第2日(10月13日):快晴のち曇り
4:40に起床。室温は12.7℃で、とても暖かかった。早速自炊室に移動するが、まだ小屋内の発電機が動いておらず、暗い中で朝食を準備することとなった。空は物凄い数の星で埋め尽くされており、予報どおりの好天は間違いない。今日はこの山行の核心の黒部五郎越えで、山頂からの大展望への期待に胸がふくらむ。梅茶漬けを食べていると徐々に空が明るくなって、星が消えていった。雲ひとつない快晴の空は真っ白になった。もしこのときに目覚めていたら、曇りと勘違いしたかもしれない。それくらい、晴れすぎているのだ。
結局出発準備が整ったのは6時ちょっと過ぎ。小屋の外でストレッチなどをしていると、食堂のTVでNHKのニュースが流れているのが見えた。これから2日間はテレビが見られないので、そのままもうあと10分くらい待って、週間予報を見てから出発することにした。予報によると、晴れるのは今日までで、明日以降は天気が崩れるようだった。うーむ・・・
6:21 出発(2340m, 14.3℃)

出だしの30分は、そんななだらかな気分のよい稜線漫歩が続いた。その後は、土留めの板が階段状に打ち込んであるえぐれた道が木道に混じって出現するようになった。
7:16 登りの途中

さらに30分で太郎平小屋からも見える斜面を登りきると、視界が一気に開けた。今日これから歩く予定の北ノ俣岳と黒部五郎岳が見え、五郎の右奥に笠ヶ岳、左奥には槍ヶ岳が姿を現した。北ノ俣岳の西側山頂直下は残雪が豊富なところだが、この季節には雪は跡形もなく、夏に残雪があるところは草も生えずにぽっかりと口を開いたままだった。北アルプスというと岩と雪のイメージが強いが、ここから見える山肌はどこも雪が全くなく、なんだかヘンな感じがした。ここからなだらかな道をルンルン気分で登っていく。
8:12 北ノ俣岳登頂(2660m, 19.5℃)


8:36 北ノ俣岳発(2680m, 25.5℃)

五郎はカールを開いた東や北からの姿がなんといっても有名で、山頂がちょこんと突き出た西側からの姿はあまり馴染みがない。相棒なんかは笠ヶ岳と勘違いしてしまったくらいだ。
こちら側に突き出ている広い尾根に、ジグザグに登っていく急登の道が見える。キツい斜面を登りきって、肩からカールをどどーんと見下ろした5年前の感動を思い出した。あのときはガスだったが、今日はどうだろうか。
9:03 赤木岳(2630m, 23.0℃)
下りきり、ちょっと登り返して赤木岳。ここは山頂を巻く。山頂直下の道中に標識があった。その次の小ピークが岩ゴロゴロで歩きにくいことこのうえない。相棒は荷物の重さに肩の痛みを訴えるし、そのうえ気温も上がってきて、ペースがみるみる落ちてきた。中俣乗越を見下ろす小広場で堪らずザックを降ろす。かつりんはもう我慢できずに、ズボンを脱いで下半身はスポーツタイツ1枚になった。まるで江頭2:50だが、どうせ今日は誰にも会わないだろうから構わない。
10:06 中俣乗越通過(2510m, 30.6℃)

続いて2578mのピークを目指す。道はピークの直下を左に大きく弧を描いていく。すると薬師の右からとんがった山が見えてきた。立山だ。そのさらに右にまた特徴的な山容が見えた。どうやら後立山のようだ。8月末に歩いた唐松岳も見えた。すげー展望だ。
ピークからは、肩への急登がはっきり見えるようになった。ずっとジグザグで、最上部で左上への直線になっていた。
10:59 急登の手前で息を整える

しかしここは5年前にバテバテになった急登。今回もここで突然バテた。気温のせいもあるかもしれない。それまで30分〜40分で休んでいたが、ここでは20分ごとに休憩というペースにした。先ほどまで荷が重いとキツそうにしていた相棒はなぜか好調になり、どんどん先に行ってしまった。誰にも会わないと思っていたが、途中で、ものすごい身軽な老人に、ものすごいスピードで抜き去られた。
11:49 五郎の肩着(2810m, 31.4℃)

意外なことに、肩には大きなザックがふたつデポしてあった。ハイパー老人のほかにも登山者がいるようだ。
12:05 五郎の肩発、山頂へ
軽食をとりながら休んでいると山頂から人影が。大ザックの持ち主たちで、50代くらいの夫婦だった。テントでこの山域を気ままに歩いているのだという。五郎平の水場について知らないかと尋ねると、知らないようだった。が、「まー大丈夫でしょう」という。かつりんが太郎平小屋で聞いた話をすると「水場までは撤収しないでしょー」という根拠のない返事であった。うーん。そうこうしていると山頂から先ほどのハイパー老人が下りてきた。老人も話に加わり、テント場の裏に流水があったと思うのだがと言うと、この人は詳しくて、「その流水は涸れているかもしれないが、カールの中やカールから小屋に行くまでの間にたくさん湧き水がある」ということだった。また、最悪の場合は五郎沢まで下りればいいが、小屋からの汚染がちょっと心配だとも言っていた。いずれにしても不確定情報で油断はならないが、水は太郎平で買ったペットボトルのおかげで潤沢だ。挨拶をしてから、みかんと水とカメラと防寒用のカッパを持って山頂へ向かった。ハイパー老人はそのまま北ノ俣方面へと帰っていった。
12:17 黒部五郎岳登頂(2840m, 29.4℃)


13:05 山頂を後にする


展望を楽しんでから下山開始。見下ろすと、カールの中の何箇所かに水溜りがあり、水が流れ出しているようだった。ただ、溜まりには油のような汚れが浮いているのが見えたので、飲用には使わない方がいいかもしれないと思った。
13:30 五郎の肩発、カールへ下る(2800m, 22.7℃)


山頂では雲ひとつなかったのに、突然雲が流れるようになった。
14:06 五郎のカール(2630m, 27.4℃)


標識が現れて五郎沢から離れるあたりでザックを降ろした。今回の目的は山頂からの展望もさることながら、カールの底でコーヒーを飲むことだった。1時間くらいはたっぷり楽しみたいと思っていたが、もう山頂からの展望でお腹いっぱい。このときのためにコーヒー豆を持ってきていたのだが、インスタントのカフェオレで手軽に済ませて早めに小屋に向かうことにした。
山頂を仰ぐと逆光でまぶしい。やはりカール内の眺めは午前が旬なのだ。反面、雲ノ平方面は順光で美しかった。晴れの天気は続いていたが、頻繁に雲が流れるようになった。雲がかかって日陰になるととたんに寒くなり、温かいカフェオレがとても美味しく感じられた。写真を撮り終えた夫婦が先に五郎小舎へと下っていった。狐色の大きなカールの中には我々のほかには誰もいなくなった。特にすることもなく、水晶岳を眺めていたりした。まったりと時は流れていく。
14:40 カールを去る


雷岩をちょっと過ぎてからカールの縁をトラバースするような形になり、カンバの林に入る。ナナカマドは葉が落ちて真っ赤な実だけになっていた。ここで後方から若い男性がやってきて我々を抜き去っていった。ザックの大きさからしてテントではなさそうで、すると冬季小屋は混んでいるのだろうか。
15:50 黒部五郎小舎着(2325m, 17.8℃)

空はすっかり曇っていて、寒かった。特に下半身が寒くて、そういえばあれからずっと江頭スタイルだったことに気付いた。
その夜

冬季小屋はだいたい10人が入れるくらいの小さな建物だ(詰めればもっと入れると思う)。狭い小屋の方がテントよりも暖かいだろうということで、ちょっと迷ったが小屋泊まりにした。内部は中2階と2階の3段に分かれていた。この日の泊まりは我々を含めて5人で、先ほど林で我々を抜いた男性が1階、カメラマン夫婦が2階で、最後に到着した我々が中2階に入った。中2階は我々のテント(210cm×150cm)よりちょっと広く、ふたりが寝るには充分すぎる広さだった。ただ、天井がちょっと低かったので、何度か頭をぶつけてしまった。
結局、テント場の裏の流水は涸れていた。あのハイパー老人の言ったとおりだったわけだ。カメラマン夫婦は水の蓄えがなかったようで、最後の沢まで汲みに行っていた。
夕食は、小屋の前で調理をした。この頃には周辺はすっかりガスに包まれてしまい、たいそう寒くなってきた。シチューはすぐに冷めてしまい、乾燥野菜ももどりが悪くてあまり美味しくできなかったのが残念だった。トイレも閉鎖されていたので、闇にまぎれて用を足し、19時過ぎには眠りについた。
ところが、あまり寝心地がよくなくて夜中にしょっちゅう目が覚めた。床は板で、もちろんマットは敷いたのだが。外で風が強烈なうなりをあげているのが聞こえ、テントにしなくて正解だったと思った。