◯『浮世絵』第十六号 (酒井庄吉編 浮世絵社 大正五年(1916)九月刊)
(国立国会図書館デジタルコレクション)
◇「浮世絵問答」
〝問 家蔵肉筆扇面中に、別紙複写の如き筆意の浮世絵美人有之、冠登斎といふ落款に蛇の目傘の女の印
章を押捺致居候、冠登斎は何人に候哉(福島夫山生)
答 冠登斎とは戯作兼画家たる百斎久信の別号であらうと思ひます、御送付の絵を見ますと、北斎の筆
に似た所があり、印章の画などは北斎ソツクリです、久信は北斎の門人であつて、師の別号載斗に
因んで貫斗と号しました、その「貫斗」をば「冠斗」といふ字に変へたものと推考します、加之、
貫斗は文化頃に黄表紙などの作画をやつた外、彩色摺の軟画大版十二枚物や軟本の挿画を多く描い
て居まして、それが御送付の画と同筆意です、又北斎門人の月光亭墨僊の筆に似た所もあるので、
墨僊と混同する人もありますが、笑印屋はそれを北斎筆と称して居ります、彼是で冠登斎は貫斗に
違ひあるまいと鑑定するのです、御複写の絵は参考品とて永く保存致しませう〟