8月10日 霧・強風

外は素晴らしい天気だった。大日岳や、雲海に浮かぶ磐梯山が目に焼き付いて離れない。本山方面に数分行ったところは、小屋前のテントを排して手前に残雪を入れることができる大日岳撮影の好ポイントだ。眺めていたらどんどん時間が過ぎていった。5:02に大日岳が雲に隠れたのを機に、小屋に戻って出発の準備をすることにした。雲に覆われはしたものの空は明るく、このときが大日岳を見た最後になろうとは夢想だにしなかった。
5:10 出発(1915m, 17.1℃)


などとお気楽に歩き始めたものの、風が次第に強くなってきた。稜線に出ると平地の台風なみの強風が吹き荒れる。斜面は花が美しいが、稜線はササに覆われていて、はっきり言っておもしろくない。徐々に苦行の様相になってきた。
6:00 天狗の庭(1780m, 19.1℃)


天狗の庭はかつては美しい花畑だったに違いない。登山者に踏み荒されたのだろう、裸地が広がっていて、ロープで侵入が制限されていた。尾瀬のアヤメ平を連想した。ここから雲の下に雲海が広がっているのが見えたが、目指す烏帽子岳はどでかい胴体がちらりと見えるだけだった。
天狗の庭のあとも花の斜面のトラバースが続く。ハクサンシャジン、コバイケイソウ、ニッコウキスゲ、シラネアオイ、カライトソウ、etc...
6:47 御手洗ノ池(1790m, 21.4℃)

この界隈は縦走登山者の世界。シュラフも食糧も担いでいるので、大きめなザックの人ばかりが行き交う。石転び沢を登ってくる人なんかはピッケルまで持っているから、なんだか凄い山に来たんだという気がする。今日びは南アルプスでも食事・寝具つきの小屋ばかりになってしまったから、こんな山はもう飯豊くらいしかないのではないだろうか。
8:09 烏帽子岳(1950m, 20.6℃)


ここまで道が上下に2段付いているところが数箇所あったが、上を行くのがいいだろう。下を選ぶと残雪に吸い込まれていってしまうことがある。天狗の庭から梅花皮小屋までの区間では残雪を歩いていて滑落する事故があるそうだが、この日は雪の上を歩いたのはわずか1箇所、それも10mほどで危険はなかった。
9:00 梅花皮小屋(1790m, 19.4℃)


梅花皮小屋は小屋番も外出中で(いったいどこに?)、まったく人気がなかった。水場で水を汲み、小屋のかげで軽食をとる。
9:29 梅花皮小屋発(1795m, 19.0℃)

9:59 北股岳(1950m, 19.8℃)
鳥居のある北股岳に登頂。風が強く寒いので、立ったままちょっと休憩したあとすぐに次を目指す。ここから石転びの大雪渓が覗き見えるということだが、今日はとてもそんな状況じゃない。10:57 門内岳(1825m, 20.1℃)

門内岳山頂で対向者と少し会話を交わしてから、すぐ直下にある門内小屋に移動して休憩をとる。この小屋もまた人気がなかったが、小屋番が管理棟にいた。ここで相棒が飯豊のバッジを買ったが、リンドウの花をあしらったシンプルなデザインのバッジだった。頼母木小屋でも同じものを売っているという話だった。
11:33 門内小屋発(1815m, 21.9℃)

11:58 扇ノ地紙(1840m, 25.0℃)

扇ノ地紙は梶川尾根との分岐点で、ちょっとした広場になっている。分岐は稜線の東側にあって、残雪が豊富でハクサンコザクラ、アオノツガザクラやキンポウゲの群落がきれいだった。
12:29 地神山(1800m, 21.7℃)

この先はふたたび花の稜線となり、ハクサンフウロやイイデリンドウが姿を見せ始めた。
12:54 地神北峰(1740m, 20.9℃)


いったん下るが、この斜面がすばらしい花畑のようだった。「ようだった」というのは、ガスで全体像がつかめないからだが、かなりの花が咲いているのがわかる。中でもイイデリンドウがたくさんあったのには感激した。花が花だけに「一面の大群落」ということはないのだが、両側の足元にたんまりと咲いている。陽射しがないと開かない花だが、ちゃんと開いているものが多かった。あわよくば杁差小屋まで行くつもりだったが、もう頼母木小屋止まりにして、ここで花を堪能することに決めた。しかしなにしろ風が強くて花が揺れまくるので、写真を撮るのはたいへんだった。
13:39 頼母木山(1680m, 21.2℃)
山頂に地蔵が1体。強風にはためく頭巾はTMレボリューションのPVのようだった。あとはもう小屋まで下るだけだ。
13:55 頼母木小屋(1595m, 23.3℃)

テント場は小屋の周辺で、小屋のかげに張ってもOKということだったが、あまりの強風に怖気づき、この日も小屋に入ることにした。どうせ混まないだろうし、そもそも幕営禁止の山域なのだ。
頼母木小屋にて


気象通報を聞いてから(今日のガスは高気圧の縁辺流が原因のように思われた)夕食をとった。この調理中に1本めのガスカートリッジを使いきった。
食後、歯を磨こうと外に出ると、あれだけ頑固にへばりついていたガスがとれ始めた。ついには青空まで見えてきて、眠りについた人も再び起き出して小屋中総出で夕景を眺めた。信濃川や日本海がきらきら輝いていた。新潟港の巨大な煙突も見えた。ここで初めて見た地神山は、胴体が大きくて堂々とした山容だった。明日行く予定の杁差岳への想像以上に厳しそうなアップダウンも見えた。ガスはときどき湧いてきて、この日もまたブロッケンが見られた。
19時過ぎには眠りについた。寒がりの相棒はシュラフを掛け布団のように使い、暑がりの自分はシュラフは使わずに、足先だけ小屋の毛布にくるんで上半身はTシャツ・ウールシャツで寝た。