7月27日 曇り

空は高曇りだった。下山ルートは水がとれないが、この曇り空なら水の消費は少ないかもしれない。
化雲岳から天人峡のコースタイムは5時間ほど。休憩を含めると6時間というところだろう。午後は天気が崩れるかもしれないので、昼には下山を終えたい。ヒサゴ沼を4時半に出発して6時頃に化雲岳に着き、化雲平の花畑を楽しんだあと、遅くとも7時には化雲岳を下り始めることに決めた。
4:40 テント場発(高度計:1675m)


分岐からはまず沢状態の道の登り。ブッシュの歩きは朝露で濡れるので、カッパの上着とザックカバーを装着した。この山域独特の階段も滝のようになっている。その後の雪渓は2つとも難なく通過した。上の雪渓ははるかに見える大岩を目指すのが正解だ。登っていく道すがら、トムラウシ山がヒサゴ沼の後ろの山の向こうから頭を出してきた。曇っているのがちょっぴり残念だが、まあ見えただけよしとしよう。
5:47 化雲岳着(1925m)


ザックを置いて、山頂部を三角形に周ることにした。まずは東の分岐へ。東の斜面は結構下り、石がごろごろしていて歩きにくい。時季がもう少し早ければチングルマが美しかったことだろう。東の分岐から南の分岐への道が素晴らしいのは言わずもがなである。南の分岐周辺はトムラウシの王冠をバックにしたハクサンイチゲの大群落。木道がアクセントになっている。ただ、空が青くないので山をバックにしても写真としてはイマイチな感じになってしまった。でも、見えているだけいい。贅沢は言わないのだ。
そんなこんなで6時半頃に山頂に戻ると、もう誰もいなかった。ポン化雲方面に人がひとり歩いているのが見えたが、それはたぶん先行の単独男性だ。他の人たちはきっとみんな五色岳方面へ向かったのに違いない。旭岳にはいつの間にか雲がかかっていた。
6:53 化雲岳発(1925m)


いきなり結構下り、そのあとまた同じくらい登り返すのがやり切れない。しかしこの間も花はきれいだ。東斜面に残雪があって、その周りにチングルマがたくさん咲いている。ほかにコマクサやメアカンキンバイ、シオガマなど。シオガマはミヤマシオガマが咲いていた。
登り返したあとでほぼ平坦な道になる。人ひとり分くらいの幅の土の道。進んでいくと、左にゆるくカーブしたあたりで、ようやく記憶にあるヨツバシオガマの群落地に来た。今回は、エゾウサギギクの黄色が混じっていて、よりきれいだった。さらに進むとまたまたチングルマが増えてきた。が、花はもう終わりに近いようだった。
7:40 ポン沼の南の小丘


7:57 ポン沼(1850m)


左に曲がることでポン化雲岳の北側にまわることとなるが、こちらも南斜面ほどではないが見事なチングルマ群落。道は石ゴロで歩きにくい。そして唐突にハイマツ林が始まる。ハイマツがいったん切れたところにはコマクサとメアカンキンバイが道の真ん中に咲いていたりする。
8:55 第二公園通過(1665m)


ここからいよいよ、ぬかるみの悪路が始まる。・・・と思ったが、なんか様子が違う。足をとられないのだ。雨が降らないので泥が乾いたのだろう。また、要所要所には石やら砂やらを入れているようだ。そんなわけで、10年前にあれだけ苦労した道を、かなりスイスイと歩くことができた。
第二公園から30分ほど下ったあたりは開けていて、周囲はワタスゲが揺れる草原となっていた。道は泥炭層が露出していたが、そこにも容赦なく石が入れてあった。理想を言えば木道でも敷くところなのだろうが・・・
10:06 第一公園(1355m)


大きな枯れ沢を渡るとすぐに第一公園の木道に着いた。10年前は第二公園から2時間かかった行程が、1時間ちょいで済んだ。それよりなにより、道の状態に神経を遣わなくてよいという気楽さは、短縮された時間以上の効果があると思う。
第一公園は木道があるのはありがたいが、待避線がない。まあどうせ誰も来ないだろうと真ん中にザックを降ろして休憩した。一面のワタスゲの穂を期待したのだが、思ったほどでもなかった。花も、チングルマとエゾコザクラの咲き残りが少しあった程度。
20分ほどの休憩を終えて歩き始めようという頃、空が暗くなってきた。ヤバい感じの空だ。
11:51 滝見台(925m)

そんなことより、この道で恐ろしかったのはスズメバチだ。道の脇の倒木に派手な黄色いヤツがとまっているのを目撃してしまった。ハッと思ったがどうしようもない。ハチはかつりんの周りをブンブン旋回している。明らかに警戒飛行だ。無言でひたすら歩く。刺激するといけないので払うことはしない。ヒサゴのコルでヒグマを見たよりもはるかに怖かった。ハチの警戒飛行は断続的に続き、全部で3回飛び回られた。恐ろしきかな大自然。
滝見台に着く手前から、今度は蚊に襲われた。歩いてるのに、手やら顔やら何ヶ所か刺された。滝見台に着いてすぐにザックを降ろして相棒が虫除けを取り出し、撒き散らした。
ここでケータイ(FOMA)の接続をONにしたら繋がった。予想どおりだ。まずは今宵の宿を予約。下山地の天人峡温泉ではなく、旭岳温泉に泊まることにした。続いて、天人峡温泉から旭岳温泉へ向かうタクシーを予約。1時間後に待っていてもらうことにした。下山中に予約ができるなんて、ああ、世の中便利になったもんだ。
虫除けが効いたのか、蚊はさほど気にならなくなった。10年前と同じくここでみかんを食べた。疲れた体に甘くてみずみずしい果物が沁み渡った。
12:43 天人峡温泉着(640m)


この日の最大高度は1930m、最低高度は640m、積算上昇は360m、積算下降は1355mだった。結局、最後まで雨は降らなかった。コース中のすれ違いは一人だけで、先行者を見かけた以外は追い抜き・追い抜かれも全くなし。これだけ人に会わなかった山はちょっと記憶にない。
旭岳温泉へ
タクシーはすでに待っていた。予約したときに説明を受けたが、天人峡と旭岳温泉の最短の道が工事中で不通のため、通常なら4000円程度のところが、時間も値段も倍以上かかるということだった。旭岳温泉に着いたのは13時半ごろだったが、ホテルのチェックインは15時からなので、荷物だけ預けてロープウェイ駅に行き、売店の旭岳麦酒とコロッケでプチ打ち上げをした。そのあとはビジターセンターに行った。ビジターセンターでは座敷でまったりと休みながら、備え付けの野鳥図鑑で山中で見た鳥の復習をした。うん、高根が原の三笠分岐あたりで見た鳥はやっぱりギンザンマシコだ・・・たぶん。
旭岳温泉
旭岳温泉と旭川市街を結ぶバス「湯けむり号」の運行が今夏から変わり、天人峡に替わり旭川空港を経由するようになった。で、このバスが旭岳温泉を出るのが11時なので、東京に帰る前にロープウェイで姿見あたりを散策するのにちょうどいい。というわけで、宿はロープウェイに一番近いベアモンテを選んだ。宿代は2食付きでひとり15000円と、5年前に泊まったときより7000円も安かった。たまたま安い部屋が空いていたのだろう。風呂に入るととても充足したいい気分になった。風呂は変わらなかったが、料理は明らかに変わっていた。以前はあれほど地産地消にこだわっていたのに、「○○町産」などと明記された食材は数えるほどだった。5年前に衝撃を受けた濃厚激旨トマトジュースは、水っぽい別物となっていた。ワインは外国産のものが多く、国産は菜根荘という夕張のワイナリーのものだけだった。ラインナップは山ぶどう系の品種ばかりで、あまり好みではないのだが、地元ワインということで注文した。