世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド新潮文庫 1988年
長編ですが、このあらすじでは音楽の登場が少ないのはしかたのないところ。でもジャズ・クラシック・ロックともにバランス良く引用されています。
「ダニー・ボーイ」(上)14ページ
私はためしに口笛で『ダニー・ボーイ』を吹いてみたが、肺炎をこじらせた犬のため息のような音しか出てこなかった。
Johnny Griffin
The Kerry Dancers
Johnny Griffin (ts), Barry Harris (p), Ron Carter (b), Ben Riley (ds)
小説のしょっぱなから実にさりげなく登場するが、実は最重要な位置を占める曲。もともとはアイルランド民謡「ロンドンデリーの歌("The Londonderry Air")」。が、なんとかいう人が戦争の歌にしてしまい、それが Bing Crosby の歌によって第2次大戦中にヒットしたというもの。このアルバムでは "The Londonderry Air" として吹き込まれており、Barry Harris のしっとりとしたピアノ・ソロが楽しめる。また、小説を読んでから聴くと、Griffin のブロウが肺炎をこじらせた犬のため息のような音に聞こえてくるかも(?)。
1962.1.29録音
チャーリー・パーカー(上)304ページ
「チャーリー・パーカーのレコード持ってる?」
「持ってると思うけど、今はとても探せる状態じゃないし、それにステレオの装置も壊されちゃったから、いずれにせよ聴けないよ」
Charlie Parker
Now's The Time
Charlie Parker (as), Al Haig (p), Percy Heath (b), Max Roach (ds)
レコード名が明記されていないので、私のおすすめを。このアルバムは Parker にしては録音状態もよく、オリジナルの名曲からスタンダードナンバーまで選曲もバリエーション豊富で、ジャズをこれから聴こうという人にも楽しめると思う。
1953.8.4録音
MJQ「ヴァンドーム」(下)52ページ
それで私はあきらめて、自分がウィスキーを飲んでいるところを頭の中に想像してみることにした。清潔で静かなバーと、ナッツの入ったボウルと、低い音で流れるMJQの『ヴァンドーム』、そしてダブルのオン・ザ・ロックだ。
The Swingle Singers With The Modern Jazz Quartet
Place Vendome
John Lewis (p), Milt Jackson (vib), Percy Heath (b), Connie Kay (ds), Swingle Singers (chorus)
Swingle Singers はずうっとダバダバ言ってるコーラスグループ。紅白歌合戦の由紀さおり姉妹みたいだ。このダバダバがメロディーを奏で、Milt のソロのバッキングをしたりする。アルバムは「G線上のアリア」や John Lewis オリジナルのフーガから構成されており、限りなくクラシック音楽に近いジャズ。たしかに「清潔なバー」にはよく似合いそう。
1966.9.27, 10.30録音
ケニー・バレル「ストーミー・サンデイ」、デューク・エリントン「ポピュラー・エリントン」(下)242ページ
ジョニー・マティスのベスト・セレクションとツビン・メータの指揮するシェーンベルクの『浄夜』とケニー・バレルの『ストーミー・サンデイ』とデューク・エリントンの『ポピュラー・エリントン』とトレヴァー・ピノックの『ブランデンブルク・コンチェルト』と『ライク・ア・ローリング・ストーン』の入ったボブ・ディランのテープという雑多な組み合わせだったが、カリーナ1800GT・ツインカムターボの中でいったいどんな音楽が聴きたくなるものなのか自分でも見当がつかないのだから仕方ない。
「ストーミー・サンデイ」は「マンデイ」の間違いと思われる。ケニー・バレルのストーミー・マンデイは持っていません。(好きなプレイヤーなので、見つけたら是非とも購入したいと思っています。)
ベニー・グッドマン(下)267ページ
「サマセット・モームを新しい作家だなんていう人今どきあまりいないわよ」と彼女はワインのグラスを傾けながら言った。「ジューク・ボックスにベニー・グットマンのレコードが入ってないのと同じよ」
Benny Goodman
Carnegie Hall Jazz Concert
Benny Goodman (cl), and others
とりあえず手持ちの Goodman のアルバムを。これはクラシックの殿堂カーネギー・ホールで、史上初めてクラシック以外の音楽を演奏したときのドキュメント。「この日このとき、ジャズは芸術となった」みたいな大げさなことを言う人もいる。こういう歴史上の名盤というのは聴いてもつまらないということがままあるが、これはなかなか面白い。「巴里のアメリカ人」で有名な "I Got Rhythm" なんかは今聴いてもなかなかスリリング。
1938.1.16録音
ジャッキー・マクリーン、マイルズ・デイヴィス、ウィントン・ケリー、「バッグズ・グルーヴ」、「飾りのついた四輪馬車」(下)275ページ
私が適当に選んだテープにはジャッキー・マクリーンとかマイルズ・デイヴィスとかウィントン・ケリーとか、その手の音楽が入っていた。私はピツァが焼けるまで、『バッグズ・クルーヴ』とか『飾りのついた四輪馬車』とかを聴きながら一人でウィスキーを飲んだ。
Miles Davis
Bags' Groove
Miles Davis (tp), Milt Jackson (vib), Thelonious Monk (p), Percy Heath (b), Kenny Clarke (ds)
文章を読んで、まっさきにこのアルバムの "Bags' Groove" を思い浮かべてしまった。いわゆるクリスマス・ケンカ・セッションで、これまた歴史上の名盤だが、やはりこれまた面白い。Milt がいなかったら、もっと殺伐としてたんでしょうかねえ。ちなみに本文では「クルーヴ」となっているが、これは誤植か書き損じだろう。
1954.12.24録音
ビング・クロスビー「ダニー・ボーイ」(下)280・281ページ
私はビング・クロスビーの唄にあわせて『ダニー・ボーイ』を唄った。
「その唄が好きなの?」
「好きだよ」と私は言った。
彼女がもう一度『ダニー・ボーイ』をかけてくれたので、私ももう一度それにあわせて唄った。二度めにそれを唄うと、私はわけもなく哀しい気持になった。
Bing Crosby
Bing Crosby Best Collection
Bing Crosby (vo), and others
上述のように、もともとは民謡。この人のこの歌を聴いていると、なんだか途中で「ホワイト・クリスマス」と区別がつかなくなってくる。アルバムにはほかにブルー・ハワイなんかも収録されている。え、Bing Crosby はジャズじゃない? いや、お店のジャズコーナーに置いてありましたので。
1937.2.23-1953.11.14録音
ウディー・ハーマン「アーリー・オータム」(下)301ページ
次の曲はウディー・ハーマンの『アーリー・オータム』だった。テーブルの上のキッチン・タイマーは七時二十五分を指していた。十月三日、午前七時二十五分だ。月曜日。空はまるで鋭利な刃物で奥の方をえぐりとったように深くくっきりと晴れわたっている。
Woody Herman
Ready, Get Set, Jump
Woody Herman (cl, as, vo), Stu Williamson, Ernie Royal (tp), Kai Winding (tb), Nat Pierce (p), Jake Hanna (ds), and others
ライブ音源で、Herman のヴォーカルが聴ける。そのつもりになって聴くせいか、実に秋らしい曲だと思う。銀杏並木が似合うと勝手に思っている。テープにちょっと歪みがあるのが残念。
1953,1958録音
デューク・エリントン「ドゥー・ナッシン・ティル・ユー・ヒア・フロム・ミー」「ソフィスティケーティッド・レディー」(下)323ページ
デューク・エリントンの音楽もよく晴れた十月の朝にぴたりとあっていた。もっともデューク・エリントンの音楽なら大みそかの南極基地にだってぴたりとあうかもしれない。
『ドゥー・ナッシン・ティル・ユー・ヒア・フロム・ミー』のユニークなローレンス・ブラウンのトロンボーン・ソロにあわせて口笛を吹きながら車を運転した。それからジョニー・ホッジスが『ソフィスティケーティッド・レディー』のソロをとった。
Duke Ellington
The Popular Duke Ellington
Duke Ellington (p), Johnny Hodges (as), Paul Gonsalves (ts), Cootie Williams (tp), John Lamb (b), Sam Woodyard (ds) and others
"Do Nothin' Till You Hear From Me" を口笛で吹きながら運転したら事故りそう(演奏が2分弱でよかった)。"Sophisticated Lady" は曲調が "Early Autumn" と似ていて、なるほどこれも秋に似合いそう。どちらも静かな演奏で、Ellington のバッキングが印象的。
1966.5.9-11録音
この小説中に出てくる他の音楽・ミュージシャンなど
- 上巻
- 121頁 フルトヴェングラー、ベルリン・フィル
- 161頁 ジョニー・マティス「ティーチ・ミー・トゥナイト」
- 142頁 「アニー・ローリー」
- 152頁 ロベール・カサドシュの弾くモーツァルトのコンチェルト(23番・24番)
- 320頁 デュラン・デュラン
- 348頁 デュラン・デュラン
- 376頁 「ペチカ」
- 377頁 「ホワイト・クリスマス」
- 380頁 エルトン・ジョン
- 390頁 ステッペン・ウルフ「ボーン・トゥー・ビー・ワイルド」
- 下巻
- 164頁 デュラン・デュラン
- 171頁 ジミ・ヘンドリックス、クリーム、ビートルズ、オーティス・レディング、ピーター・アンド・ゴードン「アイ・ゴー・トゥー・ピーセズ」、デュラン・デュラン
- 198頁 ポリス
- 199頁 マッチ、松田聖子、ボブ・マーリー
- 200頁 レゲエ、ジム・モリソン、ドアーズ、レーモン・ルフェーブル・オーケストラ、ポルカ、ヴェンチャーズのクリスマス・ソング
- 237頁 ブルックナーのシンフォニー、ラヴェルのボレロ
- 243頁 ボブ・ディラン「ウォッチング・ザ・リヴァー・フロー」、ジョージ・ハリソン
- 244頁 ボブ・ディラン「ポジティヴ・フォース・ストリート」、スティーヴィー・ワンダー
- 245頁 ビートルズ、ドアーズ、バーズ、ジミ・ヘンドリックス、ボブ・ディラン「メンフィス・ブルーズ・アゲイン」
- 246頁 ボブ・ディラン「ライク・ア・ローリング・ストーン」
- 260頁 「ブランデンブルク・コンチェルト」
- 262頁 カール・リヒター
- 263頁 トレヴァー・ピノック、パブロ・カザルス
- 275頁 ポリス、デュラン・デュラン
- 278頁 パット・ブーン「アイル・ビー・ホーム」、レイ・チャールズ「ジョージア・オン・マイ・マインド」
- 300頁 ボブ・ディラン、ロジャー・ウィリアムズ「枯葉」
- 301頁 フランク・チャックスフィールド・オーケストラ「ニューヨークの秋」
- 337頁 ボブ・ディラン
- 340頁 ボブ・ディラン「風に吹かれて」
- 341頁 ボブ・ディラン「激しい雨」