1973年のピンボール講談社文庫 1983年
登場するジャズは一番最近のものでも1951年ということで、どれもかなり古いものです。とは言ってもこの小説の時代設定じたいが1969年から1973年ですが。
ミルドレッド・ベイリー「イッツ・ソー・ピースフル・イン・ザ・カントリー」53ページ
僕はミルドレッド・ベイリーの「イッツ・ソー・ピースフル・イン・ザ・カントリー」を口笛で二回吹いた。いい曲ね、と二人は賞めてくれた。
Mildred Bailey
The Rockin' Chair Lady
Mildred Bailey (vo), Herman Chittison (p), and others
田舎の良さを謳いあげている曲。たいへん美しいメロディーで、双子の言うとおりいい曲だと思う。そしてベイリーは実に優しい歌声で、この曲をかけると部屋がとても親密な空気になる。小説中では夕暮れのゴルフ場というロケーションで、それがまた都会にいて田舎を思う感じで、この曲にぴったりな気がする。
1941.6.24録音
スタン・ゲッツ「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド」74ページ
スタン・ゲッツ、アル・ヘイグ、ジミー・レイニー、テディ・コティック、タイニー・カーン、最高のバンドだ。「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド」のゲッツのソロをテープにあわせて全部口笛で吹いてしまうと気分はずっと良くなった。
Stan Getz
Stan Getz At Storyville Vol.2
Stan Getz (ts), Jimmy Raney (g), Al Haig (p), Teddy Kotick (b), Tiny Kahn (ds)
聴くとすぐに首振って足でリズムとっちゃうノリのよいリズムが心地よく、各人のソロもたっぷり聴けるし、まさに名演。いくら聴いても飽きない大好きな演奏。ベース・ソロが終ってラストのテーマに入ってから拍手しているヤツがいるが、私もCDプレイヤーに向かって何度拍手したことか。にしても、Getz のソロ、すっごい長いんですけど。しかもあいまいなフレーズなんかもあって、これ吹けるってのは相当なマニア。
1951.10.28録音
チャーリー・パーカー「ジャスト・フレンズ」75ページ
僕は窓を閉め、カセット・テープでチャーリー・パーカーの「ジャスト・フレンズ」を聴きながら、「渡り鳥はいつ眠る?」という項を訳し始めた。
Charlie Parker
Charlie Parker With Strings Complete Master Takes
Charlie Parker (as), Stan Freeman (p), Ray Brown (b), Buddy Rich (ds), Jimmy Carroll (arr, cond), and others
Parker の演奏する Just Friends はこれしか知らない。ストリングスのイントロに続けて Parker がいきなりアドリブで入ってくるところがゾクゾクする。でもよく聴いてみると、かなりアドリブが入っているもののどうやらテーマを吹いているようで、こういうところにまたまたシビれる。そしてそのまま自身のソロへと続く。この自由奔放な浮遊感はまさしく Bird の称号にふさわしい。おかげであとのピアノ・ソロがとてもみじめ。
1949.11.30録音
ビックス・バイダーベック、ウディ・ハーマン、バニー・ベリガン131ページ
仕事は峠を越し、僕はカセット・テープでビックス・バイダーベックやウディ・ハーマン、バニー・ベリガンといった古いジャズを聴き、煙草を吸いながらのんびりと仕事を続け、一時間おきにウィスキーを飲み、クッキーを食べた。
Bix Beiderbecke
Bix Beiderbecke
Bix Beiderbecke (cornet), and others
ビブラートをしないで吹く、白人のスタイルを確立したとかいう、大昔のえらい人。和暦でいうと昭和の初め頃の、とっても古いジャズ。コーヒータイムにさらりと流しておける心地よさ。Woody Herman は世界の終りとハードボイルド・ワンダーランドにも登場する。こういう白人系のジャズが村上氏の好みなのだろう。
1926-1930録音
スタン・ゲッツ「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド」151ページ
僕は腰を下ろしたまま「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド」のはじめの四小節を口笛で吹いてみた。スタン・ゲッツとヘッド・シェイキング・アンド・フット・タッピング・リズム・セクション・・・・・・。遮るものひとつないガランとした冷凍倉庫に、口笛は素晴らしく綺麗に鳴り響いた。僕は少し気を良くして次の四小節を吹いた。そしてまた四小節。
以前よく通った市営プールの近くに養鶏場があって、自転車で通り過ぎるとき、たまにマネをして口笛を吹いたりした。テーマだけなら12小節、簡単に吹けるのでお試しあれ。
この小説中に出てくる他の音楽・ミュージシャンなど
- 7頁 ヴィヴァルディ「調和の幻想」、「ハイドンのト短調のピアノ・ソナタ」
- 16頁 リッキー・ネルソン「ハロー・メリー・ルウ」
- 17頁 ボビー・ヴィー「ラバー・ボール」
- 32頁 「ペニー・レイン」
- 33頁 サンタナ
- 70頁 モーツァルト
- 77頁 ヘンデル「レコーダー・ソナタ」、ハンス=マルティン・リンデ
- 78頁 ビートルズ「ラバー・ソウル」
- 81頁 「オールド・ブラック・ジョー」
- 90頁 ウェイン・ニュートン
- 91頁 「マッカーサー・パーク」
- 92頁 ファルセット・ボイスの甘いソウル・バラード
- 106頁 ジーン・ピットニー
- 110頁 ジャクソン・ファイヴ
- 119頁 バッハ、ハイドン、モーツァルト、パット・ブーン、ボビー・ダーリン、プラッターズ
- 175頁 「ラバー・ソウル」