世紀に最も影響力をもった建築家です。
彼の建築物は、全世界にちらばって建てられており直接訪れることが可能です。私は、その場に出向き、立体的空間を肌で感じ、彼の技法、アイデアが21世紀にどんな可能性があるのか、生身の触れ合いの中で感じ取れたらという思いで来ました。

バスを降りて向かう道のりで日本の学生集団と鉢合わせ、ここは果たしてフランス?という思いに駆られました。日本大学某研究室のゼミの学生が40〜50名で、夏休みを利用してのヨーロッパ見学ツアーだということでした。騒がしい波が去ること1時間、「サヴォワ邸」の周りの芝生に寝転ぶフランスの若いカップルとともに、白い建築物の外観を飽きるともなく眺めました。この建築物は、「明るい時間」との名を持ち、1929年〜1931年にパリに住むサヴォワ夫妻の週末用住宅として建設。1940年ナチス・ドイツのパリ侵攻により立ち退きを命じられ、その後、連合軍に使用され傷んだ状態となりました。1958年ポワシーの町が買い取り、後に国へ譲渡し全面的修復され1965年には歴史的建造物に指定されました。

入館料3.96ユーロ(550円)を払い、配布のチラシを片手に建築散歩の始まりです。
ル・コルビュジェは著作の「現代的な家の図面」(サヴォア邸)で、「建築散歩」を勧めています。
「一階のシンプルな支柱は、単にそう置かれることで、その規則正しさが風景を切り分けます。家の[前]とか[後]とか、[側面]とかいった概念を取り除くのです。」「箱の下のピロティーを通りぬけると車用の道があります。それはピロティーのちょうど下で、家の入り口、玄関ホール、車庫、勝手口を輪のように囲んでいます。車は家の下まで入り、駐車され、また出ていきます。」ガイドは説明しながら、家の内部へと導いてくれます。

A2階 空中庭園よりサロンを見る
@玄関ホールから2階へ続く斜路

目の前の斜路が玄関ホールから緩やかな勾配で2階まで続いていました(写真@)。「光と空間が作り出す効果を楽しんで下さい。」とのコメント。白い壁には2階に設けられた空中庭園の木漏れ日が映し出され、自分の移動とともに変化し、これから見れるであろう情景を期待させました。斜路の勾配が終わるところにある左のドアを開けると、空中庭園(外部)に出ました(写真A)。こちらはサロンのガラス張りのスライデングドアからも出れるプランでした。そのため、光が家のあらゆる所まで届き、四季の景色が楽しめよう計画されていました。

  B3階ソラリウム 前方に長方形の窓
Cらせん階段

斜路を登りきった正面には、カーブしたスクリーンに長方形の窓がくりぬかれ、セーヌ川流域が望むことができるそうです。(写真B)。階下へは螺旋階段でも降れるようになっていて、(写真C)この階段はソラリウムからピロティーの下玄関ホールまでを結んでいました。3階から1階までの上下を連絡する垂直要素が水平構成に自然に溶け込んでいます。

2階には、生活の場であるサロン、厨房、配膳室、寝室、バスルーム、トイレ、客室がありました。サロンは広さ6×14mで、入り口はガラス張りのドア(フレームがスチール製で他はガラス)、中央には暖炉があり、天井にはニッケル鋼鉄製の長い吊り照明器具が部屋を照らす様についていました(写真D)。

サロンの東側は、壁をスカイブルー系、反対側をサーモンピンク系で塗り分けてあり、彼の斬新な感覚がうかがえます。外部に面した窓は建物一面に帯のように開けられており、ル・コルビュジエの「現代建築の5原則」の「横長の窓」を実現していました。現代建築の5原則」とは、1914年に考案したドミノ・システム(鉄筋コンクリート造による柱、梁構造)を発展させたもので、1.ピロティー 2.屋上庭園 3.自由な平面構成 4.水平連続窓(横長の窓)5.自由なファサード(立面)の5項目から成るものです。
D2階 サロン西側を見る、
(暖炉、ニッケル鋼鉄製野長い吊り照明)

現代建築の5原則」とは、1914年に考案したドミノ・システム(鉄筋コンクリート造による柱、梁構造)を発展させたもので、1.ピロティー 2.屋上庭園 3.自由な平面構成 4.水平連続窓(横長の窓)5.自由なファサード(立面)の5項目から成るものです。鉄筋コンクリートがピロティーを可能にし、家を地面から離し、又均一の屋根は屋上に庭を造れるようにしました。砂、芝生が温度変化を均一にし、鉄筋コンクリートの膨張、亀裂を防いでいます。

サロンの隣の部屋には、アルミニウムのスライデングドアの戸棚がある配膳室や、厨房があり、タイル張りの調理台を備え、小さいテラスにも面していました(写真E)
E2階 台所

寝室はサボア家の息子ロジェが使用していたらしく、部屋側はサーモンピンク系で、廊下のブルーの壁と空間に変化をもたせていました(写真F)。さらに廊下上部のトップライトからは太陽の光が射し、壁のブルーに反射し空間的広がりが感じられました。寝室にはバスルームが設置され、井戸の底の様に光が上から降り注ぐ場所になっていました。陶器エナメルでできた小さい青いタイルを使ったバスタブ、背のついた長椅子(メリディエンヌ)、洗面台があり、布のカーテンで、寝室と隔てられていました(写真G)。バスルームも光の演出がすばらしかったです。
家全体に空気が循環し、窓、トップライト、空中庭園から光があらゆる場所に降り注ぎ、建築の多様性を表現しています。さまざまな仕掛けを織り込んだ内部は移動のたびに新しい展開を見せてくれ、時間とともに変化も楽しめました。

F寝室内部から 入り口を見る
G寝室から布カーテンで仕切られている浴室

安藤忠雄氏はル・コルビュジエについて「彼の最大の遺産は 建築が人間の心に訴える力を持ち、人々の日常を変えることができると信じて建築の可能性を謳い続けた勇気にある。」と言っています。

私が見たサヴォワ邸はまさに新しい事にチャレンジし、前進を試み、表現した建物だと思いました。一つの想像力、一つの詩的宇宙論が貫かれていると感じました。


<参考文献>
「ル・コルビュジエ全作品集」・第2巻 ウィリ・ボジガー編 

「ル・コルビュジエー理念と形態」ウィルアム、JR、カーティス著
「ル・コルビュジエ 建築・家具・人間・旅の全記録」
「ル・コルビュジエの勇気ある住宅」安藤忠雄著
「ル・コルビュジエを歩こう」

吉坂隆正訳 
ADA EDITA Tokyo 
 
鹿島出版会 
エクスナレッジ
(株)新潮社 
エクスナレッジ  

愛知の建築 2005年2月号

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